ダーク・ファンタジー小説

(2)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 ( No.28 )
日時: 2012/06/20 19:49
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/14/

 ——椎葉妹と相対している二人の後方。

 そこにはリーダー格と長身の二人に囲まれた椎葉姉の姿があり。
 彼女たちの一戦を目の当たりにして、驚いた表情を浮かべていた。

 「……先ほど、貴方たちが飲んだ物のは夢想薬です、か」
 「へぇ〜。アレを見てもう分かっちゃったの? お嬢ちゃんの勘は鋭いね」
 「……からかわないでください」
 「褒めただけなんだけどな……。——まぁ〜いいか。あっちのお嬢ちゃんみたいに機敏な動きをして避けないでね」

 そう軽口を叩いてから二人は互いの片手を合わせて念じ始めた。
 合わせた手を引き離すように間から白い冷気が漏れ出し。
 何かモノが徐々にではあったが成形し始める。
 それを引き抜くように二人して空いた腕をそこに突っ込む。

 【ジュ〜】

 と、音を立てながら勢いよく吹き出る白い冷気と共に、二人は突っ込んだ腕をゆっくりと引っ張り出した。
 すると、二人の腕が見事に凍りついている。
 が、リーダー格の人物の左腕には氷の刃。
 長身の人物の右腕には氷の槍。
 と、それぞれの腕に絡みつくように、二人の腕がそのまま武器と化していた。
 その氷の武器と化した腕を見て椎葉姉は驚く事無く、冷静に分析し始める。

 ——これは造形魔法?

 ——それとも装着魔法?

 と、考えを巡らせている間に、氷の槍と化した右腕を長身の人物がパンチを繰り出すかのような動作で椎葉姉の顔に向けて突き出し。
 それをすんでの所で椎葉妹は「ひょいっ」と首を傾けて避けた。

 「……年頃の少女の顔を目掛けて攻撃をするなんて……。——貴方、最低ですね」

 攻撃を繰り出してきた人物を吐き捨てるように冷たい眼光で睨み、牽制し。
 バックステップで少し距離を置いて椎葉姉は態勢を整える。
 そこにすかさず左腕を氷の刃と化したリーダー格の人物がその腕を水平に振って所謂「払い切り」を試みたが、椎葉姉はその行動を読んでいた。

 彼女はその場でジャンプをして、払い切りを避け。その流れのまま、無防備となったリーダー格の人物の顔を足場代わりに強く蹴り出し、後ろに弧を描くように宙を舞った。
 そして、見事に着地してから二人との距離を広げる事に成功。

 「全く……寄ってたかって、か弱い少女に物騒なモノを振りかざして……」

 嘆くようにぼやく椎葉姉は妹の事が気になり、

 「ナルちゃ〜ん! 大丈夫〜?」

 と、普段声を張る事がないため、少し裏返った声で妹の安否を確認する。
 が、言うまでも無く。椎葉姉の顔は恥ずかしそうに赤面していた。

 「おう! こっちは無事だ!」

 肥満体形と中肉中背の二人が繰り出す氷柱攻撃を軽快にかわしながら大声で返答する椎葉妹は先ほど一旦距離を置いたものの。
 「防戦一方は性に合わない」と彼らの攻撃をかわしつつ距離を詰め。
 二、三発パンチや蹴りを急所に繰り出して反撃を試みたが「ルクエラ」の効力によって痛覚が麻痺している先方にあまり効果が見られなかった。

 そこで仕方なく椎葉妹は防御に徹しているが、そろそろ我慢の限界に達しようとしていた……。

 「——なぁ〜姉貴! そろそろ反撃したいんだけど、合流出来ないの!?」

 波状攻撃をかわしながら椎葉姉に大声で「反撃をしたい」と訴えかけるが、その椎葉姉もリーダー格と長身の二人が繰り出す波状攻撃を危なげなくかわし続けていた。
 だが、椎葉妹と違って椎葉姉は体育会系の人間ではないため。徐々にではあったが、息が上がって来ていた。

 「……はぁ〜。うん……そう、だね。私の体力が持たなそうから早いとこ反撃しないと、ね……」

 少し息を切らしながらも懸命に攻撃をかわして返答をする椎葉姉の状態に懸念を抱き始めた椎葉妹は「隙を見てこちらから出向けばいいか」と考えた。
 そこで椎葉妹は「自分で隙を作ろう」と攻撃を避けるため、後退していた足を止めて。
 突然、地面に両手と膝を着いて「クラウチングスタート」の構えを取った。

