ダーク・ファンタジー小説
- (2)第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の六 ( No.41 )
- 日時: 2012/06/26 21:30
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/22/
「ふぅ〜。今のは焦った……」
「むぅ〜さっきので決まったと思ったんだけどなぁ〜」
唇を尖らせて悔しさを露わにしたリーダー格の人物は左足で地面を蹴った。
蹴った足の動きを見ながら彗月は攻撃を避けて「これは違う」と見切る。
さらに先方は右足で地面を蹴り、稲妻を放出させる。
この攻撃も彗月は避けて「これも違う」と見切る。
すると、リーダー格の人物は徐に深呼吸をして瞳をゆっくりと閉じ。
準備が整ったのか、
「——It’s a Show Time!!」
「パチン」と、指を鳴らして軽快な口調でそう叫ぶとリズムを取りながらステップを刻み始めた。
軽快にステップを刻む度に彗月に向かって稲妻が放電され続け、その姿は踊り子のように可憐に舞っている。
先方から放電される稲妻を避けつつ、そのステップの動きを目で追い続ける彗月はどこかで必ず入れて来るであろうスピードの速い放電ステップを見極めんと瞬きをするのを忘れながら目を凝らしていると……。
——とあるステップを刻んだ瞬間に放電された稲妻の到達時間が短いモノを発見。
「……ふむ」
と、唸りながら「もう一度先ほどのステップが来ないか」と稲妻攻撃をかわし続け。
待ちに待った例のステップをリーダー格の人物が刻んだ。
そのステップで繰り出された稲妻は彗月の見立て通りにほかのステップで繰り出されたモノよりも速いスピードで到着し。
「ふぅ〜」
と、息を吐いて自分の考えに確証を得た彗月は攻撃に転じる事にした。
踊り続けるリーダー格の人物に向かって彗月は果敢にも走り出し。
「距離を詰めるほど稲妻が到達する間隔が短くなる」と言う事を念頭に置きつつ、放電攻撃をすんでの所で避けながら突き進む。
突き進みながら先方の足元から目をそらさずにしていると、例のステップをリーダー格の人物が刻み。
それと同時に彗月はすぐに横に逸れてかわし、すぐ目の前に迫る相手に向かって右手に予め創っておいた水球を叩きこもうと腕を伸ばそうとした瞬間!
何を思ってか、彗月は咄嗟にその足を止めてバックステップで後退する。
——その直後、彗月の目の前に稲妻が落ちて来た。
地面から天に向かって稲妻がほとばしった訳でもなく、自然現象で起こる落雷のように天から地面に向かって稲妻が落ちて来たのだ。
それをすんでの所でかわした彗月だったが、浮かない顔をさらしている。
「……そんな事も出来るのかよ」
「いやいや、私もびっくりだよ。さっきの君の行動には焦っちゃって、思わず使わせてもらったよ」
と、軽口を叩きながらステップを刻むと、さらに手振りを追加させた。
刻んだステップで地面から稲妻が天に向かってほとばしり。
「パンパン」と手を打つと、天から稲妻が落ちて来ると言った稲妻攻撃の連続に彗月は後退しながら避け続け。
折角、リーダー格の人物との距離を詰めたと言うのに振り出しに戻されてしまった。
——先ほど彗月が見抜いたステップ放電の法則は至って単純なモノだった。
それは両足で同時に地面を蹴る時のみに速いスピードの放電攻撃を繰り出せるようなのだが……。
しかし、それを見抜いた所で今度は「手を打つ」と稲妻を落とせる攻撃を加えられ。
仮にこの攻撃もステップ放電のように法則性があるのなら、とてもじゃないけれど見抜いている時間なんて彗月にはあまり残されてはいなかった……。
「ニンフ。——残りのカウントは?」
「……もう、三百秒を切りました」
