ダーク・ファンタジー小説

(2)終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の三 ( No.49 )
日時: 2012/07/01 01:07
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/28/

 「……そう、良かったですね。——侵入者さん」

 そんな女性の声が唐突に聞こえ、男性は血相を変えて辺りを見渡した。
 すると、何事もなかったようにけろっとした様相で久遠寺美玲が微笑みながら一歩ずつ男性に向かっていた。
 美玲の無傷な姿を見て、男性は驚きの表情を浮かべる。

 「——どうしてって、顔に出てますよ。嫌ですわ……。そこは淑女の秘密として処理出来ないでしょうか?」
 「……ふざけるなっ!」

 拳を握りしめて勢いよく立ちあがった男性はゴーレムに命令し、歩み寄って来る美玲目掛けて拳を叩き込ませる。
 美玲はそのゴーレムの拳目掛けて、両手に携える双銃を発砲しながら何事もなかったように歩みを進める。

 しかし、先ほどのように小さな弾丸ではゴーレムのごつごつした太い拳を止められるはずもなく、そのまま彼女は拳を叩き込まれた。
 間違いなくゴーレムの拳が美玲に直撃した光景を目の当たりにした男性は今度こそ勝利を確信する。

 だが、目の前には何事もなかったように平然とした素振りで男性に向かって歩み寄って来る美玲の姿が確認された。

 ——男性は命令する。

 それに応えるかのようにゴーレムは右、左と交互に拳を連続で美玲目掛けて叩き込む。
 しかし、美玲は相も変わらず、何事もなかったように平然と歩み寄って来る。

 ——それでもなお、男性は命令する。

 けれど、結果は変わる事無く、美玲はとうとう男性のすぐ目の前まで距離を縮めていた。

 「全く……。侵入者さんには正直がっかりですよ。もう少し、女性の扱いを学んだ方が良いですよ。——ゴリ押しだけじゃイケないですよ。……ほら、私が手本を見せてあげますわ」

 そう嘆くように話すと、美玲は男性を押し倒して馬乗りになった。
 そして、双銃を男性の口に押し込み、徐に恍惚な笑みを溢す。

 「どうですか? モノを咥えさせられるご気分は……。男性である侵入者さんにはさぞご経験のない事でしょ?」

 双銃を口に押し込まれ話す事も出来ず、苦しさのあまり涙を流す男性を見て美玲はさらにうっとりとして恍惚な笑みを浮かべる。

 「……そうですか。それほどおいしいですか。とんだ変態さんですね……。——そろそろこの子たちもイキたがっているので、もっと激しく舐め回してあげてくださいまし……」

 男性の口に押し込んだ双銃で美玲は凶悪的な笑みを浮かべながら口内を押し広げ、乱暴にかき回す。
 男性は成す術がないまま身体を震わせながら彼女にいいようにされ、苦しさのあまり彼はむせ返し、嘔吐する。
 それでもなお、美玲は双銃で口内を「クチャクチャ」と卑猥な音を立てながら乱暴にかき回し続ける。

 「この子たちもそろそろ限界のようです。変態さん、この子たちの気持ちを全部受け取ってあげてくださいね。——もちろん、一滴も零さずに……」

 微笑みながらそう告げると、美玲は双銃の引き金に手を掛け、男性の口内で躊躇なく発砲した……。
 乾いた二発の銃声と共に男性の血液が辺りに飛び散り。
 至近距離で発砲した美玲にも男性の血液が付着する。
 そして、男性の死をもって召喚したゴーレムは崩れ去った……。
 顔に返り血を浴びた美玲はそれを舌で艶やかに舐め取り、徐に不敵な笑みを浮かべる。

 ——すると、

 「ゴホッ!」

 と、嗚咽がし。
 そこには即死のダメージを負ったはずの男性の無傷の姿があった。

 「あらあら。駄目じゃないですか……。——一滴も零さないでって、言いましたよね?」

 自らの手で撃ち殺したはずの無傷な男性が目の前にいるのにも関わらず、美玲は淡々と先方に苦言を呈した。
 それに対し、男性は何が起こったか理解出来ずに呆然としてしまう。

 「先ほど、自分は久遠寺美玲に致命傷を負わされたはずなのに、なぜ生きているんだ」と男性は不思議に思った。
 そして、男性は「久遠寺美玲が持つ双銃に何か秘密があるんじゃないか」と考え。
 未だに口内に押し込まれたままの双銃に男性が視線を送り、その視線に気付いた美玲は徐に口を開き、

 「——先ほどの双龍神のお話の続きなんですけど……それに出て来る伝説の魔装具と呼ばれる物があるんですよ。でも、実際はその魔装具を見た者はおらず真相は闇の中……。——って、まぁ〜ソースがお伽噺なんだから当たり前なんですけどね。しかしですね、実際には実現するんですよ。それもこの世界ではない異世界に……。——ホント、見つけるのに苦労しましたよ。しがないアンティークショップで乱雑に置かれ売られていたんですよ。あの時はさすがの私も頭に来て店主に……。——って、愚痴はさておき……。その伝説の魔装具がこの子たちなんですよ。実際に目にするのはその時が初めてだったんですけど、目にした瞬間に感じましたね。——得体の知れないオーラを……」

 と、流暢に時には愚痴を漏らしながら伝説の魔装具の経緯について語った。
 しかし、男性が求めていた情報と違い。
 ただの雑談だった事にさすがの美玲も気付いており「ゴホン」と一拍を入れて本題に入る事にした。

 「——白は破壊を司り、黒は創造を司る……。この子たちの見た目通りの説明ですけど、そこがネックなんです。黒を白で塗りつぶし、白を黒で塗りつぶす。これの繰り返しこそがこの子たちの性質……。要するにこの子たちに撃たれてしまうとそのモノとして本来あるべき性質が破壊され、そして創り変える事が出来るんですよ。例えば、硬い物を柔らかい物にとか、他愛もない事ですけどね。——もちろん破壊したモノの性質をそのまま復元する事も出来ます。……理解出来ましたか?」

 伝説の魔装具の能力について語った美玲は、男性の口に押し込んだままの双銃の引き金を再び引き、容赦なく発砲する。
 案の定、撃たれた男性は即死。
 血液を辺りに撒き散らし息絶える。

 ——しかし、数秒後……。

 男性がまた「ゴホッ」と咳き込んで、息を吹き返した。

 「どうですか? ——また、生き返った感想は?」

 口に双銃を押し込んだまま男性にそんな質問を投げかけるが、男性は何も答えようがなかった。口に双銃を押し込まれたままでは口は利けない。

 「——ふむ、この状態では言いたくても言えないですよね。……でも、ダメですよ。悪い子にはお仕置きをしないと、ね……」

 男性にそう微笑みかけると、先方は堪らず涙を浮かべながら視線だけで美玲に何かを訴えかけた。
 その訴えかけを理解出来たのか、美玲は凄惨な笑みを浮かべながら、

 「らぁめ。言ったでしょ? 言いたくなるようにたっぷりとお仕置きをしちゃいますから覚悟しといてくださいね、と……。でも、心配しなくても大丈夫ですよ。——慣れて来たらこれも案外エクスタシーを感じられると思いますよ。だから、良かったですね——新たな極致を開拓出来て……」

 と、他人事のように淡々と話し。
 美玲はまた男性の口に押し込んだままの双銃の引き金を今度は焦らすようにゆっくりと引いて……。
 
 ——容赦なく発砲した……。