ダーク・ファンタジー小説

(2)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 ( No.25 )
日時: 2012/06/19 21:11
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/13/

 ——数時間後。

 首都「エストレア」第三階層、中央ターミナル。
 昨日、トウヤたちが訪れた時とは違い。
 中央ターミナル内にはこれから世界各地へと赴かんとする人々や観光もしくはトウヤたちのように帰省した人々の群れが川の流れのようにうごめいている。

 ——その中にトウヤたちはいた。

 なかなか思うように進まない現状にある少女はイライラして、足を忙しなく動かしながら舌打ちをし。

 ある少年は久しぶりの故郷に心を躍らせ。

 ある少女は涼しげに微笑む……。

 そして、ある少年は人が多く、揉みくちゃ状態になってる事を良い事に——押し付けられている柔らかい感触を堪能しながら鼻の下を伸ばす……。

 各々募る想いを胸に抱きながら舞い戻った首都「エストレア」は地下二階、地上十階の超巨大タワー型シェルター都市で、この世界「エミリア」の全人口の半分近くはこの都市に住んでいる。
 階層ごとに都市の機能が別れており、玄関口たる第三階層。
 第一階層と第二階層は下水処理施設やごみ処理施設などの公的処理施設がある。

 第四階層から第十階層には居住区や商業施設などがあり、階層が一つ上がる度に等級が変わり、第九階層と第十階層はいわゆる貴族区画となる。
 第五階層にはエアポートがあり、飛空艇で遠方に向かう際に使用する。
 ただ、列車より料金が高めで、目的地も列車に比べやや少ない。

 そして、第十一階層には研究施設などがあり、ここは基本的に関係者以外立ち入り禁止階層となっている。
 そこにトウヤたちは知り合いでもあり、育ての親でもあるギルドの総括兼首都「エストレア」の最高権力者「クライヴ教皇」の許しを請い、立ち入らんとしていた。

 ちなみに第十二階層は、名目上あるとされているが——実際の所、第十一階層より上はただ空が広がっているだけで何もなかった。
 最高権力者である教皇に尋ねれば、何か分かるかも知れないが……。

 「——ふぅ〜、やっと抜けた〜」
 「……全くよ」
 「相変わらず、ここは人が多いな……」
 「活気があってよろしいかと」

 ようやく中央ターミナル構内から抜け出たトウヤたちは、人の群れから解放された事でホッとして安堵の表情を浮かべていた。
 ただ、混雑する中央ターミナルを抜けたからと言って、人の量は減った訳でもない。
 トウヤたちが現在、休憩がてら腰を下ろすベンチの周辺を今もなお、大勢の人々が往来している。

 「さてと——ジジイは今どこにいると思う?」

 ベンチに腰掛けるトウヤが自分同様にベンチに腰掛ける他の三人に話しかけた。

 「大聖堂にいるんじゃない? アレでも一応、教皇だし……」
 「ギルド本部にいるって事も考えられますわ。総括ですし……」
 「どこだっていいよ、別に……。見つけ次第、締め上げて無理やり許可を取らせば良いんだから」
 「——おいおい、物騒な事を言うなよ。ご老人を大切にしないといけないんだぞ〜」
 「……感情こもってないですわよ、トウヤ」
 「良いのよ。あのジジイにはそれぐらいの事をしても罰は当たらないわよ。むしろ、世のため、人のためよ」
 「そういうものかしら?」

 『そういうもんだろ(ものよ)』

 区切りがついた所で、トウヤたちは重い腰を上げて、歩き出した。
 この都市を支える巨大な主柱に連なって配備されている筒状の転送装置「エスカルト」と呼ばれる装置に大勢の人が乗り込む中、トウヤたちもその装置の一つに乗り込む。

 ——と、重力など関係なくそのまま吸い寄せられるよう形で上層部に向かって、トウヤたちは上昇して行った……。


 ——首都「エストレア」第六階層、居住区第四番地。
 第三階層にある中央ターミナルから世界各地に向かって伸びる線路がミニチュア模型にしか見えぬ高さを誇る第六階層。が、それでも地上数千メートルしかない。
 最上階である第十一階層は地上八千メートルを優に超す場所にある。

 ここ第六階層の居住区にトウヤたちが暮らす自宅兼アジトがあり、

 「ジジイに会う前に下準備が必要」

 と、言うトウヤの発言で立ち寄る事になった。
 アジトには各自一部屋、プライベートルームを所有しており、各々の嗜好に染まっている。
 ユウの部屋は何の飾りっ気のない殺風景な場所にポツリと、中央にベットが置かれてるだけの寂しい内装。

 隣のクラリスの部屋は彼女の趣味なのか、ツギハギだらけのブサイクなぬいぐるみや土産コーナーで良くある意味の分からない置き物などが小奇麗に並べられた部屋の中にレースが付いたお姫様ベットがある、少し童話っぽい内装。

 クラリスの部屋から少し離れた所にアリスの部屋があり、そこには小難しい書物や古書などが乱雑に置かれた——お世辞にも綺麗とは言えない場所に彼女は適当にスペースを確保し、そのまま床でゴロ寝している、ごみ屋敷的な内装。

 その隣にあるミュリアの部屋はアリスの部屋と違い綺麗に整理整頓され、クラリスの部屋とは違い、年頃の女の子らしい可愛いぬいぐるみや小物などが小奇麗に並べられた部屋の中にゆったりと出来る大きさのベットが置かれている、お嬢様っぽい内装。

 そして、リーダーであるトウヤの部屋に——ユウと部屋の主たるトウヤは足を踏み入れており、ユウの部屋とは違い、オシャレなインテリアなどが置かれ、部屋にあるクローゼットの中をトウヤが、

 【がさごそ】

 と、何かを模索していた。
 しばらくしてその何かをようやく探り当てたのか、クローゼットから徐にそれを引っ張り出すと、ユウにこれ見よがしに提示しながらトウヤは気色の悪い笑みを浮かべたのだった……。