ダーク・ファンタジー小説
- (3)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 ( No.29 )
- 日時: 2012/06/20 19:51
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/14/
「——ふぅ〜助かったぜ」
「お互い様だよ。——それにしても、こんな短時間の間にナルちゃんは露出狂にでもなったんですか?」
そう、苦笑交じりに椎葉姉は口走る。
椎葉妹がブリッジ回避をした際、腹部の部分が破れてしまい。不可抗力とは言え「へそ出しルック」と化してしまった彼女の様相を見て、椎葉姉は苦笑交じりに茶化したのだ。
「これは最近流行りのファッションだよ。——それを言うなら姉貴もパンクコスメみたいな事になってるぜ」
「……えっ?」
椎葉妹に頬を指さされ、椎葉姉は徐にその頬に触れる。
すると、右頬に切り傷が出来ており手に血が付いた。血の付いた右手を椎葉姉は見つめながら身体を小刻みに震わせ。
「ブチっ」と、静かに憤怒し。
その反動で少し垂れ目気味だった目が鋭く冷たい眼光に変わり果ててしまった。
それを見た椎葉妹は「あちゃ〜」と額を押えて「言うんじゃなかった……」と後悔する。
「…………手」
静かに呟いた椎葉姉の口元は歪み、凄惨な表情がさらされていた。
そのような姿の彼女から発せられた言葉に、椎葉妹は顔を引きずりながらも、素直に手を差し出し。
背後で「ぷかぷか」と浮かぶ双子の幼女たちも、椎葉姉の現在の姿には畏怖の念を抱かざるを得なかった。
椎葉妹が差し出した手に椎葉姉は静かにタッチをして、再び互いの手套に炎が灯る。
が、椎葉姉の青い炎が黒い炎へ変化しており。
その炎で今度は弓の形に成形した椎葉姉は、自分の頬に傷を付けたであろうリーダー格の人物に向かって黒い炎で創った矢を射った。
黒い炎を纏った矢は風を切り。
目にも止まらぬ速さで先方の左脇腹を射貫くと同時に、黒い炎の矢は激しく燃え盛った。
「——大丈夫。急所はあえて外していますから……。それに……貴方たちはルクエラのおかげで痛覚が麻痺しているんでしょ……? ——だから、大丈夫……だよ、ね……?」
凄惨な笑みを浮かべながら静かにそう呟く椎葉姉を目掛けて、肥満体形と中肉中背の二人が指を振って、椎葉姉の右方から氷柱を出現させた。
氷柱は椎葉姉に命中したのか、その衝撃で姿が見えないほどの白い煙が辺りに発生した。
しばらくして、風の影響で白い煙が流されて。全貌が露わになったその場所には椎葉姉が黒い炎で大きな盾を創って氷柱攻撃を防いでいた。
先ほどの白い煙は黒い炎の火力に負け、氷柱が溶けて蒸発したために起こったモノだったようだ。
椎葉姉は自分に攻撃してきた者たちの事を鋭く冷たい眼光でゆっくりと見つめ、徐に凄惨な笑みを溢した。
そして、また椎葉妹の手を静かにタッチして。
再び、黒い炎が灯った左手で今度は黒い炎を纏った長い鞭を成形し。それで果敢にも攻撃をして来た者らを軽く薙ぎ払った。
すると、見兼ねた椎葉妹が、
「……姉貴。そろそろやめないと、本当に殺してしまうぜ」
と、制止に入った。
いくら「ルクエラ」で痛覚が麻痺しているとは言え。
身体自体は普通の人間のそれと変わりがない。
だから、椎葉妹は虫の息になりかかっている者がいるのを発見し、静かに椎葉姉の肩を叩いて制止に入ったのだ。
「…………えっ? ああ、そうだね……」
妹の制止に素直に耳を傾け頷いた椎葉姉の目付きは、元の目に戻っていた。
どうやら、正気に戻ったようである。
「——さてと、希望通り。力づくで、アンタたちを屈伏させた訳だが……」
「……そうですね。そろそろ教えてもらえませんか?」
二人は約束通りに計画を教えてもらおうと尋ねた。
すると、黒装束の集団が突然、天を仰いで手を掲げ。
そして、もがくように何かを掴もうと必死に手を動かし始めた。
「この人たちは何を掴もうとしているんだろう」と、思い。椎葉姉妹はその手の先に視線を向ける。
と、そこには青い球体が彼らに捕まらんと動き回っていた。
『——えっ? 精霊……?』
青い球体を見て力無く口走った椎葉姉妹とは対照的に黒装束の集団は必死に青い球体を追い続けていた。
何かに取り憑かれたようにそれを懸命に追い求める。
決死に伸ばす腕も先方に「ひらり」と容易くかわされ。
そして、崩れ落ちるように膝をつき。這いつくばりながらでも、なお青い球体を掴み取ろうと黒装束の集団は腕を伸ばし続ける……。
そんな彼らに無情の知らせを告げるように。
身体から蒸気のようなものが少しずつであったが発生し始めた。
そんな光景を目の当たりにし「何が起こったのか分からず」椎葉姉妹は首を傾げて間の抜けた表情を浮かべてしまっていた。
——数分が経過した頃に、黒装束の集団の身体から炎が発生し。
それを見て、ようやく何が起こったのか理解した椎葉姉妹は静かに頷いた。
「……夢想薬の副作用か」
「……だね」
と、力無く口ずさむ。
黒装束の集団は身体を炎に燃やされながらも、今もなお宙に舞う青い球体から視線をそらす事なく、腕を懸命に伸ばし続けた。
皮膚は焼きただれ、血肉が浮き彫りになりつつある彼らの姿を見るに堪えなくなった椎葉姉妹は視線をそらしてしまう。
そして、炎は黒装束の集団を燃え尽くして満足したかのように、徐々にその炎の勢いを弱め鎮火していき。
皮膚が全て剥がれ落ちた状態となった彼らは未だに宙を舞い続ける青い球体を見つめたまま、
『夢見る愚者たちに祝福を……』
と、謎の言葉を唱えて。
——そのまま静かに息絶えた……。