ダーク・ファンタジー小説
- (1)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 ( No.28 )
- 日時: 2012/07/03 21:16
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/15/
——パーソナルジェム研究所、第一ラボ。
研究所を訪ねたトウヤたちは第一ラボにある休憩室に通されていた。
そこで研究所所長たる「キリク」の到着を待っていた。
トウヤたちはキリクの知り合いで、まさか所長の地位にまで昇り詰めているとは思ってもなく。少々驚いている次第である……。
「——はぁ〜。キリクが所長ねぇ〜。変な気分だな」
「全くね。あのチビスケがパーソナルジェム研究所の所長なんて、世の末よ」
トウヤとアリスが愚痴を溢していると「コンコン」と、扉にノック音が鳴り。
そのまま「ガチャ」と、扉が開いて、そこからアリスとそうそう変わらない小柄の白衣を纏った少年が現れた。
「——やぁ〜。皆、久しぶりだね」
小さく手を振りながら現れた白衣の少年——キリクに一同は揃って腹を抱えて笑いこけてしまう。
「ははは! キリクのその格好、似合わねぇ〜!」
「ぶっかぶかじゃない、アンタぁ!」
トウヤとアリスがキリクの事を指さしながら涙を浮かべて笑い。
残りの二人も笑みを浮かべる。
「そうかい? 僕は結構、似合うと思ったのだけど……」
そう話すキリクの服装はアリスが言うようにぶかぶかだった。
ワンサイズ、いやツーサイズ大きめのモノを着用しているのか、白衣の裾からは手は出ておらず、下に履いているズボンも裾を地面に引きずっている有様……。
不格好なキリクの姿に一同は爆笑したのだ。
「——まっいいさ……。しかし、君たちも相変わらずだね。トウヤは今でも変態紳士なのかい?」
「当たり前だ、コノヤローと言いたい所だが……」
と、徐に女性陣の顔色を窺い始めたトウヤにキリクは「やれやれ」と息を吐く。
「——ユウは相変わらず、無愛想だね」
「ほっとけ」
「——ミュリアは未だにあの変な口調を続けてるの?」
「他人の口調にケチつけないでくださる?」
「まぁ〜いいけど——アリスは相変わらず、ちっこいね」
「アンタが言うな」
一通り再会の挨拶を済ませた所でキリクはある事に気付き、部屋を見渡す。
だが、キリクが求めるモノは見当たらなかった。
「……ねぇ〜、一つ聞くけど——クラリスは?」
この投げかけに一同は表情を曇らせて、口ごもり。
彼らの反応で大方の予想がついたのか、キリクが感慨深く頷いた。
すると、トウヤがポケットからクラリスのリングを取り出し、それをキリクに提示すると——彼の目付きが豹変した。
「——これは……」
リングをトウヤから受け取ると——食い入るように見つめ始めたキリクに、一同は『やれやれ』と嘆息を吐く。
彼は昔から自分の興味を引くような対象を目にすると周りが見えなくなり、自分の世界に入り込んでしまうきらいがある。ただ、そういう性格だからこそ今はこうして研究者になっているのかも知れないと、トウヤたちは思っている。
「——ふむ、強制的に契約が切られている……? いや——ただの加護不全……?」
ぶつくさとリングを見つめながら独り言を話すキリクにトウヤたちは『相変わらずだなぁ〜』と、ほくそ笑む。
しばらくして、キリクは小さく息を吐いて、リングをトウヤに返す。
そして、徐に顎に手を添え、眉間にしわを寄せて思案顔になった。
そんな彼にユウが、
「……で、何か分かったのか?」
真剣な面持ちでそう投げかける。
「——う〜ん、分かったと言えば、分かったと言えるけど……。ただ、一つ——納得出来ない疑問が残っているんだ。それを解消すれば、あるいは……」
「その疑問って言うのは何だ?」
キリクのはっきりとしない言葉にトウヤが嘆息交じりに投げかけた。
その問いにキリクはトウヤたちの事を真剣な眼差しで見据え、
「……これ、やったのは誰だい?」
低い声色で尋ね返した。
彼の言葉に一同は表情を曇らせる。が、小さく息を吐いてトウヤがキリクを見据えて、
「——クラウスさんだ」
「……なるほど。彼が、ね……。なら、納得だね」
トウヤの言葉にキリクは感慨深く頷きながらそう呟く。と、再び自分の世界に入り込んでしまった。
だが、クラウスがやったと彼に伝えた所で何も説明を受けていないトウヤたちには何の事か分からず、小首を傾げてしまう。
そんな彼らの反応に気付いたキリクは「ふむ……」と、どこから説明すれば良いのかと模索し始め、何か妙案が浮かんだのか。手を「ポン!」と、叩いた。
「——うん、所長権限を駆使してトウヤたちを僕のラボに案内するよ。そこなら君たちにも分かりやすく説明出来ると思うから」
「……良いのか?」
突飛な発言にトウヤは心配そうに尋ねる。
所長とは言え、部外者である自分たちを重要施設に連れ込むなんて暴挙がもしバレたりしたら、ただでは済まされない……。
だが、
「——そこん所は大丈夫。ほら、君たちは教皇様の許可を得て、第十一階層(ここ)に来てるんでしょ? もしバレたとしても——許可書を発行した教皇様の責任って事で丸く収まるよ」
と、キリクは不敵に微笑みながらそう告げた。
この言葉に一同は鼻で笑って軽く受け流し、小さく合掌する。
——ジジイ……あばよ、と……。
「——なら、そうと決まれば。キリクの仕事場に行くとしようかね」
リーダートウヤの言葉にユウたちは力強く頷くと、さっさとそこに向かわんと部屋から出ようとした所——キリクからお呼びが掛かり、その足を止めた。
「ん? どうかしたのか?」
トウヤが首を傾げながら問いかける。
「——せめて、白衣だけでも上に羽織ってくれないかい?」
「白衣集団の中で私服姿は不味いと……」
「うん」
「了解——と、言いたい所だが、白衣なんて今は持ち合わせてないぞ。家に帰ればあるにはあるが……」
何気なく口走ったトウヤのこの言葉に女性陣並びに残りの男性陣も顔を引きずりながらドン引きする。メイド服の件もそうだが、そんなモノまでも所有しているとは『この男は……』と、彼の嗜好に引くばかりであった。
そうとも知らず——なぜ、皆が揃いもそろって自分の事を見つめながら顔を引きずっているのか、理解出来ずにトウヤは徐に首を傾げた。
「——ゴホン、白衣の件なら心配しなくともこっちで用意するから。君たちはここで待機しといて」
と、キリクは淡々と話してから白衣を取りに部屋を出て行く。
部屋に残されたトウヤたちは談笑をしながら、彼が戻って来るのを待ち続けた……。