ダーク・ファンタジー小説
- 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の四 ( No.12 )
- 日時: 2012/06/13 22:10
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/6/
電話を終えてから少し期待薄でSNSを確認する流風。
その期待とは裏腹に少し気になる投稿を発見する。
——投稿者「偶像崇拝」という方から「夢見る愚者と名乗る集団が最近、頭角を現してきた」との情報が投稿されていた。
流風が呼び掛けた情報とは少しジャンルが違ったが「夢見る愚者」というワードに流風は引っ掛かった。
——夢見る愚者。
さきほど閲覧していたサイトにも「魔法遣いを夢見る愚者」と明記されていた。
「これは何かの偶然なのだろうか? それとも……」
と、疑問に感じた流風は詳細を確かめるために「夢見る愚者」と名乗る集団が最近、目撃された場所へ向かう事にした……。
ネットカフェを後にして、SNSに投稿されていた情報を元に流風はメインストリートに戻って最寄り駅である地下鉄を利用する。
そこから歓楽街の北側へと足を運んだ流風は目の前にそびえ立つとある雑居ビルを見上げていた。
ここ衛星都市は電波塔を中心に北部と南部と別れており、流風がさきほどまで情報収集をしていた歓楽街は南側の位置にある。
「夢見る愚者」と呼ばれる集団が目撃された場所は北側のオフィスビルが立ち並ぶオフィス街から少し離れた場所にあった。
「ここか……」
正面玄関側面に掛けられた、所々文字がぽろぽろと欠けたボロボロの門札に辛うじて「第三ビル」と描かれていた。
元々、この第三ビルはどこかの企業が所有していたのだが、数年前に中心街の方へと移転してしまい。そのため、現在はテナント募集中状態のはずなのだが、立地が悪く。買い手が見つかる事無く、そのまま数年経ち。……廃墟と化してしまった。
「旧第三ビル」とも呼ばれるこの建物に「夢見る愚者」と呼ばれる集団が現在もたむろしているかも知れない中、流風は一人建物内に侵入する事に。
建物内は吹き抜けとなった窓から光が差し込むが、少し薄暗くて長年放置していただけあって。ほこり臭く、所々ヒビが入り、配管や配線がむき出しのボロボロの内装だった。
一階のフロア内を探索し終わって、続いて上のフロアに向かう途中に流風は一つ気になってしょうがない事があった。
「……それにしてもさっきから臭うこの臭いは、何?」
流風は不快感を露わにして鼻を少し腕で塞ぐ。
一階を探索中にも臭っていた謎の臭い。
それが二階に上がる階段の踊り場辺りで少しだけではあったが強く感じられた。
それは何かを燃やし、焼け焦げた匂いにも似た臭いだった。
鼻を腕で塞ぎながら一歩一歩、階段を上って行き。
臭いがする方向を辿って、四階のとある部屋の前に流風は立ち止まる。
なぜか、その部屋だけは他の部屋と違ってしっかりと扉が取り付けられており、最近取り付けられたのか真新しい扉だった。
「……ここから臭う」
流風はドアノブに手を伸ばしてゆっくりと扉を開け。隙間からあの謎の臭いが漂ってくる中、部屋の様子を窺った。
外界からの光などが入り込まないように密閉された空間。
その部屋を囲うように置かれた燭台。そこに灯る蝋燭の火の明かりだけが照らす薄暗く煙が立ち込める部屋の中に黒装束姿の人物たちがおり。部屋の中央で円陣を組んで、何かを囲うように向かい合って座っていた。
「ふぅ〜」と少し息を吐いて流風は安堵の表情を浮かべる。
臭いの原因があの燭台が焦げた臭いだと分かったからだ。
しかし「あの三人はこんな所で一体何をしているのか」動向を探るために流風はそのまま様子を覗う事にした。
「さぁ〜我らの大司教が今宵、政府の懐刀である時統べる魔女の討伐を決行する! しかし、時統べる魔女には優秀な眷属どもが五名いるとの情報がある」
流風に大きな背を向けて座っている大柄の人物が両手を広げながらそう熱弁する。
