ダーク・ファンタジー小説

序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の一 ( No.1 )
日時: 2012/07/11 01:24
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/1/

 ——幾億もの星々が瞬く夜空。
 重なり合って浮かぶ青と赤の光彩を放つ双月が一際目立つ満月の夜。
 地上数百メートルにも及ぶ高さがある電波塔の外郭の縁に立ち、賑わう下界の様子を眉間にしわを寄せ、目を凝らしながら眺める少年が一人……。

 強風にさらされながらも少年は夜空を見上げ。口元を緩ませ、両手を広げる。
 そして、そのまま下界の光に吸い込まれるかのように、足を進めて唯一の足場であった鉄骨から身体が——離れた。

 しかし、少年は地に落ちる事無く悠然と宙を歩く。

 そこに踏み場があるかのように軽やかに駆け回る。
 少年は夢中で駆け回り。息が上がったのか、その場に倒れ伏せ。仰向けになった状態で夜空に手をかざした。
 眼前に煌めく星々を掴み取ろうと何度も何度も試みるが掴み取る事が出来ず。

 それどころか星々が瞬く夜空から無情にも少年の身体が遠退いていく……。
 その遠退いていく夜空を見つめながら落下する少年の身体は、赤く燃え上がり。風を切るほどの速度まで加速し、ものの数秒で地上に到達しようとしていた……。

 ——その下には歓楽街があり。そこを通る幹線道路では、渋滞する車の群れがクラクション鳴らし。人々も一緒になって騒ぎ立てている。
 チカチカ光る看板がまぶしく怪しげな雰囲気を漂わせるその歓楽街に。突如、不似合いな轟音が鳴り響き、辺りの音が一斉に止む。

 音が止んで数秒ほど経過してから、今度は若い女性の悲鳴が歓楽街に響き渡り、辺りは騒然となった。
 若い女性が身体を震わせ、膝をついたその地面にはおびただしい量の赤い液体が海のように広がり。辺りを赤く染め上げ、なぜか火の粉が舞っていた。

 その液体が流れてくる上流を見据えると、全身の皮膚が剥がれ落ち。人間とは言い難い人型の赤いモノが地面をえぐり、転げ落ちており。
 その人型はほんの数秒の間「ケラケラ」と笑い声を上げた。

 それを間近で見ていた人々は畏怖の表情を浮かべて、逃げまどい。

 ——そして、その人型は数秒後。突然、動かなくなり息絶えた……。