ダーク・ファンタジー小説

終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の二 ( No.47 )
日時: 2012/06/29 22:09
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/27/

 ——タイムタイム内部。

 無数の時計たちが「カチカチ」と音を立てながら時を刻み。
 時折り鳴り響く、心地の良い鐘の音色が辺りを包み込む吹き抜けの空間……。
 その空間には時を刻む時計以外は何もなく、天から降り注ぐ淡白い光が異世界のような雰囲気を醸し出していた。

 そして、この世界の中央には巨大なゼンマイを象ったようならせん階段がそびえ立っており、その階段に向かって大司教呼ばれる男性と久遠寺美玲は足を進める。
 二人が目指すらせん階段は天から降り注ぐ淡白い光に照らされながら、下方に向かって伸びていた。

 「——エスコートしてくださる? 侵入者さん」

 丁寧口調と共に黒い手套を付けた手が男性に差し伸べられ、ふとそちらに視線を向ける彼の視界には、先ほどの写真に写っていた黒の久遠寺美玲が映り込み。
 予期せぬ事に男性は無表情ながらも少し動揺しているように見受けられた。

 事務所で対峙した久遠寺美鈴とは違い、気品に満ちた物腰と雰囲気、口調もどことなくおっとりとした丁寧口調に様変わりしている現在の久遠寺美玲は、

 「どうかしましたか? 殿方なら女性をエスコートするのは習わしかと……」

 と、一向に差し伸べた手を引いてくれない男性に痺れを切らしたのか、そう指摘する。
 指摘された男性は渋々ながら腕を出して、そこに美玲は手を掛け。
 二人は腕を組みながら、らせん階段を一歩ずつ進んで行く。

 ——先の見えないらせん階段。

 一段踏む度に時を刻むように鳴り響く、ゼンマイが巻かれる音色が何かの暗示のような錯覚さえ覚える。

 「ねぇ〜侵入者さん。どうして私たちを狙うのかしら? そこだけがどうしても掴めかったの。教えてくださる?」

 ねだるような仕草で自分たちを狙う理由を美玲が尋ねる。
 先ほどまでの久遠寺美玲とは正反対の態度に少し対応に困るのか、男性は頑なに口を閉ざして何も言う事は無かった。
 そんな無愛想な態度に頭に来たのか美玲は頬を膨らまし、むくれてしまい。

 「いいですよ、別に……。後で言いたくなるようにたっぷりとお仕置きをしちゃいますから覚悟しといてくださいね」

 ウインクを送り、不敵な笑みを浮かべながら美玲はそう告げた。

 ——終始、無言の中。

 先の見えないらせん階段を一段ずつゆっくりとした足取りで下る二人の目の前に突如として現れた、淡白い光を帯びたモヤ。
 そこに躊躇いも無く、足を進める二人は淡白く光るモヤに吸い込まれるように無数の時計たちが時刻む、この不思議な空間から姿を消した……。