ダーク・ファンタジー小説
- (1)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 ( No.22 )
- 日時: 2012/06/18 22:12
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/12/
——絶島都市「ディレイト」。
別名、大瀑布都市「ディレイト」。
別名通りここは大瀑布に囲まれた都市で、上陸方法として「飛空艇」と呼ばれる「浮遊機関(エミリアルコア)」を動力源とした空飛ぶ船でしか行けない。
ディレイトは首都エストレアのちょうど真裏にあり、天高くまでそびえ立つ巨大な古塔を中心に石造りの古めかしい街並みが周辺に展開している。
聖都マギア・テラと同じく歴史ある都市である。
都市中心部に立つ古塔には飛空艇専用ドックがあり、ディレイト上空では常に大小様々な形を成した船が飛び交う。ドックには他に停泊している船とは異なった豪奢な造りの飛空艇が一隻あった。
——Estoratte(エストラッテ)。
それがこの船の名である。
停泊時と運航時では、形が異なる一風変わった船。
現在は、身体を休める鳥のように翼を折り畳んで佇んでいるが、運航時には高速飛空艇として、役割を果たす。
エストラッテが飛行する姿を見た者はこぞって同じ言葉を呟くと言う。
——ガルーダが現れた、と……。
そんな曰く付きとも言える、エストラッテの乗組員は現在ディレイトの街を満喫しており、彼らの指揮官たる人物らは街郊外にあるディレイト領主館にて「領主ディル」と折り入った話を展開していた……。
「——そう、ですか。……ご冥福を祈ります」
悲しげな面持ちで呟き、静かに哀悼の意を表した優女。
彼女の名はカトレア。
ミュリアに負けず劣らずの豊満ボディーの持ち主で常に「ニコニコ」と、笑みを忘れない。彼女のしなやかな腕に巻かれたブレスレットに装飾されている橙色の宝石が気品に溢れている。
カトレアは「微笑の女神」と、称されており、誰に対しても公平に接する。
そのため、男性からはもちろんの事、同性からの支持も高い。
ミュリアもその内の一人で、彼女に憧れ——所作などの女性らしい嗜みを常に心掛けている。
アリス曰く——ミュリアの丁寧口調はそこから来ているんじゃないか——と、推測されている。
「……御恩感謝します」
カトレアの正面に座る知的な中年男性——ディルはカトレアの厚意に会釈で返す。
彼は先日、愛娘を流行り病で亡くしていた。そのため、意気消沈気味だったディルではあったが、悲しみに暮れている暇も無く。今、公務に勤しんでいる。
「——ったく、何が何だかさっぱりだ」
カトレアの左隣でぶつくさと嘆くツンツン頭で筋骨隆々とまではいかないが、それなりに良いガタイの男性——アウグス。首の太い彼の首元にはごついネックレスが下げられており、それに装飾されている緑色の宝石が色鮮やかである。
アウグスは見た目とは裏腹に律義で、民衆からの信頼度は高く。
そして、トウヤと結構仲が良かったりする。
「……最近、多いからね」
カトレアの右隣で顎に指を添えて思案顔を浮かべる優男——ルイはアウグスと違い、礼儀作法は忘れずに容姿も端麗で。身に付けるピアスに装飾されている黒色の宝石が怪しく光る度にミステリアスな彼の魅力を引き立てていた。
ルイはそのルックスから女性から絶大な人気を誇る。
——が、トウヤはルイの事を苦手意識していた。
それは「俺とキャラが被る」や「いけすかねぇ〜イケメン」などと、称して一方的に敵対視していた。トウヤと違い、モテモテのルイに対する——まぁ〜ただの嫉妬から来るモノである。
カトレア。
アウグス。
ルイの三名は「枢機卿」と呼ばれる高官で別名「三銃士」とも呼ばれており、首都エストレアの最高権力者である「クライヴ教皇」の元で働いている。
——そんな彼らが遠路はるばるこの地に赴いたかと、述べると……。
ここディレイトでは近年、前述した「流行り病」で亡くなる者が他の都市に比べ多数現れ。その調査でここに訪れていた。
この流行り病によって、彼女の——レアの雇い主も亡くなっている。が、未だに原因究明が果たされていない、未知の病である。
「ディル様には少々酷な質問かも知れませんけれど、亡くなられた方々の様子に変化はありませんでしたか? 些細な事でも構いませんので……」
先方を気遣うように優しく語り掛けるカトレアの表情は未だに憂いたままで、自分の事のように親身になっていた。
彼女の問いかけに、ディルは首を横に振り。
「いえ、特に変わった様子はありません。……御助力出来ず、すみません」
思い詰めたような重々しい表情を浮かべたまま、ディルは頭を下げる。
ここ最近、立て続けに彼の所に舞い込んで来る訃報に相当参っているようである。ディレイトの領主として、民たちの身を案じ、早急に事を対処しなければならないのだが、現状打つ手無し。
指をくわえて、ただ迫り来る謎の脅威によって打ちひしがれるしかない。
それは枢機卿の三名も同じ。
この病が流行してからの数年間、全くと言って良いほどに成果を上げられずに現在に至っている。
その苦悶の日々たるや……。
凄まじい葛藤があったに違いない。
ディルと同じく、自分たちを支持する民たちの不安を少しでも拭おうと最善を尽くしているが、結果は実らずにいる。
「……そう、ですか。——ご協力、感謝します」
会釈をするカトレアを倣うようにアウグス、ルイも頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ……。遠路はるばるありがとうございます」
軽い挨拶を双方は交わし、この会談はここで幕を閉じた……。