ダーク・ファンタジー小説
- 第一章 〜再会と旅出〜 其の六 ( No.19 )
- 日時: 2012/06/16 21:40
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/10/
——シアクスの森、レアの小屋。
「——と、言う事なんだよ」
グラスを片手にこれまでの経緯を語った茶髪の少年……。
——トウヤはリビングのソファーに腰を掛けていた。
トウヤたちはギルド「ラカルト」支部を後にして、トウヤが予約していた宿舎に向かったのだったが……手違いで一室しか取れておらず。
——その際に少々一悶着を起こしていた……。
——とある宿舎風景。
「——よし、こうしよう。俺がどっちかのベットに寝るから、アリスとミュリアは俺の隣で寝る権利を取り合ってじゃんけんをしよう」
実に良い案を述べたとばかりにトウヤは腕を組んで、力強く頷いて見せた。
『絶対イヤっ!!』
怒号を上げ、揃って同じ言葉を述べた彼女らはトウヤの事を睨みつける。
その凄みにトウヤは「ビクっ」と身体を強張らせた。
手違いで通された部屋にはベットが二つしかなく、それを取り合って彼らは言い争っていた。
本来なら、男女別々の部屋を希望していた女性陣だったが……。
——とある一人の少年の泣き落としに止む無く納得したのであった……。
「……釣れないぜ、アリスたんとミュリアたん……」
親指をくわえて、少し涙を滲ませながらぼやくトウヤに二人はさらに鋭い眼光で睨みそれを牽制する。
「……そんなにイヤかね、俺の隣に寝るのは……」
「——ええ、そうですわね。何をされるか分かったモノじゃないですもの……」
「——同感よ。何で、エロヤと一緒のベットで寝なきゃなんないのよ。罰ゲームかっての……」
「……信用ねぇなぁ〜。ホント、傷つくぜ……」
「がっくし」と、肩を落としたトウヤを放置し。
結局、彼女らは一緒のベットに寝る結論に至ったのであった……。
——現在。
「……まぁ〜元気そうでなりよりだ。ユウ……」
一年半ぶりに再開した仲間の安否を確認でき、ホッとしたのか、トウヤと……。
——その隣に座るミュリアとアリスは安堵の表情を浮かべる。
彼らがフラフラになりながらここに尋ねて来た際、先方を敵だと思い。
事に当たっていたユウたちだったが、扉の先にはトウヤたちの姿があって。
彼らを見た瞬間、
「……は?」
と、ユウは呆けながら口走ったまま、少しフリーズしてしまっていた。
まさか、こういう形で再開するとはユウは微塵も思っていなかった。
それに最悪の想定も頭の中で思い浮かべていた。
しかし、元気な姿でこうして仲間たちと再会でき、ユウは堪らず……。
——笑みを溢したのだった……。
「——全く、無事なら連絡ぐらい寄こしなさいよ」
「ムスっ」と、唇を尖らせながら話すアリスだが、少し目が赤くなっていた。
何だかんだ言いつつも、再会して嬉しかったようだ。
「——もう、アリスは素直じゃありませんわね。でも、本当に心配しましたのよ、ユウ……」
ティーカップに入れられた紅茶を優雅に嗜みながら、ミュリアはそう微笑み掛ける。
「……すまん」
彼らを心配させた事を素直に謝るユウに対して、トウヤたちは少し呆気にとられてしまった。
本来の彼なら、何があっても謝る事はしない。
捻くれ、冷めた性格の持ち主で口の悪いユウの素直な態度を取る姿は長い付き合いの中で見た者はこの中に誰もいなかった。
ただ、そんな彼の姿を見ている者がいるとしたらそれは——。
「——この辺りはテレパスなど通じませんからね」
淡々とそう呟きながら、お茶菓子を持ってキッチンからレアが現れた。
彼女が言うようにこの辺り一帯はテレパスなどの通信能力、通信機器は通じない。
それはシアクスの森、全域に立ち込める——幻想的な雰囲気を漂わせる要因にもなっているあのモヤのせいである。
微弱な電波すら通さないモヤの作用で、この小屋は外界と遮断されてしまっている。
レアはお茶菓子を客人たるトウヤたちに丁寧に配布して行き、トウヤたちが座る向かい側の席——ユウが座るソファーに腰掛けた。
「どうも、俺はトウヤです」
「アタシはアリスよ」
「初めまして、ミュリアですわ」
レアに対して、改めて自己紹介するトウヤたちに彼女は小さく会釈する。
「はい、よろしくお願いします。レアと申します」
レアも改まって自己紹介を済ませたが、なぜか自分の事をまじまじと見つめていたトウヤに、レアは自ずと首を傾げた。
そのトウヤの視線に気付いたユウは、
「……レア、奴に見られると妊娠するぞ……」
と、淡々とアリもしない事を口ずさみ。
ユウの発言を信用したのか、はたまた乗っかっているか定かではないが……。
——レアは徐に恥じらいの表情を浮かべながら、自らの身体を隠すように掻き抱いた。
「ちょっ! お前、何言ってんだよ!」
『ジ〜』
トウヤの隣に座る——ミュリアとアリスがトウヤに冷やかな視線を送る。
その視線に堪らず、トウヤは自分の顔を見られないよう手で遮断する。
が、ある重大な事実に気付き、その事柄について話さんとトウヤは立ち上がった。
「——見られたぐらいで妊娠なんてするか! 行程を踏まなきゃならんだろうが! 行程を!」
「はぁはぁ」と、荒々しい息遣いになるトウヤだったが、重大な過失を犯していた。
その事に気付いた頃には——彼に対する女性陣の好感度は、だだ下がりであった……。
「……これだから、エロヤは……」
「……ホント、最低ですわ……」
それを他人事のようにユウとレアは見つめており。
ユウは口元を隠して必死に笑いを堪え、レアは感慨深く頷きながら、不気味に微笑む。
どこぞの無愛想少年以外にもう一人。
——イジりがいのある玩具を発見、と喜んでいるような含みのある笑みだった……。
「ああ、もう! 俺の事をどう捉えようがどうでもいいわ! これから俺の事を『トウヤ』じゃなく『エロヤ』と呼べや、コンチクショっ!」
涙ながら怒号を上げたトウヤに、口元を隠して笑いを堪えていたユウがグッジョブとばかりに親指を立てて、彼を褒め称える。
「……はぁ〜。——で、ユウ。我らの姫様は、どこにいるんだ?」
先ほどのお茶らけた態度から一転して……。
——真剣な表情を浮かべながらトウヤがそんな事を投げかける。
その問いにユウならびにレアは表情を強張らせ、揃って視線をリビング奥にある——扉が閉ざされたままの部屋に向けた。
ユウたちの視線を辿ったトウヤたちはその一室を確認し、真剣な表情を浮かべたまま頷くと——トウヤが徐に立ち上がった。
「——じゃ〜涙の再会と行きましょうかね」
と、トウヤがキザな言葉を述べ「姫様」と呼ぶ彼女の元へと——クラリスが眠る部屋に先陣を切って足を進め。
それを追うようにミュリアとアリスも立ち上がり、
「——そうですわね。ハンカチの用意を怠らずに、ね……」
「——何が涙の再会よ、全く……」
態度の差はあるにしても、気持ちは皆同じと——彼女らもクラリスが眠る部屋へと足を進めた。
そして、リビングに残されたユウとレアは互いの顔を見合い、しばらく何も語らず、
「クスクス」
と、小さく笑みを溢すと、徐に立ち上がって彼らの後を追った……。