ダーク・ファンタジー小説

(2)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の四 ( No.25 )
日時: 2012/06/18 22:45
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/12/

 ——アイスツリー事件が起こった現場の反対側。
 電波塔から南東方向に位置する。とある小学校の校庭で起こった変死事件。

 通称「トールハンマー事件」と呼ばれるこの事件は雲一つない天候の中、突如として発生した雷によって周辺地域が一時停電となり。
 その雷が発生したと思われる小学校の校庭に直視するには眩し過ぎるほどの光を纏った人影らしきモノが目撃されていた。

 しかし、その人影は謎の発光が消え去ると共に倒れ伏せ、今までの事件同様の損傷状態で遺体となって発見された。
 ちなみに遺体はこの小学校に通う高学年とされている。

 「しっかし、隕石でも落ちてきたような有様だよな〜」
 「そうだね」

 校庭に出来上がった大小さまざまの陥没を見つめながらそうぼやいた椎葉姉妹の二人は無許可で小学校に侵入していた。
 この校庭に出来た陥没は、雷の発生と同時に出来上がったものらしく。
 雷が地面に槌を打つような様から「トールハンマー事件」と名付けられた。

 「ここの事件の死因も夢想薬の副作用でOKか」

 ここでも先ほどのように二人は冊子を取り出して現場検証を開始。
 冊子に要点を書き綴っていく。

 「うん。それにしても、雷使いとして覚醒した訳ですか……。女性の敵ですね」
 「急にどうしたんだ?」

 突然、おかしな事を口走った椎葉姉に首を傾げながら椎葉妹が疑問を投げかける。

 「ほら、髪の毛がボサボサになるよ」
 「別にアタシは気にしないけどなぁ〜」
 「それがダメなんだよ。ナルちゃんは……」

 「はぁ〜」と、小馬鹿にしたように嘆息して妹の返答を全否定した。

 「ええ〜。でもよ〜面倒臭いじゃん」
 「面倒臭くてもやらないといけないの。——だから、彗月ちゃんに「付いてる方」やら美玲ちゃんに「イケメン」なんて呼ばれるんだよ」

 椎葉姉のこの発言が、少し気に障ったのか椎葉妹は「むすっ」と口を尖らす。
 男勝りな椎葉妹はその立ち振る舞いから「本当に付いてんじゃね?」と、雨宮彗月に勘ぐられてそう呼ばれるようになり。
 久遠寺美玲の「イケメン発言」は椎葉妹がよく同性から告白される事から、そう呼ばれるようになった。

 「——それを言うなら姉貴だって、彗月に「付いてない方」やら所長さんに「カマトト」なんて呼ばれてるじゃんか」

 この発言に椎葉姉は椎葉妹同様に「むすっ」と口を尖らす。
 椎葉妹と違いしっかりと少女らしく振る舞っている椎葉姉だが、その立ち振る舞いを怪しむ久遠寺美玲に「猫被り」と揶揄されて「カマトト」と呼ばれるように。
 雨宮彗月の「付いてない方発言」は椎葉妹と見比べた結果、そう呼ばれるようになった。

 『むむむ……』

 ひょんな事から話がこじれて少し口論となってしまった椎葉姉妹はお互いに譲らず睨み合いながら、しばしの小康状態に入った。
 すると、馬鹿らしくなったのか椎葉妹が息を吐いて、

 「……もう、よそうぜ」

 と、頭を掻きながら口ずさむ。
 妹の終戦宣言に椎葉姉も少し恥ずかしそうに頭を掻いて、息を吐く。

 「……そう、だね。うん、人それぞれ個性ってあるもんね」

 「お互いの個性を尊重し合おう」と、言う事で終戦締結を結んで調査を再開した二人は冊子に「雷使いは女(女性)の敵。けれど、個性は大切にしよう。——ただし、雨宮先輩は論外」と訳の分からない事を記入して、この件のまとめを終わらした。

 「さてと」と、椎葉姉妹は口ずさんで。次の事件現場に移動しようと、冊子とともにたまたま持ち歩いていた衛星都市の地図を徐に眺めていると、椎葉姉がある事に気付く。

 「ねぇ〜ナルちゃん。次って、確か……オフィス街にあるビジネスホテルだったよね?」

 この投げかけに椎葉妹は冊子を捲りながら次の事件現場を確認してから静かに頷く。
 その反応に椎葉姉も静かに頷いて、

 「じゃ〜、その次は——」
 「歓楽街近くにある、マンションだな。……それがどうしたってんだ?」

 と、間髪容れずに続いての事件現場の場所も答えた椎葉妹は「なぜ、そのような事を今頃になって確認しだしたのか」気になり逆に質問する。

 「ほら、見てよ。最初に起こった事件現場のマンションから昨日、起こった事件現場の電波塔までを線で結ぶと——」

 地図を広げながらそう話した椎葉姉はその地図に油性ペンで第一事件現場から順番に線を引いていき。それを椎葉妹に見せた。

 「昨日起こった事件現場が最終地点であるかのように電波塔を中心に渦巻き状になってない?」
 「確かに……そう見えなくはないが、無理やりすぎないか?」

 椎葉妹の言う通り、地図に記入された線は何の統一性もなく。
 歪ながらも目を凝らしてみればそう見えなくもない構図が出来上がっていた。

 「無理やりすぎるかも知れないけど……私は、昨日起こった事件で最後だと思う」
 「何で、そう言い切れるんだ?」
 「この妙な間隔が気にならない? 最近の事件になるほど間隔が短くなってる。——まるで、時間を掛けて実験をしていたかのような……」

 椎葉妹の問いにそう答えた椎葉姉は事件発生の妙な間隔を指摘する。
 一番初めに起こった事件から続いての事件が起こるまで約三週間あまり掛っており。
 続いての「トールハンマー事件」はその二週間後。
 その次の「アイスツリー事件」は一週間後。
 そして、昨夜起こった事件は三日後と徐々にではあるが間隔が短くなってきていた。

 「ふむ、つまりこの連続変死事件はただの実験で目的は別にあると?」
 「たぶんね」

 今回の仕事は「ただの噂の究明」とばかり踏んでいただけに少々やっかいな事になって来た事に二人は嘆く事無く。
 むしろ「こういう展開を待ってました」と言わんばかりに表情が緩み始めた。

 すると、唐突に二人はアイコンタクトを交わし。
 身体を慣らすように入念にストレッチを始め……。
 身体が解れたのか、ストレッチをやめて何事もなかったように椎葉妹がまず口を開いた。

 「——何だが、ややこしい事になって来たなぁ〜。美鈴さんがいなくて良かったよ」
 「いや、美鈴ちゃんは彗月ちゃんと一緒にいるから少なからず……この現状を知っちゃうんじゃないかな?」
 「……げっ。じゃ〜知られない事を祈るばかりだな……」
 「そうだね。美鈴ちゃんは心配性だからね……」
 「心配させないためにも——無傷で帰らないと、な……」
 「……だね」

 そう会話を交わした後に二人は一斉に後ろを振り返る。

 ——と、そこには小学校の敷地内には不釣り合いな格好をした人物たちがいた……。