ダーク・ファンタジー小説

(1)第一章 〜再会と旅出〜 其の三 ( No.14 )
日時: 2012/06/13 22:03
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/7/

 ——同日早朝。
 首都「エストレア」第三階層、中央ターミナル。
 ここ中央ターミナルは首都エストレアの玄関口で。
 ここから世界各地に向かって列車が出ている。
 世界最大級のターミナルステーションである。

 そのため、この都市一、二を争うほどに人で混雑する事が必至で、早朝にも関わらず大勢の人が構内を行き交っていた。
 そんな場所に、目が半開きながらも始発列車の乗車券を購入しようとしている若い男女の姿があった……。

 「ラカルト方面行き、大人二枚、子供一枚。よろし——ぶへっ!!」

 注文していた茶髪紺眼の凛々しい顔立ちの少年が、赤髪セミロングの「くりっ」としたお目々が可愛らしい紅眼ロリっ子少女に足を思いっきり踏まれた。
 その小柄な少女は自身の低い身の丈を高く見せんと。

 ——高さ十センチほどある厚底ブーツを履いていた。

 「……ラカルト方面行き、大人三枚でよろしくお願いします……」

 涙目になりながら茶髪の少年が乗車券の注文を訂正する。

 「……全く、最初からそう注文しろっての……」

 腕を組んで、茶髪の少年の事を凄い剣幕で睨みつける小柄の少女は本当にイライラしているのか、足を忙しなく動かす。
 そのような光景をベンチに座って微笑みながら眺める。

 ——淡茶色の髪にカールを施した碧眼グラマラス少女がいた。

 今、この瞬間でも大勢の人が行き交う構内の中でも目移りしてしまうほどに映える彼女の美貌に、見惚れた野郎共がこぞって鼻の下を伸ばす。

 そうこうしている間に、券売員である自動人形が茶髪の少年に乗車券とお釣りを手渡し丁寧にお辞儀をした。
 それを持って茶髪の少年と小柄の少女は、ベンチで座っているグラマラスな少女の元へと足を運ぶ。と、

 「——待たせたな。ミュリア」

 茶髪の少年が気さくに声を掛け。
 ベンチに座る彼女「ミュリア」と呼んだ少女に乗車券を手渡した。

 「……アンタがおかしな事を言い出すのがいけないのよ」

 小柄な少女が待たせた原因を作ったのは「お前だろ」とばかりに、茶髪の少年の事を軽く睨む。

 「ふふふ、ご苦労様ですわ」
 「——で、こんな朝早くからラカルトに何しに行くってのよ」

 面倒臭そうにぼやいた小柄の少女は徐に辺りを見渡す。

 ——早朝の中央ターミナル。
 ラッシュ時に比べればさほど人は多くないものの、まだ辺りにモヤがかかっている。
 このような時間帯にもそれなりの人がいるにはいるが「眠いたい身体に鞭を打ってまで行かなければならない用事なのか」と、小柄の少女は疑問に感じたのだ。

 「え? 言ってなかったか? 仕事だよ、仕事……。それとまぁ〜野暮用かな……」

 その質問に茶髪の少年が頭を掻きながら答えた。

 「……ふ〜ん。ラカルトくんだりまで行ってねぇ〜」

 腕を組み、眉間にしわを寄せながら思案顔になる小柄の少女に。
 ミュリアは優しく微笑み掛けた。

 「——アリス。淑女がそのような表情を浮かべてはいけませんよ」
 「はいはい、今度から気を付けるわよ」
 「さ〜てと、そろそろ行くか……」

 ミュリアに「アリス」と呼ばれた小柄の少女の頭を撫でながら茶髪の少年がそう呟く。
 と、それに女性陣は小さく頷いた。

 そして、ミュリアに預けていた旅行カバンを各々手に取り。
 ラカルト方面行きの列車が止まった十三番ホームに向かい。
 そのまま列車に乗車した。

 車内に入ると、乗車券を眺めながら茶髪の少年が先頭を歩き。
 その後ろをアリスとミュリアが歩く。
 だが、カバンを持って歩くアリスの表情が険しいモノになっていた。
 「はぁはぁ」と、一人だけ息が上がっていたのだ。

 ——それもそのはず。

 アリスが持っているカバンだけがはち切れんばかりにパンパンに膨らんでいた。
 中身については定かでは無いが……。
 おそらく、不必要なモノを入れ過ぎによる過重負担である事は間違いだろう。

 カバンを両手で持ち、それを引きずりながら牛歩のようにアリスが進んでいると。
 ようやく座席を見つけた茶髪の少年がとある個室を指さし、先にそこへ入って行く。
 そして、自分のカバンを個室に置き。急いでアリスの元へと駆け寄ると、

 「——お嬢様、私めにお任せあれ……」

 執事のような態度で代わりに彼女のカバンを持ってあげた。
 だが、

 「……アンタって、一々ウザいわよね……」
 「……トウヤですもの。それは仕様がないかと……」
 「ああ、確かに……。キザヤだから仕様がない、か……」
 「……おいおい。そこまで言われるような事をしたか?」

 親切心から行った事を二人に冷やかにあしらわれ。
 茶髪の少年「トウヤ」は項垂れながらも、アリスのカバンを持って先ほどの個室に入って行く。
 それを追うように彼女らも個室に入って行った。

 彼らが入った個室には向かい合うようして、座席があり。
 景色を眺められる窓側の席にトウヤとアリスが座り、アリスの隣にミュリアが腰を掛ける。
 しばらくして、大きな汽笛が、

 【ブー!!】

 と、辺りに鳴り響き。
 彼らが乗車した列車が徐に揺れ動き。
 ——そのまま目的地に向かって出発した……。

 ——数時間後……。

 すっかり陽が昇り。
 車窓から見える景色には、のどかな田園風景が広がっている頃。
 車内の通路では、両手一杯に飲料水や軽食を大事に抱え。
 足元がおぼつかない茶髪の少年が。

 ——トウヤの姿が、なぜかあった……。