ダーク・ファンタジー小説
- 第一章 〜再会と旅出〜 其の五 ( No.18 )
- 日時: 2012/06/15 21:08
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/9/
——ギルド「ラカルト」支部。
世界各地にあるギルドの一つで本部は首都「エストレア」にある。
ギルドでは様々な仕事を請け負う事ができ、その仕事内容によって報酬が違う。
当然の事ながら危険なモノほど報酬が高いが、相当の手練でなければただ命を落とすだけだ。
ここではラカルト近辺での仕事依頼が主流である。
「ふむ……。依頼が全然ねぇ〜」
掲示板に張り出されている紙を眺めながらトウヤがそうぼやく……。
——その傍ら。
椅子に腰を掛けて優雅に何かを飲んでいるミュリアとアリスの姿があった。
ここギルド「ラカルト」支部は傍から見れば、ただの酒場である。
しかし、ここはまだ雰囲気があって良い方で、ある街の支部は図書館であったり。
ある村の支部は民宿だったり、と様々な形があるのだ。
「ギルドとしての機能が働けば、場所なんてモノはどこでもいいのじゃ!」
と、総本部たるギルド「エストレア」にいる総括がそう豪語しており。
その街、その村の特色に合ったギルド支部が世界各地に点々としている。
ここは鉱山都市「ラカルト」とあって、鉱員たちの憩いの場たる酒場をギルド支部として構えている。
各々のギルド支部では依頼を受諾する形式が異なり。
ここでは依頼書を掲示板に張り出し、それを支部長に渡せば受諾する事が出来る。
ちなみにギルド「エストレア」本部では、首都にあるだけあってインフラ整備が他の都市よりも格段に進んでおり、自宅からでも受諾する事が出来るのだ。
「——旅の者か? 兄ちゃん」
バーカウンターにいた中年男性が掲示板の前で依頼書を食い入るように見つめるトウヤに声を掛けた。
「え? まぁ〜そうです」
「なら、知らなくて当然、か……」
トウヤの言葉に中年男性は感慨深く頷きながら、
「ここのギルドはほとんど依頼がないぞ」
と、続けた。
「——と、いいますと?」
この投げかけに中年男性は小さく息を吐くと、トウヤの事を見据え、
「……黒の死神。——今はそう呼ばれていないが、ソイツが粗方の依頼をこなしてしまって、ほとんどないんだよ。ここは田舎だから早々事件が起こる訳でもない。だから、ギルドの仕事で生計を立ててる奴なんて滅多にいないぜ」
淡々とそう語った中年男性は最後に、
「仕事を探してんなら、鉱山での働き口なら一杯あるぞ」
そう言い残して酒場のマスターとしての業務に戻った。
「ふむ……」
と、店主の話を聞いたトウヤが何か考えさせられる事があったのか、顎に手を添えて思案顔になる。
彼は「黒の死神」と言うワードが気になっていた。が、
「取り立てて深く考えるまでも無いか」
と、結論付けて彼女らが待機しているテーブルに向かった。
「——で、何か良い依頼あったの?」
テーブルに頬杖をつきながら、戻って来たトウヤにアリスが言葉を掛けた。
「いや、何も無い。至って平和だ、この街は……」
「はぁ? じゃ〜無駄足な訳? ——って、仕事はついで、って言ってたわね……」
「ああ、ついでにもなってないが……。ふむ、ここに来る前に本部経由で確認しとくべきだったか……?」
「今更過ぎる言い分ね……」
計画性の無さを露呈したトウヤにアリスは嘆息交じりにそう話し、ストローに口を運び飲み物を口に含んだ。
「じゃ〜もうお楽しみタイムかしら? トウヤ」
静観していたミュリアが涼しげにそう話すと、その言葉にトウヤは「ふん」と、鼻で笑い、小さく頷いて見せる。
「そう。なら、まずは——」
と、ミュリアは卓上に縦長の紙を広げ始めた。
彼女が卓上に出したのは、この街の地図などが載ったパンフレットで、そのパンフレットに載っている地図を指でなぞりながら……。
——とある施設を一つ一つ指さして行き、最後の一つを指し終えた所で徐にその動作を止めた。
彼女の突飛の無い行動に自ずとトウヤとアリスは首を傾げ。
その反応にミュリアは少し表情を強張らせた。
「——トウヤ、まさかと思うけれど。……予約は取っているわよね?」
ミュリアのこの言葉に、ようやくトウヤは状況を察したのか、
「……ああ、そこん所は抜かりない」
そう力強く頷き返した。
「そう? じゃ〜行きましょう。——荷物を置いてからじゃないと、おちおち観光も出来ないでしょ?」
「ふむ、そうだな……。アリス、行くぞ〜」
「え? ああ、うん……」
少々慌ただしく席を立ったアリスと他の二名は各自の荷物を手に持って。
——ギルド「ラカルト」支部を後にした……。