ダーク・ファンタジー小説

(1)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 ( No.27 )
日時: 2012/06/20 19:46
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/14/

 その行動に黒装束の四人は臨戦態勢に入る。
 それを見て椎葉妹は「ニヤリ」と口元を緩めて、勢いが乗ったスピードのまま地面を強く蹴って宙を舞う。
 その流れのまま飛び蹴りの態勢を作ると、

 「ナ〜〜ル〜〜キ〜ック!」

 と、叫びながら先ほど小馬鹿にした肥満体形の人物に向かって飛び掛かった。
 椎葉妹が突き出す右足が肥満体形の人物のちょうど首元にえぐり込むように入り、その勢いのまま肥満体形の人物は後頭部から地面に叩きつけられる。

 そして、未だに勢いが衰える事無く引きずられるような形で地面をえぐり。
 砂塵を巻き上げながら椎葉妹の「スケートボード」と化した肥満体形の人物は、彼女の勢いがなくなるまで、その状態が続いた。

 「……やべ。勢いのあまり、殺ってしまったか?」

 ようやく止まった「スケートボード」もとい肥満体形の人物の上でそう呟く。
 肥満体形の人物の衣服は擦れてボロ雑巾のようになり。
 肌が露出した部分は椎葉妹の飛び蹴りの勢いを物語っているかのように皮膚が無残にもえぐられ、血みどろになっていた。

 「ナルちゃん、ちょいやりすぎ。——それと技名を叫ばないで。……恥ずかしいから」

 こういう事態には慣れているのか、淡々と妹に苦言を呈した椎葉姉は残りのメンバーに「まだ、やりますか?」と、鋭い目つきの視線だけで投げかける。
 それを正確に読み取れたのか、黒装束の三人は少したじろいで見せたが。
 何を思ってか唐突に身体を震わせ。そして、大声で笑い始めた。

 「仲間が倒されているこの状況下で、どうして笑う事が出来るのだろうか」と椎葉姉妹は少し顔を引きずりながら相手の出方を窺う。と、

 「——そろそろ、演技はやめたらどうだ?」

 突然、リーダー格の人物が独り言のように呟いた。
 その言葉と呼応するように椎葉妹に倒されたはずの肥満体形の人物の身体が「ピクッ」と動く。
 違和感を察知して、すぐさま椎葉妹は肥満体形の人物のから離れて距離を取ると。
 血みどろになったボロボロの身体を揺らしながら肥満体形の人物が徐に立ち上がった。
 そして、何事もなかったように骨を「パキポキ」と、鳴らしながら。凝りを取るように首を回した。

 「ホント、魔法の薬は凄いなぁ〜」

 と、肥満体形の人物の無事な姿を見て、リーダー格の人物が呟いた。
 その言葉を聞き逃さなかった椎葉姉は「魔法の薬」とは何かを期待薄で尋ねる。

 「……魔法の薬って、何ですか?」
 「ほら、言わずとも分かるでしょ?」
 「……夢想薬、ですか?」
 「まぁ〜それも正解なんだけど……それとプラス。最近、この街で主流の飛べる魔法の薬……ルクエラってご存知? それで僕チンたちはパワーアップって訳。自前に飲んでいて助かった〜」

 軽快な口調で語ったリーダー格の言葉に椎葉姉は「なるほど」と、納得したのか静かに頷いた。
 椎葉姉は「ルクエラ」と呼ばれる薬が恐らく人間の痛覚を麻痺させているんだと考えた。
 それは椎葉妹にズタボロにされ、血みどろながらも平然と立ち上がったあの肥満体形の人物が目の前にいる事が何よりも証拠である。

 「——さてと、そろそろ本気で行かせてもらおうかな」

 徐にそう口走ってから黒装束の集団は懐から液体の入ったガラス瓶を取り出した。

 「えっと……神よ。我らに力を!」

 そんな言葉を唱えてから念じるように自らの手首を刃物で切り付けて、液体が入ったガラス瓶に己の血液を垂れ流し。
 そして、その液体を一気に飲み干す。
 と、黒装束の集団は一斉に苦しそうに首を掻きむしるような動作を取り始めた。

 ——泡を吹き。

 ——瞳孔が開き。

 ——焦点が合わないほどに眼球が揺れ動く。

 何かを掴み取ろうと天に腕を伸ばし。空を握りしめた黒装束の集団の口元は自ずと歪み。
 不敵な笑みを浮かべながら椎葉姉妹を見据えた。
 彼らから嫌な気配を感じ取った椎葉姉はすぐさま椎葉妹に「こちらへ戻ってくるよう」に小さく手招きで合図を送る。
 合図を読み取った椎葉妹は急いで姉がいる場所まで駆け足で戻ろうと試みたが。

 ——肥満体形の人物ともう一人。

 中肉中背の人物に行く手を阻まれ。
 椎葉姉も同様にリーダー格の人物ともう一人いた長身の人物に囲まれた。

 「やべ……ちょい、ピンチか?」

 嘆くようにそうぼやいた椎葉妹は先方の出方を覗うように少し身構える。
 彼女の行く手を阻む二人は椎葉妹を指さして、それを下から上へと勢いよく突き上げた。
 すると、地面から鋭利に尖った氷柱が椎葉妹の目の前に突き上がった。

 それを目にして驚く椎葉妹を余所に、二人は外した事に「チッ」と舌を鳴らし。
 再び、椎葉妹を指さして今度は左に払った。
 その動作に我に返った椎葉妹は咄嗟に身体を後方に反らして「ブリッジ」の態勢を取る。
 と、同時に青白く輝く五芒星の陣と共に左方から氷柱が突き出し、腹部をかすめる程度で難を逃れた。

 ——もし、上体を反らしていなければ腹部をかすめる程度で済まされなかった。
 氷柱が出現した角度を見ると、椎葉妹の上体を目掛けて飛び出ていたからだ。

 すぐさま、態勢を整えた椎葉妹ではあるが、そこを目掛け。彼らは容赦なく指を上下左右に振って氷柱を続けざまに出現させる。
 が、それを椎葉妹は難なくバックステップ、時にはバク転、バク宙と軽快な動きで全てをかわし続け。
 「ある程度の距離を保てた」と、判断してブレーキを掛けるように地面に右手を着き。
 最終的に前屈みになるような形で二人と距離を置く事に成功。