ダーク・ファンタジー小説
- (2)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 ( No.8 )
- 日時: 2012/06/11 14:05
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/4/
「——僕はまだ死ねないんだよ。ユウ……」
自分に銃口を向けるユウに静かに語りかけると。クラウスは小さく息を吐きながら右手のリングを優しくさすった。
「——自由無き鎖(カーズドチェイン)」
その声に呼応してクラウスのリングが輝き始める。そして、そこから光を帯びた無数の鎖が飛び出し、四方八方へと展開した。
さながら翼を持つ鳥の自由を阻むかのように展開した鎖の壁にユウは臆する事無く、構えた拳銃の引き金を引く。
「バン!」
と、乾いた銃声と共に放たれた弾丸は交差状に阻む鎖の壁の隙間を縫うように、クラウスの元へと突き進む。
風を切りながら進む弾丸に対してクラウスは、展開させていた鎖を用いて弾丸を容易く絡め取る。そして、そのまま弾丸を押し潰し。余計な行動を取らないように直接ユウに対して複数の鎖を放ち……。
——彼を拘束した。
身体に絡みつくクラウスの鎖が首などを強く締め、ユウは苦悶な表情を浮かべる。顕現させていた武器も強制的に彼が身に付けるネックレスに収まってしまう。
ユウがもがくほど鎖の拘束力が増し、それと伴い彼の抵抗力も低下して行く……。
「もうやめて! 兄さん!」
今にも泣き出しそうなほどに震えた声で叫んだクラリスはクラウスに——実兄に向けて自らが保有する二丁拳銃を構えた。
彼女の行動にクラウスは静かに微笑む。
「……僕は君ともやりあいたくない。だから、僕の所においで、クラリス……」
「私は行かない。ここで兄さんを止める。だから——」
「ふぅ〜」と、クラリスが小さく息を吐くと。徐に左手の薬指にはめたリングに優しくキスを施した。
それに呼応して、宝石が輝き始める。
「はぁ〜。折角、ここへ招いてあげたのに残念だな……」
戦闘モードに入ったクラリスの姿を見て、クラウスは嘆く。
その嘆いた言葉を聞き逃さなかったトウヤが「なるほど……」と感慨深く頷くと、
「——クラリスを呼び出すためのデマ情報だったって訳か……」
小さくそう口ずさんだ。
「ご名答。トウヤくんには簡単なクイズだったかな? でも、まぁ〜それも失敗に終わったみたいだけどね」
手を叩きながら軽い口調で話すクラウスにトウヤは「チッ……」と、舌打ちをする。
最初からこの仕事は成立していなかった。ただ、クラウスの策略にはめられただけである。トウヤが感じた違和感はあながち間違いではなかったと言える。
すると、準備が整ったクラリスがクラウスの事を見据え、
「——無悲慈な(ハートレ)……っ!」
唱えた。
が、言葉を言いきる前にクラウスは鎖を用いて彼女が携えている二丁拳銃を抑え込もうと、腕ごと絡め取り。動きを封じた。
そのまま、ゆっくりとした足取りで彼女に近づいて行く。
そして、クラリスに何か耳打ちをした。
その内容は芳しくないモノであると、クラリスの態度を見れば一目瞭然だった。
耳打ちをされている際、クラリスの身体が震え、涙を流し。その調子で呆然と立ちすくんだのだ……。
もう伝えるべき事は伝え終わったのか、クラウスはクラリスに優しく微笑み掛けながら頭を撫でると。彼女が身に付けるリングに手を翳し、
「——おやすみ、お姫様……」
その言葉と共にクラリスが身に付けるリングに装飾されている銀色の宝石が黒く、くすんだ色に変貌してしまい。それと同時にクラリスが力無く床に倒れ伏せてしまった……。
「……クラ……リス……っ!」
鎖に拘束されながらもクラリスに手を伸ばすユウ。
——だが、彼が必死に手を伸ばそうとしても、その手は彼女に届く事はない……。
トウヤもこの状況をどうにか打破しようと考えを巡らすが、何も良い案が思いつく事はなかった。
動きたくてもクラウスの鎖が邪魔で動けずにいた。
トウヤが持つ双剣で叩き斬ろうと思えば簡単に出来た。
しかし、クラウスの鎖は少しでも触れようものならその者に対して、容赦なく拘束するようになっている。そして、一番の要因は——この空間がもう、彼が展開した鎖に支配されている事である。
だからこそ、この下手に動けない状況下に対して、クラリスやユウなどの遠距離攻撃が可能な人物が得策だった。
——だが、今はもう……。
「——さぁ〜これで邪魔者はいなくなった。革命の時間だ!」
両手を大きく広げて、口元を歪め、凄惨な笑みを浮かべるクラウスは視線をガラス張りの大きな筒の中で眠る胎児に向けた。
四方八方に展開した鎖と彼が持つ細身の剣を用いて、胎児が入った器に攻撃を加える事数回——容易にヒビが入り、そこから液体が飛び出す。
すると、騒がしい外界に触発されてか。突然、胎児の目が開く。
だが、そんな事はお構いなしにクラウスは破壊をし続ける。
——壊して、壊して、壊し続ける。
そして、彼の刃が胎児に触れた瞬間!
胎児が直視も出来ないほどの強い光を放ち、辺りを包み込むと。
その現象はこの施設を中心に半径数キロに渡って展開し、トウヤたちはその光と共にそのまま姿をくらましてしまった……。
——後にこの現象は施設のあった山岳地帯の名称を用いて「クラトリアミラージュ」と呼ばれるようになった……。