ダーク・ファンタジー小説
- (1)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の三 ( No.22 )
- 日時: 2012/06/17 21:08
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/11/
「やべ……食い過ぎた……」
「……体重計に乗るのが恐ろしいです……」
お腹を押さえながらそうぼやいた椎葉姉妹は「デラパフェスペシャル」を食べる事を半ば強制的に美鈴によって決められたが、結局は美味しく頂き。
至福の一時を楽しんだ所までは良かったものの、今頃になって少し後悔し始めていた。
「——二人とも、大丈夫?」
椎葉姉妹と同じような量を食べていたのにも関わらず「けろっ」と何事もなかったように平然とした美鈴が二人の事を心配する。
そんな美鈴に対して椎葉姉妹は疑問を抱く。
「なぜ、そこまで平然としていられるのだろうか? 少なくとも自分たちよりは多く食べていただろうに……」と、久遠寺美鈴は人の皮を被った化け物じゃないのかと疑った。
——彼女らの気持ちは分からないでも無かった。
美鈴は「デラパフェスペシャル」を食べ終わった後に「口直し」と称して新たにチーズケーキを頼んで食べていたのだ。
それなのにも関わらず「平然としており、なおかつスレンダーでスタイルが良い」との理由で椎葉姉妹は疑念の視線から嫉妬の視線へとシフトチェンジした。
「……美鈴さんはせこいよなぁ〜」
「うん、せこいです。特にこれと言った事をしていないのにそのスタイルを維持していますよね……」
目を細めて何かを疑うような眼差しで美鈴の事を見つめてそうぼやいた二人に、美鈴は少し背筋がぞっとした。
「えっと……急にどうしたの、かな?」
少し顔を引きずりながらも「どうしてそのような事を言い出したのか」を尋ねる美鈴に椎葉姉妹は目を怪しく光らせながら、じりじりと近づいて行く。
その動作を見て、瞬時に身の危険を察知した美鈴は唐突に人ごみの中へ駆け出し。
それを見て二人は目の色を変えて「シャー」と、奇声を上げながら美鈴の後を追った。
傍から見れば「無実な少女の事をくりそつ少女たちが奇声を上げながら追いかける」と言ったおかしな構図が出来上がっている。
様子がおかしくなった椎葉姉妹に捕まらんと、必死に人ごみを掻きわけて走る美鈴は二人との距離が気になり後ろを振り向く。
すると、椎葉姉妹の二人は小柄の体型をフルに活用した機敏な動きで、人ごみを難なくすり抜けてすぐそこまでやって来ていた。
それを見て慌てた美鈴は急いで前方に視線を戻して走り出したその時!
——注意を怠っていたためか、誰かにぶつかってしまい尻餅をついてしまった。
その間にも椎葉姉妹は美鈴との距離を縮めており。
そして、尻餅をついて足止めを喰らっている標的に目掛けて「シャー」と奇声を上げながら飛び掛った。
「——脂質を胸に変換するナノマシンがどこかにあるはずです!」
「——ナノマシンはど〜こ〜だぁ〜」
と、訳の分からない事を言いながら美鈴の身包みを剥がそうと、手当たり次第に衣服を引っ張るその光景はタチの悪い強盗にしか見えなかった。
人々が行き交う道中で追い剥ぎに遭う少女の衣服は乱れて、肌が所々露出し。
羞恥にさらされる中、果敢にも——とは程遠い少し引き気味な声音で、
「——えっと、助けた方が良いの?」
と、男性が投げかけた。
椎葉姉妹にもみくちゃにされている美鈴はその声の主にすがるように、声が聞こえた方に視線を向けると。
その男性は美鈴がさきほどぶつかってしまった人物らしく、立ち上がろうとしている所だった。
——しかし、美鈴は妙な違和感を覚えた。
その男性の服装がどことなく見慣れた……。
——なぜか、懐かしくも感じるもので、足元から順を追って顔の方に視線を送ると。
かったるそうに頭を掻きながら突っ立っている少年——雨宮彗月がそこにいた。
彗月の顔を見るや否や美鈴は沸々と怒りが込み上げて来て。
椎葉姉妹がまだ我を忘れて身体に纏わりついている事すら忘れ「椎葉姉妹」と言う名の重りを背負いながら、美鈴は身体を揺らして立ち上がった。
「はぁ〜づぅ〜きぃ〜!」
「……え? 何で逆ギレされてんの?」
美鈴の威圧感ある気迫に彗月は後退りながら距離を置こうとする。
が、美鈴は身体に纏わりついている椎葉姉妹を引きずりながら「地響きが起こっているんじゃないか」と、思わせるほどの大きな足音を立てて彗月に詰め寄った。
「えっと……何があったか知らんが……美鈴さん? 一旦落ち着こうか。——ほ、ほら服がはだけてるぞ」
「年頃の少女として公衆の面前でそのような格好は如何なものか」と彗月が指摘すると、逆にそれが気に障ったのか。さらに迫力を増し、彗月の両肩を両手で鷲掴む。
彗月は必死にその手を解こうと試みるが思いのほか力が強くてなかなか外せそうになかった。
そして、美鈴は怒りに任せて彗月の事を力の限りに揺らしまくる。
「ちょっ! やめ! 落ち着けって!」
両肩を掴まれ、激しく揺らされる彗月は徐々にではあったが顔色が悪くなって行く。
「あっ……やべっ……」
額から汗が滲み出て来て、顔面蒼白になった彗月は激しく揺らされながらも人としての何かを守るかのように口元に手を伸ばして必死に口を押え。
美鈴にやられるがまま、身を委ねて込み上げてくるモノを堪える。
しかし、その抵抗も何の意味もなさず。彗月は瞳から一筋の涙を流しながら力尽きて項垂れ。
——そして、堪えていたモノを全て解放した……。
口から異物を撒き散らしながら力尽きている彗月を見て。
ようやく我に返った女性陣は「ぎゃー」と悲鳴を上げてパニックになった。
美鈴はさらに力の限り彗月を揺らし。
椎葉姉は誰かに助けを求めるのか、どこかに電話を掛け始め。
椎葉妹に限っては何を履き違えたのか、自らの口内に指を突っ込み彗月同様に吐こうとする。
——白昼堂々の大通り。
人が大勢行き交う歩道のど真ん中で繰り広げられる悲惨な光景に、通り過ぎる人々は「関わらぬが吉」と考えたのか、近くを通らないように心掛けて迂回して行き。
妙な空間が歩道の中央に出来上がっていた。
すると、椎葉姉が冷静さを取り戻し。未だにパニック状態の二人を「どうにか落ち着かせよう」と立ち上がり。
——そして、結論付けた。
彼女が背負う鞄からは大切なウサギのぬいぐるみがひょっこりと顔を出していたが、それを押し退けて。年頃の少女が持つには不釣り合いであろう「スタンガン」をそこから手に取り。我を忘れ、パニックになった二人にそれを容赦なく使用した。
【ビリビリ!】
と、電撃が走り。久遠寺美鈴と椎葉妹は「バタン!」と、その場に倒れ伏せた。
その気絶した二人とプラス一人を引きずって、歩道のど真ん中に横並びに寝かせ。
一仕事を終えたかのように「ふぅ〜」と椎葉姉は息を吐きながら額の汗を拭った……。