ダーク・ファンタジー小説

(2)第一章 〜再会と旅出〜 其の二 ( No.12 )
日時: 2012/06/12 21:50
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/6/

 ——現在。
 銀髪の少女が眠るベットの横にある窓をレアは開けた。
 心地の良い風が部屋に吹き込み、白のレースカーテンがなびく。
 そして、ベットで眠る少女の銀髪が風でなびく度に「キラキラ」と、煌めく……。

 「……帰ってたのか、レア……」

 少女の事を見守っていた黒髪の少年が静かに呟いた。

 「……はい。——クラリス様は相変わらず……でしょうか?」
 「……ああ。眠ったままだよ……」
 「……そう、ですか……」

 レアは銀髪の少女——クラリスの額に乗せていたタオルを取ると、新たに汲んで来た水に濡らし。それをクラリスの額に再び、乗せ。
 眠っている彼女の白い頬を這わすように優しく触れた。

 「……いつ見ても綺麗な肌。そして、可愛らしい寝顔です……」

 微笑みながらレアは眠るクラリスにそう投げかける。
 その表情は娘を見守る母親のように優しく、そして温かなモノだった。

 「——そう言えば、ユウ……」

 唐突に思い出したかのように口ずさんだレアは黒髪の少年——ユウに視線を向けると表情がクラリスに投げかけていた優しいモノからかけ離れ、凶悪なモノになった。
 その表情にユウは心当たりがあるのか、堪らず顔を引きずる。

 「……いつもいつも申しておりますが、食べ終わった食器は最低限……水にさらしておいてください」

 笑顔は笑顔なのだが、含みを持たせた凶悪的な笑みの彼女の姿にユウはたじろぐ。

 「……ほ、ほら。クラリスが目を覚ましたら、近くに誰かいないと——」
 「クラリス様をだしに使わないでください」

 さらに凄みが増したレアの笑みに完敗とばかりにユウは、

 「……す、すいません。今度から気を付けます……」

 素直に頭を下げて謝った。
 命の恩人とあって頭が上がらないようである。

 「……はぁ〜、全く……。このやり取りもこれで何度目ですか……」

 額を押えてレアは呆れ果ててしまう。
 毎回同じような流れになり、相当参っているみたいだ。
 レアに命を救われ、ユウたちがここに暮らし始めて早一年三ヶ月……。

 ——当初の彼は相当荒れていた。

 それは言うまでも無く、クラリスの兄——クラウスに対して。
 そして、自分の不甲斐無さに対して……。
 彼は毎晩ふらっとどこかに出かける度に傷を負って帰って来ていた。
 その度に傷の手当てをレアがする事になるのだが、ユウはそれを頑なに拒み続けた。

 彼には——この世界に住む人間には治療は不必要だった。

 レアもその事について重々承知の上だったが……傷つき、壊れて行くユウの姿を見ていられなかった。
 だから「せめて傷の手当てだけでも」と拒み続ける彼と正面向かって接し続け……。
 それが功を奏したのか。——今では彼の心の支えとしての大切な人となっている。

 「——ずいぶんと買い込んで……何を買って来たんだ?」

 保存庫を漁りながらユウがレアにそんな言葉を投げかける。
 喉が渇いたユウはキッチンに飲料水を取りに来ており。その最中、いつもに増して保存庫の中が充実しているのに気付き、その事を尋ねたのだ。

 「そうですね、野菜や豚肉などを……。——あっ、そうそう。トニスさんがユウの事をミンチにしてやると申しておりましたよ」

 淡々と恐ろしい事を話すレアはキッチン隣にあるリビングのソファーで優雅に紅茶を嗜む。
 そんな彼女の言葉にユウは眉をひそめる。

 「は? 俺……あの人に何かやったか?」
 「ええ、色々とやらかして仕舞われましたからね……」

 と、感慨深く頷きながらレアはその話題を推し進める。

 「ふむ」と、ユウは自分にどういった非があったのか思い浮かべ始めるが……。

 ——そんなものは初めから存在しない。

 どこぞの腹黒袴っ子がホラを吹き。
 精肉店の店主「トニス」を激高させ、そういう言葉を引き出したに過ぎない。
 そうとも知らずに真剣に頭を悩ますユウの眉間には山が連なっていた。

 「——そういえば、ユウ。また、髪の毛が伸びましたか?」
 「何だよ、突然……」

 飲料水を手に持ってキッチンからリビングに現れたユウが首を傾げながらそう返す。
 そんな彼の髪は現在、背中まで達しており。
 このまま放置していれば。いずれは腰にまで達するかも知れないほどに伸びていた。

 彼の女々しい顔立ちを考慮すれば、少女にしか見えない様相である。
 ただ、口の悪さと素行の悪さで一瞬にして見破られてしまう。
 しかし、口を利かなかったり、大人しくしてればバレないかも知れないが……。

 「……エロガキですね」

 唐突に告げられた言葉に「ブゥー!!」と、ユウは口に含んでいた飲料水を吹き零し、少し苦しそうにむせ返った。
 その様をレアは口元を押えて微笑む。

 「——突然、何言ってんだよっ!」

 と、怒号を上げながらもレアの隣に重い腰を下ろした。

 「ほら、よく言うじゃないですか。ハレンチだと、髪が伸びるのが早いと……」

 そんな事を言いながら、ふと——ユウの髪と下半身をまじまじとレアは見比べる。
 レアの妙な視線に気付いたユウは咄嗟に髪と下半身を手で押さえた。

 「……やはり、エロガキですね」
 「何でそうなるんだよ!」
 「怖い怖い……。レアも取って喰われるのですね……」

 徐に身体を隠すようにレアは掻き抱く。
 彼女のその姿にユウは額を押えて、

 「……それは無いから安心しろ。だって、お前——」

 と、言いかけている途中で何かに気付き。表情を曇らせて口ごもった。
 そんなユウの気遣いとも取れる行動にレアは大きく嘆息をする。

 「……そのような表情をされてしまうと。レアに何か後ろめたい事があるようじゃないですか。——ホント、アナタは不器用ですね……」

 そう話しながらレアはユウの手を掴んで、その手を自分の胸に押し当てた。

 「——ほら。そんなにヤワな身体じゃないですよ」

 淡々とそんな言葉を投げかけるレアだが。
 突然の事にユウは間抜け面をさらし、目が泳いでしまう。

 「……何か申してください」

 一言も言葉を発しないでただただ挙動不審なだけのユウの事をジト目で見つめながらレアは感想を促す。
 その言葉にユウは「はっ!」と我に帰り。開口一番に、

 「お、おう! ——案外、柔らかい物なんだな……」

 頬を紅く染めながらそう返答した。
 しかし「何か言葉を言え」と尋ねた、当の本人は求めていた返答と違ったのか。首を傾げながら眉間にしわを寄せていた。

 「——う〜ん。……微妙、ですね。はい、普通過ぎます。ありきたりと言いましょうか……。これも間違いって訳では無いのですが……もう少し捻った返答をですね〜……」
 「……お前は俺に何を求めているんだ……」

 呆れながら呟いたユウはレアの胸に押しつけられた手を引っ込めるが……。
 少々、名残惜しいのか、自ずとその手を眺めた。

 「——ユウ、そろそろ夕食の準備をいたしますので手伝ってくれませんか?」
 「お、おう!」

 突然、レアに話しかけられたものだから、ユウは声が上ずってしまった。
 そんな彼にレアは首を傾げたが、特に言及する事は無く。キッチンに向かい。
 それを追うように、ユウもキッチンへ向かった……。