ダーク・ファンタジー小説

(2)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の二 ( No.19 )
日時: 2012/06/16 21:35
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/10/

 一通りの会話が終わった所でタイミングを見計らったように美鈴が先ほど頼んだ「デラパフェスペシャル」なるメニューを、店員が二人係で落とさないよう慎重にテーブルに持ってきた。

 【ドスン!】

 と、テーブルの中央に置かれた「デラパフェスペシャル」は威風堂々とした面持ちで彼女らの事を迎え撃たんと身構えている風にも見えた。
 それを目の前にして椎葉姉妹は顔を引きずり、美鈴に至っては恍惚な笑みを浮かべながら淑女の嗜みとして反射的に分泌された涎をおしぼりで拭き取る。

 衛星都市一番の高さを誇る電波塔を見立てて作られた「デラパフェスペシャル」は大きなグラス型の器に入った総量一・五キログラムはくだらない大きなパフェである。
 そんな「デラパフェスペシャル」の迫力に圧倒されながらも開口一番に椎葉姉が口を開いた。

 「——えっと……美鈴ちゃん。これをお一人でお食べになるおつもりですか?」

 片言な丁寧口調で美鈴にその旨を尋ねる。
 すると、椎葉姉の質問に美鈴は首を傾げてきょとんとした。

 「……え? 二人も食べるでしょ?」

 『はぁい〜?』

 予想外の発言に椎葉姉妹は唖然としてフリーズする。
 椎葉姉妹は別段、甘い物は苦手ではない。むしろ三食甘い物でも言いと豪語するほどの甘党なのだが……。

 「いや、だから。メイちゃん、ナルちゃんも食べるでしょ?」
 『久遠寺美鈴様。その発言はマジでしょうか? それともガチでしょうか?』
 「前者の発言は流れ的に何となく分かるけど。後者の発言は何となく馬鹿にされているような……?」
 『滅相もございません』

 目を細めて訴えかけてきた美鈴に対して、顔の前で手を振って否定する二人の表情は無表情を通り越して無そのものだった。

 「そう? なら、食べようよ」

 首を傾げながらも納得したのか、美鈴は何事もなかったように、再び二人に食べるように促し始める。
 そんな彼女に対して椎葉姉妹は「ああ、もう食べる事は決定事項なんだ……」ともう諦めムード一色になる。
 しかし、食べる事が決まったとは言え、一つだけ美鈴に対して苦言を呈する事にした。

 『——さすがにこの量はやばいだろ(でしょ)……』

 この量を食べ切れない事は無い二人なのだが、さすがに一食でこの量を食べるのは年頃の少女にとってどれほどのリスクを背負う事になるのかは計り知れない。

 ——要するに付くとこ付いていないのに、ぷくぷく太るのだけは避けたかった。

 自分たちの小柄な体型で。もし、太る事があろうなら「小ダルマ姉妹」と周りから揶揄されないと常日頃から懸念するようになり、少し摂取量を抑えている今日この頃である。

 「大丈夫だって、かの偉人も——甘物は別腹なり其れ故、恐るる無かれ——って言ってるよ」

 そんな彼女らの心配を他所に美鈴はどこかしらの偉人(?)の名言を口にして椎葉姉妹の心を揺さぶりかけた。

 「——昔の人は凄いんだな。こんな大物にも果敢に攻めたって事か……」

 美鈴の揺さぶりに屈した椎葉妹は偉人(?)の言葉に感銘を受け、腕を組んで頷く。
 そんな妹を余所に椎葉姉は、

 「——いやいや、そんなはずないでしょ。それにその迷言は美鈴ちゃん作だよ」

 と、冷静に返してから、飲みかけのグラスに手を伸ばしてストローに口を付けた。

 「……いや、これは私じゃなくてお姉ちゃん作……」

 自分の姉の言葉を借用して少し恥ずかしくなったのか、美鈴は照れ隠しに飲みかけのグラスに手を伸ばし、ストローに口を付けた。
 美鈴が口にした迷言が、久遠寺美玲の考えたものだと分かった椎葉姉は首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべた。

 「——美玲ちゃんって、甘い物ダメじゃなかったんですか?」
 「お姉ちゃんの場合は甘い物じゃなくてお酒だよ。飲めない相手に無理やり飲ますための口実でいつも使用してるみたい……」

 少し嘆息交じりにそう話した美鈴の表情はどこか気苦労が絶えないと言った風に見受けられ。どこか共感する部分があったのか、椎葉姉妹も深く頷いて小さく嘆息を吐いた……。

 「……ああ、所長さんならやりかねないな〜」
 「確かに……。美玲ちゃんならそれを口実に吐くまで飲ませそうです」

 『はぁ〜』

 タイミングを見計らったように三人は溜め息を吐く。
 と、目の前にどっしりと構える「デラパフェスペシャル」へ徐に手を伸ばし、各々好きな部分をスプーンで掬って口に運んだ。

 すると、三人は全身を震わせてうっとりと恍惚な笑みを浮かべ。
 それから目の色を変えて、先ほどの事を忘れたかのように三人はこの至福の一時を楽しんだ……。