ダーク・ファンタジー小説
- (1)第一章 〜再会と旅出〜 其の四 ( No.16 )
- 日時: 2012/06/14 23:13
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/8/
「……遅いわね、トウヤ」
「ったく、何やってるのよ。あの馬鹿は……」
トウヤの帰りを待つ、ミュリアとアリスは嘆息交じりに愚痴を溢す。
彼女らはテレパスでトウヤに連絡を取ってから、ずいぶん待ち惚けを食らっていた。
そこで痺れを切らしたアリスがトウヤにテレパスを使用したが、どうしてか繋がらず。
アリスのイライラゲージがレッドラインを振り切る寸前の所まで来ていた。
【ガタガタ】
と、力強く床を蹴るアリスにミュリアは苦笑いを浮かべながらなだめる。
が、
「——ああ、もうダメ。耐えられない。このアタシをこれだけ待たせるなんて、あの馬鹿をお仕置きしないと……」
眉間にしわを寄せ、表情を歪めながら発したアリスは徐に衣服に身に付けている可愛らしいブローチに触れた。
彼女がそれに触れた瞬間。
ブローチに装飾された白色の宝石が光を帯び。
粒子状となって、アリスの手中に収まると。それを彼女は装着した。
アリスが身に付けたモノのは、何の変哲もないメガネだった。
だが、そのメガネは普通のメガネでは無く。
メガネのレンズには、とある映像が映し出されていた。
その映像を食い入るように見つめるアリスの視線の先には俯瞰から見た……。
——列車の姿があり。
恐らく、彼女ら乗車している列車のようである。
「——見つけたわ。ミュ—」
と、レンズには誰かと立ち話をしている茶髪の少年……。
——トウヤの姿が列車の窓越しに映し出される。
アリスの投げかけにミュリアは徐に顔を引きずる。
「——えっと、アリス? もしかして……」
「ええ、そうよ。——撃ちなさい」
親指を下方に立て、首元でそれを横に流したアリスの表情は清々しいほどに満面の笑みだった。
だが、それは表面上のもので実際の彼女の表情は凄惨な笑みを溢す、悪魔そのものの様相である。
「はぁ〜」
悩ましげに息を吐いたミュリアは右腕に身に付けているブレスレットに触れる。
と、アリスの時と同様にアクセサリーに装飾された宝石が……。
——青色の宝石が光を帯び、粒子状のモノがミュリアの手中に収まった。
「じゃ〜、映像を送るわよ」
「……了解ですわ」
と、会話を交わし。
ミュリアは徐に瞳を閉じた。
「——予見者の神託(シアースオラクル)」
アリスが唱えた言葉と共に彼女のブローチが強い光を放ち。
それと同時にアリスがメガネ越しで見えている映像、世界がミュリアの脳内に流れ込む。
その脳裏に焼きついた映像を元にトウヤの位置情報を知り得たミュリアは少々気が進まないけれど、手中に収めるそれを……。
——神々しい装飾が施された弓を車窓に向けて構える。
そして、座りながら軽く矢を射った。
【プシュン】
と、放たれた一本の光を帯びた矢は車窓を貫く事無く。
実態の無いそれは車窓をすり抜けて行き。
——そのままターゲットに向かって突き進んだ……。
——トウヤは現在、頭を悩ましていた。
「あっ……」
と、言って呆けて見せたものの変質者三人組の事はこれが初見であった。
——と、彼の中ではそうなっている。
しかし、トウヤは一度。彼らに遇っていた。
が、二年以上前の事でとうの昔に忘れ去っていた。
トウヤたちは首都「エストレア」で「ギルド」と呼ばれる……。
——所謂、何でも屋の仕事を請け負って生計を立てている。
その仕事の際に彼らの変態的な格好からも想像がつくだろうが、盗賊団である彼らと相対し、しょっぴいたのだった。
しょっぴかれた当人たちは当然の事ながらトウヤの事を覚えていて。
今回、偶然にも彼に出会ってしまい、驚きの色を隠せずにいた。
「——えっと、お宅らは所謂……そちらの方々?」
