ダーク・ファンタジー小説
- (1)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の一 ( No.16 )
- 日時: 2012/06/15 20:42
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/9/
——電波塔界隈。
衛星都市一番の高さを誇る電波塔を囲うように車が行き交うロータリー。
そこから東西南北と伸びる大通りへと大勢の車たちが方向転換する。
そのロータリーの南側。
南部にある歓楽街へと伸びる片道三車線の南通り。
その通りの一車線には規制線が張られ一般人たちが立ち入らないように囲われている。その内側にはアスファルトが陥没し、人型を象った白いテープが貼られていた。
それを見るために野次馬たちが囲うように参列している中、必死に覗き見ようと頑張るトーテムポールがいた。
束ねた茶髪を左肩に垂らし、白い翼が描かれた鞄を背負い。継ぎ接ぎだらけのウサギのぬいぐるみを大切そうに抱える少し垂れ目の少女が、束ねた茶髪を右肩に垂らし、黒い翼が描かれた鞄を背負う少し吊り目の少女に肩車をされていた。
二人の少女は背格好も同じで服装も白いブラウスの上に五芒星を象った校章が描かれた紺色のサマーセーターに、赤と黒の格子柄のスカートと同じだった。
「ふらふら」と、足元がおぼつかないながらも「苦じゃない」といった風に余裕を見せて肩車をする男勝りな妹の椎葉鳴(しいばなる)と。
その上に乗るシャイガールな姉の椎葉鳴(しいばめい)は仲の良い双子の姉妹である。
椎葉姉妹は雨宮彗月や牧瀬流風と同じく、美玲の事務所で働きながら学院へ通う学生で彗月や流風の後輩に当たる。
現在、彼女らは彗月や流風と同じく夢想薬の噂について調査をしている最中だった。
「何か見えた? 姉貴」
「ううん。前の人たちが邪魔で何も見えない」
「ったくよぉ〜。邪魔だよな〜この野次馬たち」
「えっと、ナルちゃん。それ……私たちにも言える事だよ」
「えぇ〜。でもよぉ〜姉貴ぃ。アタシたちはアタシたちなりの理由があって群がってるに過ぎないぜ。こんな野次馬根性の輩と一緒にしないでほしいもんだ」
二人は昨夜、起こった事件現場に「何か手掛かりがないか」と出向いたものの。
起こってさほど経っていない事件現場見たさに集まった野次馬たちが邪魔をして、なかなか事件現場を覗き見る事が出来ずにいた。
「視線を高くすれば見れるんじゃないか」と肩車をしたのは良かったが、小柄の彼女らが肩車をした所で野次馬たちの壁を超えるほどの高さに達する事は無かった。
——そこで椎葉姉妹は考えた。
「どうやれば見れるのだろうか」と唇を尖らせながら考えた結果。
何か妙案でも浮かんだのか、二人は同じようなタイミングで頷き、行動に出る。
肩車の態勢から土台の椎葉妹がしゃがみながら折った膝で足場を作り。その足場に上に乗る椎葉姉が足を乗せて。バランスを崩さないように椎葉姉の足を妹が掴んで、組み体操のサボテンの態勢を作った。
「ど、どうだ、姉貴。何か見えた?」
「う〜ん。見えそうで見えない」
ウサギのぬいぐるみをしっかりと抱きかかえながら椎葉姉はそう呟く。
姉の言葉に椎葉妹は「見る位置がダメなんだ」と思い。姉を抱えたまますり足で早送りをしなければ変化が見られないほどのスピードでじりじりと横に移動する。
一旦、姉を下ろして移動する方が効率的だと言うのに、椎葉妹の思考回路にはそういうアイディアが全くと言って良いほどに浮かばなかった……。
「あっ、何か見えそう……」
事件現場が見える位置を探して牛歩のように移動する中、椎葉姉がそう呟いた。
「ふむ」と椎葉妹は唸り、その場で立ち止まって足場を固定する。
「も、もう少しで、見えそう……」
少し「ぷるぷる」と震えながらも椎葉妹にしっかりと足を支えられて、椎葉姉は絶妙なバランスを維持しつつ、覗き見ようと奮起する。
すると、道端で組み体操のサボテンを組むおかしな態勢の彼女らに気付いたある少女が椎葉姉妹の元へゆっくりとした足取りで近づいて行き、
「——うん、スカートの中が見えそうだよ。お嬢さん方」
と、囁くように投げかけた。
後方から女性の声でそんな言葉を掛けられた二人は視線だけを後方に向け、
『スパッツを履いてるんで、大丈夫(です)!!』
と、声を掛けた少女に心配無用とばかりに少し声を張って対応し。視線を前方に戻して事件現場を覗き見ようと再び奮起する。
少女の言葉に対応してからしばらくして、椎葉姉妹は少し違和感を覚え。眉間にしわを寄せてしかめ面となって、首を傾げた。
「あれ……? どこかで聞いた事のある声だ。それに見覚えのある服装をした人だったなぁ〜」と、思案顔になる。
が「ふむ」と、椎葉姉妹は唸りながらも事件現場を覗き見ようとさらに奮起した。
そんな彼女らに対し、声を掛けた少女は少し首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべている。
「そこまで必死になってまで何を見たいのだろうか」と、この人だかりは何を見に集まってきているのか分からないと言った風に不思議そうな表情をさらしていた。
すると、椎葉姉妹は何か思い出したのか口裏を合わせたように「あっ……」と力無い声を発し、声を掛けてきた少女に顔を一斉に向けた。