ダーク・ファンタジー小説

(1)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の二 ( No.18 )
日時: 2012/06/16 21:33
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/10/

 「な〜んだ、正直に話してくれたら良かったのに〜」

 飲み物が入ったグラスに添えられたストローを掻き回しながら美鈴がそう嘆く。
 椎葉姉妹と久遠寺美鈴の三人は大切なお話をじっくりと出来る場所を探し求め。
 そして、ようやく見つけたカフェに入店し。二階席にあるテラステーブルを囲ってその大切なお話に興じていた。

 「……ごめん。でもよ〜正直に言うとまた反対されると思ってさぁ〜」
 「……うん。美鈴ちゃんを騙した事は謝ります」
 「まぁ〜反省してくれたんならいいけどさぁ〜」

 椎葉姉妹が久遠寺美玲の「手伝い」をする事を美鈴が快く思っていないのには理由があった。
 美玲の仕事は時たま命に関わるほどの危険な仕事を受諾する事があり。
 「年頃の少女たちにそんな危険な仕事をやらせる訳にはいかない」と、真面目っ子な美鈴は反対していたのだが、今回の仕事内容が「ただの噂の究明」と危険そうな仕事じゃないと分かり。さすがの美鈴も「それなら」と椎葉姉妹の仕事を承諾した。

 それでも椎葉姉妹の立場上、どんな仕事だろうとやり遂げなくてはならなかった。

 ——それは牧瀬流風や雨宮彗月も同じ事だった。

 「——それで、その噂って?」
 「いや……何でも、この街で出回っている夢想薬って薬を飲み過ぎると魔法遣いになれるみたいなんだよ」
 「……魔法遣い? ——って、皆みたいな?」
 「それ、NGワードですよ、美鈴ちゃん。周りに部外者がいる時は自重してください。それと美玲ちゃんはまた違う次元の……って、私も少し言い過ぎですね」

 「反省、反省」と頭を軽く小突いて口をつぐむ。
 椎葉姉に指摘されたもののあまりピンと来なかったのか、美鈴は怪訝そうに首を傾げる。

 「自重って言われてもなぁ〜。私、普通科だし……。それにお姉ちゃんと流風さんたちの違いって未だに分からないし……」
 「簡単な話だぜ。媒体を介して行使するか、ダイレクトで行使するかの違いだ」
 「ナルちゃん、さっきからNG連発。少し自重してください」
 「……へ〜い」

 椎葉姉に注意されて少し不貞腐れてしまった椎葉妹はテーブルに項垂れながらも、ストローをくわえて飲み物を口に含む。

 「——まぁ〜要するにですよ。美玲ちゃんはチートで私たちや流風ちゃんは正攻法です。——ただし、彗月ちゃんは論外です」

 妹に「言い過ぎ」と注意しながらも、少し嘆息交じりに美鈴に分かりやすく解説する椎葉姉に椎葉妹は目を細めて、

 「……姉貴のそれはNGじゃないのかよ」

 と、不貞腐れながらぼやいた。

 「ナルちゃんみたいに具体的じゃないからセーフです」

 膝の上に乗せたウサギのぬいぐるみの腕を掴んで小さくセーフと腕を動かして、そう呟いた後に「なぜ、美鈴が衛星都市に来ているのか」と、疑問に感じた椎葉姉は徐に口を開く。

 「それはそうと……美鈴ちゃんはこっちで買い物か何かですか?」
 「ううん、違うよ。——彗月を探してるんだけど……見なかった?」

 美鈴の返答に椎葉姉妹は揃って首を傾げてきょとんとする。
 椎葉姉妹の記憶では雨宮彗月はお気に入りのソファーでいつも通りに惰眠をむさぼっている姿が残されていたから。

 「あれ? 事務所に居なかったですか?」
 「いや、居なかったよ。お姉ちゃんに聞いたらこっちって……」
 「え? 彗月こっち来てんの?」
 「……それは意外ですね」

 椎葉姉妹は彗月がこちらに来ている事を知りすごく驚いた。
 椎葉姉妹の二人も雨宮彗月の体質の事を当然の事ながら知っているために「まさか、彗月が人の多い場所に来ている」とは微塵も思わなかったのだ。

 「で、美鈴さんは何で彗月を探してんの?」

 そんな彗月をわざわざ探している理由を尋ねた瞬間。
 美鈴の雰囲気が先ほどまで椎葉姉妹に対して抱いていた気持ちに切り替わり「ぷるぷる」と身体を震わせ、徐に拳を強く握り締めた。
 その美鈴の動作に椎葉姉妹は反射的に「ビクっ」と身体を強張らせる。

