ダーク・ファンタジー小説

(1)第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の二 ( No.8 )
日時: 2012/06/11 21:56
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/4/

 人ごみに紛れて姿をくらましていた流風は人が歩く流れにそって、少し俯きながら歓楽街を南下していた。

 ——そう、牧瀬流風は気落ちしていた。

 いくら情報収集とはいえ、聞きたくもない胸糞悪い話を聞かなくてはならない。
 先の女性たちが話した「ルクエラ」と呼ばれる麻薬の話題でもそうだった。
 流風はあまり女性にそういう類のものに手を出してほしくないと心に秘めていただけに少しダメージを受けていた。

 だが、流風はすぐに気持ちを切り替えて次なるターゲットを模索し始めた。
 彼にとっては日常茶飯事の事で一々くよくよしてもしょうがなかったからだ。
 辺りを「キョロキョロ」と見渡して次なるターゲットを見つけた流風はそのターゲットに近づいて行こうとしたその時。

 ——人ごみの中を横切る見慣れた人物を発見する。

 その人物は流風と同じ五芒星を象った校章が刺繍された白いブラウスに黒いタイを身に付け。赤と黒の格子柄のズボンを履き、無造作に肩まで伸びた黒髪をなびかせて凛々しく歩く女の子のような顔つきの少年だった。

 「——お〜い、彗月く〜ん。こっちに来てたんだぁ〜」

 と、手を振って名前を呼び。人ごみを掻きわけながら彗月に近づいて行き。
 そして、挨拶代わりに彗月の肩を「ポン」と叩く。
 すると、彗月は肩を叩いた流風の手を掴み、

 「……気安く触れんな、カス」

 振り向きざまに鋭い目つきで睨みつけ、叩きつけるように手を振り払った。
 そんな彼の悪態に流風は振り払われた手を胸に置き、目を瞑って天を仰ぐ。
 その眼から一筋の涙が頬を伝って流れていた。

 「——邪魔だ。どけ」

 人の流れを遮るように天を仰いで突っ立ってた流風に、誰かがぶつかりざまにそう苦言を呈した。

 「すっ、すいましぇ〜ん……」

 少しよろけながら誰に対して言ったのか分からない言葉は喧騒に打ち消されてしまった。
 「はぁ〜、都会って手っ厳しいなぁ〜」と呟きながら流風は彗月が歩いて行った方角に足を進めて彼を追いかける事に。

 人ごみを掻きわけてながら裏通りから横道にそれ。
 ラブホテルが立ち並ぶ路地通りを突き進んだ先には、先ほどの通りよりも数倍多い人々が行き交う歓楽街のメインストリートがあった。

 ——片道三車線の大通り。

 遠方からでも見える一際大きい電波塔に向かって伸びる幹線道路の歩道では洋服を優雅に着飾ったマネキンたちが陳列されたショーウィンドーが立ち並び。
 ウィンドショッピングを楽しみながら歩く人々の姿がある。

 道路を挟んで中央分離帯には幹線道路と並行して伸びる緑地があり、等間隔で植えられた木を囲うようにして造られたベンチや移動販売カーが停車している。
 その前で日よけのパラソル、椅子とテーブルをセッティングしてオープンカフェなどが営われていた。

 歩行者の憩いの場と言っても過言ではない緑地帯で額を押えてげっそりと俯いた姿でベンチに佇む彗月を流風は発見した。
 すぐさま、現場へ急ごうとする流風だったが。大通りの信号機はなかなか青に変わらず足踏みとなる。

 青に変わるまで流風は腕を組んで指を「トントン」と動かしてリズムを刻む。
 信号待ちでイライラして行っている訳でもなかった。彼の癖のようなものだった。
 道路によって違う、信号が変わる時間を指で計っていた。こういう大通りではだいたい九十秒で信号が変わると把握していた流風はリズムを刻みながらその時を待つ事、数秒。

 【ピヨっ! ピヨっ!】

 と、鳥のような鳴き声が流れたと同時に信号が青に変わり。
 流風は小声で「ビンゴ」と呟きながら指をならし、その動作の流れから銃口を向けるように信号を指さしてキザな態度を取る。

 「——お〜い、彗月く〜ん」

 ベンチにげっそりとして座っている彗月に手を振りながら駆け寄り、流風は隣の空席に腰かけた。