ダーク・ファンタジー小説

第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の三 ( No.36 )
日時: 2012/06/24 20:15
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/19/

 「作戦成功?」
 「ああ、そうみたいだな」

 まさかここまで作戦が上手く運ぶ事になるとは思わず、拍子抜け感が否めない表情を浮かべる二人は黒装束の集団の様子を窺う。
 黒装束の集団は全員で五名おり、何かを探すように辺りを詮索していた。

 その行動に柱の陰に身を潜めていた二人は彼らに気付かれないように忍び足で雑居ビルの建物内に潜入し。身を隠せそうな部屋を探しまわる事にしたのだが、どこもかしこも物が取っ払われており、隠れ蓑に出来るような物が全くなかった。

 「チッ……。ここもダメか……」

 彗月がそう悪態をついた。
 二階まで上がって来た二人はこのフロア最後の部屋を今し方、見終わった所で。
 まだ、上階があるにも関わらず、隠れる場所が無くて彗月は少々苛立ちを覚えたのだ。
 そんな彼をなだめるように美鈴は彗月の手を優しく握った。

 「……どうするの、彗月。——戦うの?」
 「……相手の出方次第だけどな。——だけど、もしもの事があったら、美鈴……」

 力強い眼差しで彗月は美鈴の事を見つめ。
 咄嗟の事に美鈴は視線を彷徨わせて、たじろいでしまう。

 「……な、何?」

 美鈴は少し表情を強張らせ、たどたどしさを孕ませた声を発する。

 「……お前が邪魔だ。だから、お前が隠れられる場所をこうして探しているんだが……」
 「……ホント、もう少し言い方ってモノがあるでしょうに……」

 彗月の図星だけども心無い言葉に美鈴は徐に嘆息を吐いて額を押えた。

 「回りくどく言うよりはマシだと思ったんだが?」
 「分かったわ……。こっちはどうにかして隠れそうな場所を探すから、彗月はあの人たちの相手を……」

 先ほどとは反対に今度は美鈴が力強い眼差しで彗月を見つめ。
 その視線に何かを感じ取ったのか、彗月は目を閉じて感慨深く頷いて見せた。

 「……了解。——しくじるなよ」
 「こっちのセリフよ。事が終わったら……」
 「ああ、分かったよ。携帯に電話する」
 「違うでしょ。——明日、一緒に学校へ行こうね」

 微笑みながら言った美鈴の言葉に鼻で笑った彗月は彼女を残して、黒装束の集団が未だに自分たちを探しまわっているであろう広場に向かって駆け出した。
 彼が行く末を見届けた後に美鈴は小さく息を吐き、

 「自分もやる事しないと……」

 と、思い改めて足を踏み出した。

 この作戦は……。

 ——と、言うより。今までの行動は全て自分の身を案じてくれた彗月の優しさだと言う事を察していた美鈴は自ずと唇を噛み締める。

 もしも、あの黒装束の集団が自分たちを狙っているのなら彗月の身の安全のためにも、自分が彼らに捕まる訳にはいかない。

 そう心に誓い。

 ——久遠寺美鈴は安全な場所を求め、彷徨い歩く……。