ダーク・ファンタジー小説
- 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の五 ( No.26 )
- 日時: 2012/06/19 21:21
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/13/
彼女らの前に現れた黒装束の四人は椎葉姉妹が振り返るや否や「クスクス」と小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
それに応戦するかのように椎葉姉妹は「ジロリ」と睨みを利かせて相手を威嚇する。
「……アンタたち何者?」
「ここの教職員——って訳でもなさそうですよね」
椎葉姉妹の問いかけに黒装束姿の四人は何も答えず、さらに笑いに熱が帯びた。
それに少し頭に来た椎葉妹は握り拳を作り、相手に詰め寄ろうと足を踏み出した所で。
椎葉姉に肩を「ポン」と叩かれて、制止させられる。
「私たちを怒らそうとしても無駄ですよ」
「怒らせる? 違うね。楽な仕事になりそうで退屈しのぎでお顔の体操だよ。——ほら、ニコ〜って」
と、少し甲高い声でこの集団を束ねるリーダー格らしき人物が椎葉姉妹を小馬鹿にするような素振りでそう話す。
そして、また「クスクス」と小馬鹿にしたような笑い声を上げて、椎葉姉妹の二人を挑発し始める。
温厚な椎葉姉もさすがに頭に来たのか「ムスっ」と怒りを露わにした。
けれど、椎葉妹のように冷静さを欠く事無く、表情に出しただけで実際の心境は至って穏やかなものだった。
「これは自分たちを陥れるための罠なのか」それとも「自分たちの形を見て油断しているのか」などと考えを巡らせていると。椎葉妹がアイコンタクトを送っている事に気付いた椎葉姉はそれを読み取る。
【コイツら、シメていい?】
と、言う物騒な合図に首を横に振って、
【もう少し我慢して】
と、アイコンタクトを送り返した。
その椎葉姉妹の動作に、黒装束の服装からでも分かる肥満体形の人物が怪しく思ったのかリーダー格の人物に告げ口をし始めた。
それを見て椎葉妹は「ククク」と笑い。
椎葉姉も声を殺しながらも口元を隠して笑みを浮かべている。
「——ナルちゃん、失礼だよ」
そう言いながらも彼女の表情は緩み切っていた。
「いや、だってよ。あのデブの行動を見てたら、小物臭がプンプンと臭うもんよ〜」
「それ思っても言っちゃダメだよ。あのおブタさんが怒ってはちきれんばかりにピチピチの装束を弾け飛ばしちゃうよ」
「フードの部分残してか?」
「うん、フードの部分を残して……」
『あはは!』
さっきのお返しとばかりに肥満体形の人物を集中砲火し。
椎葉姉妹は腹を抱えて涙目になりながら大笑いした。
そんな彼女らに対して、今度は罵倒された肥満体形の人物が拳を握りしめて相手に詰め寄ろうと足を踏み出した所で、リーダー格の人物に制止させられる。
「——で、さっきのサインは僕たちを馬鹿にするための確認だったのかな?」
「あ〜違う、違う……。アンタたちをボコっていいかの確認だよ。それとさっきのは、たまたま目に付いたから、からかってやろうとアドリブ利かせただけだ」
リーダー格の人物の言葉を否定するものの。
先ほどの事を思い出したのか、椎葉妹はまた笑い始めた。
「まぁ〜それはさておき……。お嬢ちゃんたちは椎葉鳴、鳴姉妹だね?」
『……違うって、言ったら?』
「違う事はないんだよねぇ〜。——ほら、ここ。綺麗に写ったお嬢ちゃんたちの写真が見えないかな〜」
二枚の写真を「ひらひら」とまるで動物を餌で釣るような動作で見せびらかす。
その写真を見て椎葉姉妹の二人は驚いてしまう。
自分たちが写った至って普通の写真なのだが……。二人は写し出されていた自分たちの姿を見て驚いた訳ではなく、自分たちの後ろに写っていたモノに対して驚いてしまったのだ。
椎葉姉妹の反応に黒装束の四人はまた「クスクス」と小馬鹿にしたように笑い始める。
「さ〜て、ここで問題です。この写真はどうやって手に入れたでしょう? 一、ネットオークション。二、盗撮。三——えっと、その他でいいか……。さて、どれかな?」
二人を挑発するかのように唐突に指折り数えながらリーダー格の人物がクイズ形式の質問を投げかけた。
そんな馬鹿げた問いかけに椎葉妹は胸糞悪そうに「チッ」と舌打ちをする。
「……ふざけないでください。さすがの私もそろそろ怒りますよ」
少し声のトーンを落として威嚇するように鋭い目つきで相手を睨みつける椎葉姉だが、それでも彼女の沸点には程遠かった。
そんな事よりも写真の入手方法が気になってしょうがなかった。
——どこで手に入れた?
——いや、むしろどうやって撮影した?
「そんな顔しない、しない。折角のかわいい顔が台無しなっちゃうよ」
真剣に悩む椎葉姉に対して、おちゃらけた態度で先方は茶化してくる。
「誰がそんな顔にさせたと思ってる」と、心の中で突っ込みつつも悩みの種は解けず仕舞い。
「そうそう、お嬢ちゃんたちって……。——この世界の人間じゃないんでしょ?」
ワザとらしく何かを思い出したかのよう「ポン」と手を打って、唐突にそんな言葉を投げかける。
それに対して椎葉姉妹の二人はバツが悪そうに表情を曇らせた。
そして、その言葉をきっかけに椎葉姉の悩みは解決する。
それは認めたくなかったが「この集団は少なくとも自分たちの知らなくてもいい、情報まで掴んでいる」と踏んだのだ。
その証拠に先ほど見せられた写真には自分たちが通う学院の校門が写し出されていた。
——そんな事、決してあり得る筈がない事だった。
——椎葉姉妹が通う学院はこの世界ではなく、違う世界にあるのだから……。
「……だとしたら?」
威圧するように睨みを利かせて椎葉妹が口走る。
「怖いなぁ〜。言っとくけど、こう見えて博愛主義者なんでね。異世界の人間だろうと忌み嫌うなんて愚かな事はしないよ」
手振りを使って小芝居のような動作でそう訴えかけるが、そんな事は椎葉姉妹にとってはどうでもいい事だった。
「自分たちの情報を掴んでいるのだから、少なくともこの集団の目的は自分たちなのだろう」と思い至ったが、自分たちが狙われる理由が思いつかなかった。
「——そう、愚かな事はしない。ただ、僕らの大司教さまの計画を邪魔されないように時間潰しに付き合ってもらうのみ」
「へぇ〜その大司教って奴がアンタたちの親玉か?」
「親玉って言うより悪玉だね。それと、教えてくれないと思いますが……一応聞いておきます。——貴方たちの計画って何でしょうか?」
「ほら、それはさ——流れ的にも言わなくても分かるでしょ?」
「……力づくって事か?」
「全く……か弱い少女に無茶な事を要求しますね。——ナルちゃん」
椎葉姉の言葉をきっかけに椎葉妹は「待ってました」と言わんばかりに黒装束の集団に向かって勢いよく走り出した……。