「そこで、その眷属どもの足止め及び討伐に我ら使徒が受け持つ事になった」
続いて、流風に背を向けて座っている大柄の人物の左側に座っている、少し細身の人物が声高だかにそう発言する。
「他の同志たちはもう動き出している。我らのターゲットはコイツだ」
最初に発言した人物の右側に座る小柄の人物が中央にある何かを指さした。
どうやらこの三人はターゲットの「時統べる魔女」と呼ばれる人物の直属の部下である眷属たちの内の一人が写った写真を囲って作戦会議をしている模様。
黒装束の三人の会話をこっそり聞いていた流風は額を押え、呆れ果てた表情を浮かべながら嘆息を吐く。
「なんて馬鹿な連中なのだ」と嘆くような深い嘆息を吐いた流風は頭を掻き、少し気乗りしないながらも黒装束の馬鹿な作戦を阻止するために動き出した。
「——なぁ〜に、物騒なお話をしてらっしゃるのお兄さん方。僕もその作戦に参加してもいいですかぁ〜」
開けた扉にノックをしながら軽い口調でそう述べた流風が現れ。黒装束の三人は深く被ったフードで表情を窺えないものの、少し口を開いて呆気にとれているように見受けられた。
「なになに。だんまり決めちゃって。僕の登場にびっくりしちゃった?」
少し相手を煽るような発言した流風に対して、背を向けて手前に座っていた大柄の男が突然、腹を抱えて大声で笑いだした。
密閉されていた空間の中に響き渡る低い笑い声。
他の二人もその人物に釣られるように笑い始める。
そんな彼らを流風は首を傾げながら見届ける。
「なぜ、突然笑い出したのか」と理由を探りながら……。
そして、黒装束の三人はしばらく笑った後、最初に笑い始めた大柄の男が口を開き。
「まさか、そちらからやってくるとは思わなかったよ。牧瀬流風くん」
大柄の男の発言に流風の眉が「ピクっ」と動いた。
そして「彼らがなぜ自分の名前を知っているのか」を瞬時に理解した流風は口角を上げて「にやり」と笑みを浮かべる。
「ああ、そういう事ね……。僕もずいぶんと有名になったもんだねぇ〜。——それも命を狙われるほどに、ね」
彼らが笑った理由が分かった流風は腕を組んで頷く。
——彼らのターゲットが自分だったって事に……。
「はぁ〜。どうせなら、綺麗なお姉さんか美少女に命を狙われたかったのに……。よりにもよってむさい野郎共って……」
命を狙われているこの状況下で嘆息交じりに軽口を叩いて流風は余裕を見せる。
虚勢じゃなくて本当に余裕があるのか、お気楽に身なりを整え始めた。
「で、お兄さん方は僕の事を調べ上げているだろうから知っているでしょ?」
何かを諭すように流風は黒装束の三人に言葉を述べる。
その意図が彼らに正確に伝わる事無く、逆にその言葉を「待ってました」と言わんばかりに黒装束の三人は「にやり」と不気味な笑みを浮かべた。
彼らの反応に流風は眉間にしわを寄せ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「それがどうしたと言うのだ、牧瀬流風。我ら使徒が策を講じずに貴様らのような化け物に挑む訳がなかろう」
「化け物って、ひっどいなぁ〜。僕チン傷ついちゃう……。でも、まぁ〜そういう言葉が出てくるって事はしっかりと調べ尽くしているって訳ね。——あぁ〜怖。ホント、情報社会って怖いわ〜」
現代社会を根本的に否定するかのような発言をして流風は掻き抱き、身震いする。
しかし、その態度とは裏腹に流風は少し違和感を覚えていた。
「なぜ、自分たちの情報が漏れているのだろうか」と……。
「——ご託はいい。粛清の時間だ」
大柄の男がそう告げると腕を高く掲げて指をならした。
すると、部屋に置かれた燭台でメラメラと燃える蝋燭の火が勢いを増して燃え上がり、それを合図に黒装束の三人は身構えて臨戦態勢に入った。
そんな彼らに流風は「ふぅ〜」と一息を吐いて気持ちを切り替える。
「お兄さん方。恨みっこなしですよ」
少し声のトーンを落として「きりっ」と引き締まった表情に切り替わった流風は会話を交わした大柄の男の懐へ低空飛行をする鳥のように低い姿勢で走り込んで行った……。