「……そうか」
残りのカウントを聞いた彗月は大きく息を吐く。
と、
「——なら、ニンフ」
「はい、分かりました」
そう会話を交わした二人はゆっくりと瞳を閉じて大きく深呼吸をして、
「……これよりカウント二秒毎に変更。——ネゲーションモード発動!」
と、ニンフは瞳を閉じたままそう唱え、黒い六芒星の魔法陣が彼女の周りに展開した。
その言葉を聞いた後に彗月は徐に瞳を開ける。
——と、瞳の色がニンフと同じく澄んだ碧い色に変化していた。
しかし、ニンフは瞳を開ける事無く、閉じたままでいる。
瞳の色が変化し、雰囲気が変わった彗月にリーダー格の人物は少し後退りするが、思い切って右足で強く地面を蹴った。
「……ん?」
と、リーダー格の人物は思わず小首を傾げ、もう一度右足で強く地面を蹴ってみる。
が、何も起こる事は無く、その間にも彗月は一歩ずつ一歩ずつ距離を詰めていた。
「——無駄だ。この目の前ではあらゆるモノの事象、全て否定される。この言葉だけで、どういう意味か分かるよな。——魔法使い」
凄惨な笑みを浮かべながら近づく彗月に焦りの色が隠せない先方は、右足でダメなら左足と……。
片足でダメなら両足と……。
ステップ放電がダメなら手打ちと……。
いろいろ試してみるが何も起こる事無く、彗月はもう目の前にやって来ていた。
彗月はリーダー格の人物の頭部に右腕を伸ばし、撫でるように軽く掴んだ。
そして、ゆっくり瞳を閉じて息を吐いた後に、またゆっくり瞳を開く。
——と、瞳の色が元の澄んだ黒色に戻り、ニンフも閉じていた瞳を徐に開ける。
「……あの目を使ってるとさ、使用者関係なしに全てのモノ否定してしまうんだよ」
そう呟いた言葉にリーダー格の人物は咄嗟に彗月の腹部に向かって、拳から突き出す閃光攻撃を繰り出そうとしたが、
「……遅い。眠ってろ」
と、彗月は瞬時に水を発生させ、先方の顔を覆うように水玉を成形させた。
リーダー格の人物は必死にもがき、水玉を剥がし取ろうとするが徐々に力が尽きて来て。
——最終的には他の者のようにそのまま堕ちてしまった……。
気絶を確認した所で彗月は水玉を解除する。
それと同時にニンフが「カウント零秒になった」と伝え、それを聞いた彗月は徐に小さく息を吐いた。
「……結構てこずったなぁ〜」
「そうですね。——で、彗月さま。約束は忘れていませんよね?」
「ああ、しっかりと覚えているよ。——さてと、美鈴に電話しないとな〜」
美鈴に電話を掛けようとズボンのポケットに右手を伸ばそうとしたその瞬間!
パーティーの前座として戦い、気絶させた黒装束たちの身体から蒸気が発生し。
そして、数分経過した後に炎が発生して、黒装束たちを焼き払った。
「今頃になって、副作用か……」
呟きながらその様子を窺っていると、彗月はある異変に気付く。
「……一人足りな、い……?」
前座の戦いで気絶させた人数は四人だったはずなのだが、彗月の目の前で夢想薬の副作用の影響によって焼かれている者が三人しかいなかった。
——なら、後一人はどこへ消えた?
そう思い悩むものの、
「まぁ〜いい、気が付いてどこかへ逃げたが、結局夢想薬の副作用で今頃焼かれているだろう」と、考えた彗月は気を取り直して美鈴に電話をする事にした。
【purrr】
と、着信音が鳴り響き、美鈴が出るのを待つ彗月は少し待ちぼうけを食らう。
「……ふむ」
と、もう一度美鈴に掛け直した彗月は聞き覚えのあるゆったりとした音色がどこからともなく聞こえて来て、思わず耳を澄ます。
その音色は雑居ビル内から聞こえており。
徐々に広場の方に近づいて来ていた。
自ずと音が聞こえてくる方向に彗月が視線を向ける。
——と、見覚えのある人物が何かを抱き抱えながら雑居ビルから現れて、それを見た彗月は驚きの表情をさらした……。