ダーク・ファンタジー小説

第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の四 ( No.37 )
日時: 2012/06/24 20:19
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/20/

 「居た?」
 「いえ、どこにも居ません」
 「ふむ……建物内、かな?」

 黒装束の集団を束ねるリーダー格らしき人物が仲間たちに指示を出し。
 探し終わって一時報告に戻ってくる仲間と会話を交わす、広場風景……。

 その光景を雨宮彗月は高みの見物と言わんばかりに、広場を見渡せる雑居ビル二階テラスの縁に取り付けられている鉄製の手すりに腰掛けて、優雅に佇んでいた。

 「——誰をお探しですかな? 隊長殿」

 上から見下ろし、小馬鹿にしたような口調で彗月は黒装束の集団に投げかける。
 突然、投げかけられた謎の声に黒装束の集団は少しうろたえたが、その声の主を探さんと辺りを見渡し。

 そして、雑居ビルを見上げると、そこには手すりに腰かける少年の姿があり。
 それを捉えた黒装束の集団は揃って口元を歪めた。

 「……そちらからお出ましとはね」
 「それはこっちのセリフだけどな。アンタらが電波塔でこっちを見張っていた事を気付いてなかったとでも?」
 「……なるほど」

 リーダー格の人物はあの時点で自分たちの存在がバレていたのかと知り、頷く。
 途中からおかしな行動を取り始めた彗月たちの意図がようやく理解出来た瞬間である。

 「で、アンタたちは何者? それとどうして俺を狙う?」
 「私たちはただの革命者だよ。それと君は面白い事を言うね。——『俺』をじゃなくて『俺ら』じゃないのかな?」

 もう一人……。

 ——久遠寺美鈴が「この建物内のどこかにいるって事はバレバレだよ」と諭すような言い草で彗月の言葉を訂正する。

 「……言葉の綾だ。気にすんな。それとまだ質問に答えてもらってないんだが?」
 「そうだねぇ〜暇潰し、時間潰しって所だよ」
 「その暇潰し、時間潰しとやらはストーカー行為までするのか?」

 この言葉に黒装束の集団は少しきょとんとして変な間を開けた後に突然、口元を押え「クスクス」と笑い始めた。
 彼らの姿に彗月は眉をひそめ、少ししかめ面になる。

 「ホント、君は面白いね」
 「……どういたしまして」
 「で、さぁ〜。一つ提案なんだけど……」
 「サイン以外なら何でもいいぜ」

 彗月の言葉にリーダー格の人物は腹を抱え、苦しそうに大笑いする。
 それにつられて他の連中も腹を抱えるまではいかないけれど、大笑いした。

 「……ホント、面白いなぁ〜君は……。ああ、愛おしくなるよ。……だけど、生憎サインじゃないんだよね。——時統べる魔女と我らの大司教さまがサシで殺り合うだけの時間を稼がなきゃならないんだよ。だからさ、結果はどうあれ、決着がつくまでさ……。私らと暇潰し、時間潰しの余興に付き合わない?」

 笑い過ぎて涙が出たのか、目元を拭きながらリーダー格の人物がそう話し。
 その言葉に彗月は「ビクっ」と少し身体を強張らせた。

 ——時統べる魔女。

 ——大司教。

 この二つのワードに引っ掛かった彗月。

 「大司教」と呼ばれる人物は「彼らを束ねるリーダーだろう」と瞬時に理解出来た彗月だったが……。
 「時統べる魔女」と呼ばれる人物は「自分が思い描いている人物と彼らが思い描いている人物とでは、差異があるんじゃないか」と推測した。

 ——それは、何よりもこの状況が物語っていたからである。

 しかし「相違があろうと、その人物に危険が及んでいるのならすぐにでも助けに行かないと……」と、結論付けた彗月は小さく息を吐き、気持ちを切り替えた。

 「……拒否権は?」
 「この会場に来場したその瞬間、君には拒否権はありませ〜ん。強制参加となりま〜す。ちゃ〜んと招待状を見てくれたかな?」

 「ひらひら」と彗月と美鈴が写った写真を見せびらかせ、それを「招待状」と見立てているのか、文字も何も記されてない写真を指さしながらリーダー格の人物はそう軽口を叩く。

 「……生憎、招待状は受け取って無いんでな。そちら側のルールなんて知らん」
 「まぁ〜そう言わずに、ね。楽しもうよ。折角のパーティーなんだからさ」
 「そこまで言うなら丁重に持て成せよ」
 「かしこまりました。——では、さっそく……」

 燕尾服を着こなす執事のような丁寧なお辞儀をして、先方は「パン、パン」と、二度軽く手を叩いた。
 その合図と共にリーダー格の人物以外の四人は身構えて臨戦態勢に入る。
 彼らの行動に彗月は怪しく口元を緩めてから、そのままためらう事無く二階から飛び降りた。

 膝を曲げ。

 右手を着き。

 そう格好良く着地をしてから周りに聞こえない声量で、

 「……死ぬかと思った」

 と、彗月は呟いて徐に左手で胸を押える。
 自分が「高所恐怖症」と言う事を忘れて格好を付けるためだけに、二階テラスの手すりに腰を掛けて、彼らの事を見下ろしていたのだ。

 ——もちろん、その間は恐怖でずっと身体が震えたままだった訳だが……。

 「——で、アンタはパーティーに参加しないの?」

 何事もなかったように平然を装いながら、他の者らと違い何も準備をしていないリーダー格の人物に不意に投げかけた彗月。
 その問いに、

 「君は先にメインディッシュ、デザートから食べる派なのかい?」

 そう軽い口調で発せられた言葉に彗月は「にやり」と不気味に微笑んだ。

 「……なるほど、ラスボスって訳ね」
 「その方が盛り上がるでしょ?」

 彗月に負けじと、こちらも不敵に微笑む。
 そして、右手で銃の形を作り、銃口を彗月に向けて、

 「バン!」

 と、口ずさんで、スターター役を演じた。
 その即席スターターピストルの音と共に、彗月を中心に扇状に展開していたリーダー格以外の四名は一斉に彗月に向かって動き出した……。