ダーク・ファンタジー小説
- (2)第一章 〜再会と旅出〜 其の四 ( No.17 )
- 日時: 2012/06/14 23:15
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/8/
——現在。
トウヤの目の前を横切り。
そして、壁に刺さった光の矢が粒子状になって消え去った。
変質者三人組にはさっぱり分からない光景ではあるが、トウヤにはこの光の矢だけで十分、何が起こったのか理解出来た。
しかし、それは同時に己の死が迫っている事を指しており、自ずと表情を曇らせる。
すぐさま床に放置したままの貢物を抱き抱え、彼女らが待つ個室に向かおうと足を進めた瞬間。
——トウヤの目の前にまたもや光の矢が横切り、壁に突き刺さる。
その光景にトウヤは少々冷や汗を掻きながらも、
「……わりい、俺のツレの仕業だわ……。——アンタたちに出遭えて楽しかったよ。じゃ〜また、どこかで」
と、はにかみながらそんな言葉を言い残して、トウヤはそのまま走り去って行き。
彼の背中を見つめながら三人組は思わず、手を振って見送っていた。
——トウヤが自分たちの敵だと言う事を忘れて……。
——とある車両風景。
「やべえ! やべえ! やべえ! 俺、死ぬ!」
息を荒らげながら、大声で泣き叫ぶトウヤは現在、彼女らの猛攻を掻い潜りながら個室に全速力で向かっていた。
スイッチが入ったアリスがストレス発散、面白がってそのままトウヤに向けての射撃を継続させている。
今。
この時。
この瞬間にも彼女の、
「きゃははは! さぁ〜逃げ惑いなさい! エロヤ!」
などと言った高笑いが聞こえてきそうなほどの量の矢が、トウヤに向けて上から横からと……。
——ほぼ全方位から壁をすり抜けて降り注いでいた。
ミュリアの矢は、ターゲット以外には命中しない。
したがって、位置さえ把握していればどこに隠れようが彼女の矢はターゲットに向けて突き進む。
ただ、現在の彼女はトウヤに当てる気などさらさらない。
だから、トウヤに命中する——すんでの所で少し外している。
そして、他の乗客たちに迷惑がかからないように細心の注意を払いながらミュリアは事に勤しむ……。
【バタン!】
「——死ぬぞ!」
「はぁはぁ……」と、肩で息をし。
顔に尋常ではない量の汗を滲ませたトウヤが彼女らの待つ個室に現れた。
トウヤのその姿にミュリアは口元を押えながら微笑み。
アリスはトウヤを指さしながら、腹を抱えての大爆笑。
他人事のような二人の姿にトウヤは涙を流さずにいられないとばかりに、抱えていた彼女らへの貢物たちを放り投げて、個室の隅っこで身体を丸め。
——心の中で泣き叫んだ、とさ……。
——トウヤがふてくされてから、数時間後……。
ちょうど、正午を迎えた頃に列車は終点「ラカルト」に到着した。
鉱山都市「ラカルト」の駅は、都市の構造上(クレーター型)上層部に——つまり、地上にあるため「ラカルト」に入るには駅から直結している、南口のゴンドラに乗車しなければならない。
そのため、彼らは現在ゴンドラに乗車して下降中であった。
「——ああ、そういえば。あの列車で盗賊団が現れたみたいだな」
ゴンドラから見える「ラカルト」の街並みを眺めながらトウヤが口ずさむ。
「で、捕まったの?」
スナック菓子を頬張りながらアリスが詳細を尋ねる。
「いや、逃げられてしまったようだ」
「そう……」
「アリス、口元にお弁当が付いてますわよ」
と、アリスの隣に座るミュリアがポケットからハンカチを取り出して、彼女の口元を拭ってあげる。
ミュリアになされるがままのアリスだが、満更でもない表情を浮かべている。
傍から見れば仲の良い姉妹に見えなくもない、和やかなコンビである。
「——ねぇ、トウヤ。そろそろ本当の事を言いなさいよ。ここに来たのは仕事じゃないんでしょ?」
唐突にそんな事を口走ったアリスにトウヤは頭を掻いて、小さく息を吐く。
「まぁ〜、半分正解で半分不正解。——仕事ってのは本当だが、仕事はあくまでついで・……。本命は別にある」
「……その本命ってのは、今朝アンタが言ってた野暮用ってヤツね」
「ああ、そうだ。だが——」
【ブー!】
と、トウヤが話している途中で下層部に到着したのか、警笛が鳴り響き。
ゴンドラの扉が開かれた。
「その話はまた、後でな。——今はまず、仕事仕事〜」
そうはぐらかしながら先にゴンドラから降りたトウヤは職員である自動人形に見送られながら先に街に繰り出した。
「む〜」
トウヤにはぐらかされたアリスは唇を尖らせて「ムッ」となる。
そんな彼女にミュリアは優しく微笑みながら、
「アリス、お楽しみは最後までとっておきましょ、ね?」
と、話し。
それに渋々ながら頷いたアリスはミュリアと共にゴンドラから降り。
自動人形に見送られながら「ラカルト」の街に向かった……。