ダーク・ファンタジー小説

(2)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 ( No.27 )
日時: 2012/07/02 21:30
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/14/

 ——首都「エストレア」第十一階層。
 白衣を着た人間の姿が目立つ、このエリアは研究所しかないと言っても過言ではない。
 そこに場違いな格好をした四人組が堂々と歩く。

 大聖堂がある第十階層と違い、上には何も遮るモノが無い最上階……。
 見渡す限り青い景色が広がっている。
 視線を下界に向けると雲海が広がっており、雲より高い位置にいるのだと思い知らされる。

 トウヤたちは初めて足を踏み入れる第十一階層に心を躍らせながらも案内モニターに映し出されている道筋通りに足を進める。
 この先に彼らが求めるモノがある……。

 しばらく進んでようやく辿り着いたドーム型の大きな施設——パーソナルジェム研究所に彼らは教皇からの許可書を提示しながら中へ入って行った……。



 ——首都「エストレア」第十階層、大聖堂執務室。
 ミュリアの色気に惑わされ、昇天したクライヴ教皇は未だにその状態のままだった。
 彼らが去って、しばらくすると、トウヤの予想通り——メガネを掛け、きっちりとスーツに身を包む、いかにも融通が利かなそうな堅物女性が執務室に訪ねて来た……。

 「——失礼します」

 「コンコン」と、軽く扉にノックをしてから、入って来た堅物女性——ミヤは正面に広がっていた光景を目にして「はぁ〜」と、額を押えながら嘆息を吐く。
 そして、そのまま昇天している教皇の傍まで近寄ると徐に教皇の首根っこを掴んで、力の限り揺らした。その際に、彼女が身に付けるイヤリングが揺れ、そこに装飾されている銀色の宝石が「キラリ」と、煌めく……。

 昇天して魂が出てしまっているかも知れない老いぼれにさらなる仕打ちを仕出かす彼女の表情は淡々とした冷めたモノで。
 その行為がしばらく続き、突然「ゴホっ!」と目覚めた教皇がむせ返り、それを見てミヤは掴んでいた手を離した。

 「……わ、ワシを殺す気かっ……」

 「はぁはぁ」と、荒い息遣いになる教皇の言葉にミヤは小首を傾げる。

 「——教皇様。いち秘書たる私が教皇様を殺害して何のメリットがあるとお思いですか? 私はただ天に召されかけていた教皇様に蘇生術を施したに過ぎません。それを凶行だと勘違いなされられるとは思いも寄りませんでした。もし、私が蘇生術を施していなければ、教皇様はあのまま天に召されていたかも知れません。そのため、褒められはしても、非難される覚えはありませんね。それともう一つ——」

 「ああ、それ以上聞きとうない。ミヤちゃんの話は一々長い……」

 子供のように耳を押えながらミヤの話を遮る教皇。
 その態度に大きく嘆息を吐きながらもミヤは唐突に視線を後方に向けた。
 それも普通に向けただけじゃなく、身構えて……。
 教皇もミヤが向ける視線の先——入り口辺りを見据えながら、表情を強張らせる。

 「——もう、怖い怖い……。それが久しぶりに会う、子供に向ける顔ですか?」

 軽い口調でそう話しながら、ゆっくりと教皇たちの元へ歩みを進め——そして、あらわになったその人物を見て、堪らず二人は驚きの表情を浮かべた。

 「——お、お主……」
 「——生きておられたのですね……」

 「——お久しぶりです。お爺様、ミヤちゃん」

 不敵に微笑みながら銀色の長髪の青年が——クラウスが育ての親の元に現れた……。