ダーク・ファンタジー小説
- (2)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の三 ( No.23 )
- 日時: 2012/06/17 21:11
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/11/
——数十分後。
ようやく気が付いたのか。雨宮彗月、久遠寺美鈴、椎葉妹は目を開け、起き上がり様に呆けた表情を浮かべていた。
「何で、自分たちは歩道のど真ん中で横になって寝ていたんだろうか」と……。
どうやら先ほどまでの記憶が飛んでいるように見受けられた。
「——あっ、気付きましたか?」
ウサギのぬいぐるみを抱きしめながら三角座りで三人の事を見守り続けていた椎葉姉が声を掛ける。
彼らは立ち上がり、頭上に腕を掲げて伸びをし。衣服などに付いたホコリを叩く。
「——で、何で居んのお前ら」
開口一番に彗月がかったるそうに頭を掻きながら美鈴たちに疑問を投げかけた。
「……こっちが聞きたいわよ」
「……全くだ。アタシらもさっぱりだ」
何が起こったか分からず少しご機嫌斜めな二人は語気を強めてそう返した。
——ただ一人。一体、何が起こったのか真相を知る椎葉姉は、不敵に微笑みながら立ち上がり口を開いた。
「——あまり気にしない方が良いですよ。思い出せないのなら無理して思い出さなくても良いと思います。すぐ忘れてしまう記憶なんて大抵重要じゃない事です、し……」
「ふむ……。付いてない方がそう言うなら、そうかも知れんが……。——何か、人として多くのモノを失っていたような気がしないでもないような……」
腕を組んで椎葉姉の言葉に頷きつつも、どうにもすっきりしない感が否めなかった彗月はどうにか思い出そうと、今日あった事を思い浮かべるけれど……。
——何も思い出す事は無かった。
「あっ! 思い出したわ!」
すると、彗月に代わって何か思い出したのか「ポン」と、手を叩いて美鈴はそんな事を口走る。
美鈴の発言に椎葉姉は少しバツが悪そうな表情を浮かべたが、美鈴が彗月のタイを掴んで手繰り寄せる行動を目の当たりにし、自分じゃなくホッとした。
「——今日、学校……サボったよね? 二年C組出席番号一番、雨宮彗月くん」
「はぁ〜。何の事やら……」
「惚けたってム〜ダ! 私と貴方は同じク ラ ス な の!」
手振りを用いて根掘り葉掘り言い付けるように彗月に訴えかける美鈴だが、当の本人は聞き耳を持たず眠たそうにあくびをする。
そんな二人を見兼ねた椎葉姉妹は「やれやれ」と落胆した。
「——お二人さん……。歩道のど真ん中で通行人の妨げになるからそろそろお開きにしなよ〜」
「そうですよ。名残惜しいかも知れませんが、痴話喧嘩はやめてください」
「そうだぞ〜、美鈴。くりそつ姉妹がこう言ってるんだ。そろそろこの手を放してくれませんかねぇ〜」
椎葉姉妹の制止に乗っかるような形で反省の色を見せず、彗月は美鈴に手を放すように持ち掛ける。
その要請に美鈴は大きく嘆息を吐いて、
「……分かったわ」
と、渋々ながら手を離して身を引いた。
その際、彗月は「ふぅ〜」と息を吐き、胸を撫で下ろしホッとする。
しかし、真面目っ子久遠寺美鈴は納得できず彗月を鋭い目つきで睨みつけた。
「さてと——仲直りが出来た所で、彗月ちゃんはどうしてここへ来たんですか?」
不穏な空気が漂うこの状況を「どうにかしないと……」と、思い立った椎葉姉が開口一番に話を切り出した。
「……付いてない方も流風と同じような事を聞くのな」
流風と同じような質問をされて。うんざりなのか、嘆息交じりにそう答えた彗月の言葉に椎葉姉は少し驚いた表情を浮かべる。
「え? 流風ちゃんと逢ったんですか?」
「ああ。ここってアイツのホームグランドだろ? だから、いつも以上にイキイキしてたよ」
「ああ、それでですか……」
何か心当たりがあるのか、彗月の言葉に椎葉姉は感慨深く頷きながら納得する。
そんな二人に首を傾げて、どうも納得できないのか椎葉妹が口を開いて、
「いやいや。どこだろうと流風は流風だろ」
と、顔の前で手を振って彗月の言葉を否定し、続けざまに話を進めた。
「まぁ〜流風の事は置いといて……。彗月も噂の件で動いてんの?」
「ああ、そうだが……如何せん土地勘がないせいかここがどこだか分からん。——正直、お前らと逢えてホッとしている」
心の底からそう思っていたのか、息を吐いて少し安堵の表情を浮かべる彗月。
それに対して女性陣は大きく嘆息を吐いた。
そんな彼女らの反応に彗月は首を傾げて不思議そうな表情を浮かべる。
「まぁ〜彗月ちゃんはいつも通りとして……」
「……おい、さり気なく俺の事を馬鹿にしただろ」
「いや、だってよぉ〜。自業自得じゃね?」
「そうね。彗月はこういう場所にあまり来ないから土地勘がなくて当然よね」
女性陣に良いように言われて彗月は何も言い返す事が出来ずに黙りこむ。
全て、的を射ており弁解する余地すらなかったからだ。
「さてと……仕事だ、仕事。——サボってないでくりそつ姉妹も働けよ〜」
——反撃。
とは行かず。誤魔化そうと守りに徹する彗月はキャラに似合わない爽やか笑顔で真面目セリフを口ずさみ、強引にも先ほどの流れをなかったように装った。
しかし、そのような浅はかな作戦はここにいる女性陣には通じる事は無く、
「うわ〜こうもあからさまに誤魔化す奴はそうそう居ないよな……」
「そうですね……。彗月ちゃんはもう少し出来た人だと思っていたのですが……」
「二人ともしょうがないよ。だって、彗月だもん」
『はぁ〜』
と、さらに状況を悪化させる結果となり彗月のお株は急降下を辿る一方だった。
——そうとも知らず、目的地を定めずに悠々と足を進める馬鹿は「上手く行った」と思い込んでおり、どこかご満悦であった……。