 「あの馬鹿! また学校サボったのよ。あれほど言ったのにこのままだと留年だよ!」

 テーブルを勢いよく叩き。テーブルに置かれた飲みかけのグラスたちが少し宙に舞う。
 そして、真面目っ子美鈴の怒りがまだ治まらないのか、唐突に「当店オススメ、デラパフェスペシャル」なるメニューを店員を呼びつけて注文した。

 美鈴の自棄行動に椎葉姉妹は顔を引きずった。
 と、言うのは「デラパフェスペシャル」なる物をメニュー表で知り「……これ一人で食べれるの?」と、少し懸念を抱いたからだ。

 「ねぇ〜二人はどう思う? 彗月はこのままでいいと思う?」

 この質問に椎葉姉妹は考える間もなく、二人は見合わせて頷く。

 『——彗月(ちゃん)のあの性格を考えたら無理だろ(じゃないですか)?』

 二人の息ぴったりの返答に美鈴は納得して頷くものの、

 「でも、それを矯正するのが委員長としての私の仕事……」

 と、毅然な態度で彗月の教育係のような発言をした。

 『大変ですね、そのお仕事……』
 「でも、必ずやり遂げて見せるわ……」

 少し呆れた様子の椎葉姉妹を余所に、真面目っ子久遠寺美鈴は雨宮彗月の矯正教育に拳を握りやる気を見せる。
 そんな美鈴の姿に椎葉姉妹の二人は小さく合掌した。
 見つかれば即矯正教育を施されるであろう雨宮彗月に向けて、憐れみの意を込めて祈るように二人は合掌する……。

 「——さてと、そうと決まれば私もお姉ちゃんの手伝いしようかなぁ〜。彗月にも逢えるかも知れないし……」

 美鈴の思いつきのようなこの発言に椎葉姉妹は表情を歪めた。
 いくら実の姉のように慕っている美鈴とは言え、こればかりは了承できない。
 それは今回の仕事が危険性の無さそうな「噂の究明」とは言え、もしもの事があったらと思うと……。
 そのため「どんな仕事であろうと部外者を巻き込むのは私たちのルールに反する」と上司である美玲からの命令でもあり、椎葉姉妹の美鈴に対する想いでもあった。

 「——えっと……言いづらいんだけど……」

 先に切り込み隊長である椎葉妹が少しもじもじしながらも話を切り出す。

 「ん? なぁに?」

 普段、大雑把な性格である椎葉妹が、あまりする事の無い動作に美鈴は首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべる。
 言いづらそうにもじもじする妹に変わり、椎葉姉が徐に口を開く。

 「その……部外者を同行させるのはですね、NG……なんです」
 「それって、お姉ちゃんの命令?」
 『まぁ〜そうなるな(なりますね)』
 「ふむふむ……。——だったらこうしよう」

 何か妙案でも浮かんだのか「ポン」と手を打つ美鈴の姿に椎葉姉妹は首を傾げる。

 「私は二人の遥か後方から付け回す事にするよ。それなら同行とは言えないでしょ?」

 この美鈴の発言に椎葉姉妹は「性格こそ天と地ほど違うけれど、二人は血が繋がっているんだなぁ〜」と、しみじみと思った。

 「まぁ〜それなら……」
 「——いやいや、ナルちゃん。バレたら減俸ものだよ」

 美鈴の意見に椎葉妹が心変わりする、すんで所で椎葉姉は注意を促す。
 「ふむ、あともうひと押しか……」と椎葉妹の反応を見て美鈴は畳み掛けに入った。

 「お姉ちゃんに話さなきゃバレやしないよ。それに仕事を早く終わらせたいのならそれなりに人手がいるじゃない? ——そこでよ。私が手伝えば仕事が早く終わるかも知れないし私も彗月を見つけられるかも知れないじゃない?」
 「……確かに、な」

 美鈴の畳み掛けにまんまとやられた椎葉妹は「ああ、その通りかも」と大きく頷く。
 そんな憐れな妹の姿を見て、椎葉姉は口を尖らせながら、

 「——ちょっと、美鈴ちゃん。ナルちゃんの事を誘惑しないでください。ナルちゃんは頭を使う作業は苦手なんですから」

 と、苦言を呈した。
 椎葉姉の苦言に美鈴は悪びれる事無く「むしろ正攻法でしょ?」と、毅然とした態度で徐に口を開いて、

 「うん、それを承知の上で誘惑していたんだけど……」
 「……二人とも、さり気なく酷い事を言ってないか?」

 椎葉妹は「さっきから自分に対して悪口を言っているんじゃなかろうか?」と疑問に感じてしかめ面で二人に問いかけてみたが、二人は「何の事かさっぱり」と言った風にきょとんとした。

 『気のせいじゃない?』

 「ふむ……気のせい、か……?」

 少し疑問を残しながらも「二人がそう言うなら勘違いだったんだな」とお馬鹿な椎葉妹は納得した。