全身タイツの彼らの姿を見て、開口一番にトウヤがそう口走る。
彼の拍子抜けな発言に我に返った三人組は、
『もしや……』
と、何かを悟る。
「——はっはっは……。我らはタイツ愛好家でしてな、こうして旅をしながらタイツの素晴らしさを世に広めようと、活動しているのだよ。だが、タイツだけには留まらず様々なジャンルに富んでいる我らの事を皆……こう呼んでいる。——下半神、と……」
好都合とばかりに赤の全身タイツを身に纏うノッポが大根役者さながらのド下手な演技で流暢に語り。
その言葉に何か考えさせられる事があったのか。
——トウヤが顎に手を添えながら感慨深く頷く。
「——ふむ、やはりそちらの方々でしたか……。良いものですよね。あのアングルから見えるか見えないかのギリギリラインのちらリズム。そして、その境界線上にそびえたるはあの絶景の生足……」
両手の人差し指と親指でカメラのアングルを作って、キザな態度を取るトウヤだが目がとろけていた。
恐らく、彼は女性が身に付ける「ニーソックス」と「スカート」の間に出来る……。
——所謂「絶対領域」と呼ばれるモノについて語っているようだ。
そんなトウヤの傍から見れば意味不明な発言を理解したのか。
——変質者三人組は腕を組み、こぞって共感とばかりに頷く。
「——それは黒かね?」
今度は青の全身タイツを身に纏うチビが凛々しい表情を浮かべながらトウヤにそんな言葉を投げかける。
その問いにトウヤは「ニヤリ」と、気色の悪い笑みを溢し。
「——アンタ、そっちの気があるとみた……」
と、推察した。
「——兄ちゃんも相当な手練だろ?」
「いえいえ、俺なんてまだまだひよっ子ですよ。でも、アリですよね。それも……」
「ああ、興奮するぞ……」
『うひひひ……』
涎を垂らしながら共感した話題に花を咲かせるチビと馬鹿の話題に残された赤と黄の二人もどこかしら共感する部分があるのか。
それとも、今度試してみようかと考えているのか。
どちらにしても分かりかねるが……真剣な表情で彼らは頷いていた。
「——お、俺はパンストも捨てがたいと思う!」
最後に黄の全身タイツを身に纏うデブが食い気味に挙手をしながら、そんな事をほざく。
その言葉に対してもトウヤは「ニヤリ」と、気色の悪い笑みを溢す。
「……なるほど。それでアンタはビリビリ派? それとも、ダメージ派?」
トウヤの問いかけにデブは悩む事無く、
「もち、ビリビリ派」
親指を立てて、はにかんで見せた。
デブの回答にトウヤは感慨深く頷く。
「それもアリですね。しかし、俺はここであえてダメージ派で行かせてもらいますよ。なぜかって? 言わせんな! 恥ずかしい! ——しかしながら俺は恥ずかしげも無く堂々と言ってやりますよ」
と、トウヤは一つ息を吐いて、
「——知らず知らずの内、または知っている上でその状態のモノをお履きになられた方を見ると興奮しませんか? 前者はそれに気付き、顔を紅潮させ。後者は承知の上でその部分をあえて見せて来る……。——いや、ちらリズム精神を忘れずに歩幅やら組み足などを微調節して来るでしょう。その小悪魔的な彼女と恥ずかしげにする彼女たちのダメージ部分から見え隠れする生足たるや、興奮せずにいられないっしょ——っ!!」
興奮して拳を強く握り締め、流暢に話すトウヤの目の前に突然——光の矢が横切り。
その矢はそのまま通路の壁に突き刺さった。
予期せぬ事に馬鹿共は目を「パチパチ」と、高速で瞬きをして。
——揃って馬鹿面を浮かべた……。
——とある個室風景。
「——チッ、外したか……。ミュ—、もう一発よ」
レンズに映し出されている映像を見つめながらミュリアに指示を送るアリス。
その指示にミュリアは苦笑しながら、再び車窓に向かって弓を構え、そのまま躊躇う事無く矢を射った。
「いっけぇぇぇ!!!!」
と、大声で発しながらアリスは指を振りかざした……。