 「——位置に着いて。よ〜い……スタート!」

 自らの口でスタートの合図を取って、相対している二人に向かって走り出した。
 風を切るように徐々にスピードを上げながら、先方から繰り出される攻撃を容易くかわしつつ、距離を一気に詰める。

 そして、地面を強く蹴って大きな跳躍を見せた。

 「——秘技、椎葉流目眩ましの術!」

 空中から、彼らの顔を目掛けて砂を投げかけ。
 それをダイレクトで目にかかった二人は反射的に目を瞑る。
 いくら「ルクエラ」で痛覚が麻痺しているとは言え「目を狙えば、誰だって反射的に目を瞑るだろう」と考えた椎葉妹。

 ——それともう一つ。

 わざわざクラウチングスタートをしたのは、目眩ましを行うための道具——この校庭に山ほどある砂を掴み取るためのものであった。

 目を瞑って怯んでいる二人の顔を足場に強く蹴り出して、椎葉妹はさらに天高く舞い上がる。
 捻りを加えながら回転して椎葉姉がいる方向へと、空中で強引にも方向転換をする。
 そして、地面に、

 【ドシン!】

 と、両足で着地をしてから、そのまま何事もなかったように再び走り出した。

 「姉貴〜! 手! 手袋を早く付けろ〜!」

 大声で叫んで、椎葉姉に手袋を付けるように催促する。
 その声に椎葉姉は息を切らしながらも懸命に相対している二人の攻撃をかわしつつ、スカートのポケットから金色の五芒星の刺繍が入った黒い手套を取り出して、それを左手にはめる。と、

 「サラ!」
 「……サラちゃん!」

 突然、二人が叫んだ声に応えるかのように。
 彼女らの背後に白いローブを身に纏い、紅いルビー色の綺麗な瞳が特徴的な赤髪の幼女が突然、姿を現した。

 その幼女らは召喚者である椎葉姉妹に影響されてか、椎葉姉の背後にいる幼女は少し垂れ目で「うじうじ」としていて。椎葉妹の背後の幼女は少し吊り目で「元気ハツラツ」としており、どうやら双子の姉妹のようである。

 そして、その赤髪幼女たちを呼び出した影響なのか、椎葉姉妹の瞳の色が幼女たちと同じく赤色へと変化していた。

 その間に椎葉妹が目眩ましをした肥満体形と中肉中背の二人が回復しており。
 椎葉妹に対して再び指をさして、下から上へ突き上げるように振るった。
 それに呼応するように地面から氷柱が飛び出し、それをすんでの所で椎葉妹は身体を捻ってかわす。
 と、椎葉姉に黒い手套を付けた右手を差し出して。
 それと同様に椎葉姉も手套をはめた左手を差し出し、

 『ハイ!』

 と、元気良くハイタッチを交わした。
 すると、椎葉姉が左手に身に付けた黒い手套から青い炎。
 椎葉妹が右手に身に付けた黒い手套からは赤い炎と、それぞれの手に炎が灯り。
 「反撃に打って出よう」と、椎葉妹は炎が灯った右手で拳を作って。椎葉姉が相対している二人の片割れに向かって走り込んだ。

 「——ス〜パ〜ナルストレ〜〜ト!!」

 低空飛行をするように低い姿勢を保ったまま、椎葉妹は長身の人物の腹部に炎の拳を叩き込む。
 腹部をえぐるように拳はクリーンヒットし。
 その威力を物語るように拳を打ち込まれた人物は後方に吹き飛び。
 砂塵を巻き上げながら地面の上を滑走した。

 パンチがヒットして椎葉妹の右手の炎は消えたが、続けざまにリーダー格の人物に牽制の意を込めて、左足を強く地面に踏み込み、残った右足で回し蹴りを叩き込んだ。
 それが先方の腹部に当たり。
 見事、椎葉姉を助け出す事に成功する。

 が、そのガラ空きとなった瞬間を狙って。椎葉妹と相対していた肥満体形と中肉中背の二人が椎葉妹を目掛けて指を振った。
 だが、彼らの動作を椎葉姉はしっかりと捉えており。左手に灯った青い炎を縄状に変形させて妹の身体に巻きつかせる。

 そして、氷柱が地面から出現すると同時に椎葉妹を手繰り寄せ、救出に成功。
 しかし、椎葉姉の左手の炎も椎葉妹同様に消えた……。