ダーク・ファンタジー小説
- 補 遺 〜久遠寺美玲 十三時十一分〜 ( No.51 )
- 日時: 2012/07/01 21:53
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/30/
美玲タ〜イム。
——ふむ、この姿で言うのは恥ずかしいものだな……。
まぁ〜いい、報告だ。
まずは、牧瀬流風からの報告——。
「魔法遣いになるまでの軌跡とその末路」と呼ばれるサイトが一八一三軸の世界のサーバーで立ち上がっており、夢想薬に関する機密情報を記載している模様。
ただちに現地の政府に報告し、削除を要請。
それから「夢見る愚者」と名乗る集団の幹部クラス三名と交戦。
夢想薬を使用し、魔法遣いになるが……副作用で焼死。
そのため詳しい情報を聞けず仕舞いで終わる。
——ねぇ〜美玲ちゃん。
本当は何か知ってたんじゃないの?
——ふむ、さすが流風と言った所、か……。
続いては、椎葉鳴、鳴(なる)姉妹からの報告——。
えっと、調査報告ですけど……。
今回の連続変死事件には色々な思惑があるように思いました。
それは事件が続くにつれて魔法の精度が上がって来ている事です。
そう、実験を繰り返しているかのような違和感を覚えました。
これは何か大きな事を起こすまでの言わば前座なんじゃないかなと思います。
調査をしている最中に変な集団にからまれた。
その集団は夢想薬ともう一つ「ルクエラ」って呼ばれる痛覚を麻痺させる麻薬を飲み、アタシらと交戦した。
途中、姉貴がキレてあわや相手を殺りかける所でアタシが制止し。
事無きを得たが……結局、夢想薬の副作用で焼死して、相手が何者かを聞けず仕舞いで終わる。
——そして、最後に……。
『雨宮先輩は論外!』
——ふむ、カマトトの着眼点はなかなか面白いな。
それにイケメンも良く頑張った。
しかし、彗月の奴は一体何を仕出かしたんだ?
それと、この報告書を学校に提出する私の身にもなれ……。
……まぁ〜いい。
続いては、雨宮彗月からの報告——。
調査中、おかしな集団に追われ交戦。
相手が夢想薬を飲み、魔法遣いになるが副作用で焼死する。
しかし、その集団の中に現地の魔法使いが二名混じっており、少々苦戦を強いられるが無事勝利した。
交戦中に久遠寺美鈴が覚醒し、一名の魔法使いの時が奪われ絶命する。
生き残りの魔法使いから奴らの計画を問い質した。
が、それはターゲットを間違っている事が分かり、計画は失敗したものと考えた。
——えっと、所長。
大丈夫だったんですか?
——ふむ、何だかんだで……仕事はきっちりするんだな、アイツは……。
さて、部下からの報告はこれで終了。
最後に所長である私からの報告だ。
——大司教と呼ばれる輩を問い詰めて吐かせた内容をここに記す。
奴は元々夢想薬研究に携わっていた研究者の一人だった。
しかし、上のやり方に不信感を抱いて行方をくらまし、流風の報告にあったように「魔法遣いになるまでの軌跡とその末路」と題されたサイトを立ち上げる。
そして、同じ志を持った同志(元研究者)たちと「夢見る愚者」なる集団を築き上げ、夢想薬の危険性を世間に広めようとした。
だが、目先の欲に走った人間どもには彼らの言葉は届かず、奇異な視線を向けられ軽くあしらわれる。
そこで彼らは夢想薬の危険性を世に知らせるべく、夢想薬を使用した変死事件を企てた。
が、政府及び警察は不慮の事故として処理し、最初の変死事件は呆気なく幕を閉じる。
それに対し、大司教は不慮の事故などとして処理出来ないほどの事を起こせば良いのだと踏んだ。
しかし、世に出回っている夢想薬を活用するに当たって、少々問題が生じる。
それは巷にある夢想薬を過度に摂取し、稀に魔法遣いモドキとして覚醒する事があるようだが……如何せん魔法の精度が落ちるため、また不慮の事故として処理されかねないのだ。
そこで大司教は苦渋の選択をする事に……。
——そう、彼は忌み嫌っていた夢想薬の研究に着手し、夢想薬の効力を上げる事にした。
その研究課程で自ら夢想薬の試飲を名乗り出た同志たちの尊い犠牲を払いながらも夢想薬の効力を着々と上げて行き。それと並行して出来上がった新薬を使用した変死事件を次々と引き起こしていたが、いずれもまともに取り上げられる事は無かった。
まともに取り上げてくれるまで繰り返し、繰り返し行って来たが……あまり成果が上がらなかった。
——そこで大司教は考えた。
元凶である政府を直接叩けばどうにかなる、と……。
そこで標的にされたのが私たちである。
久遠寺家は代々タイムタイムの管理者(時統べる魔女)を輩出し、異世界同士の円滑な流通を担う役を果たしていた。
それは政府にとって心臓部と言っても過言ではない。
その重役の首でも差し出せば政府も考え改めると踏んだようだが……。
雨宮彗月の言葉を借りるなら——標的を誤り、計画は失敗に終わった。
まぁ〜そもそも世間的にタイムタイムの管理者は私となっているから標的を誤っても無理もない。タイムタイムの力を悪用せんとする輩が現れるやも知れんから、私が久遠寺美鈴の身代わりとなっている。
——この件は一部の身内にしか知られていない。
言わずとも分かると思うが、美鈴は魔法の類は一切使用出来ない堅気の人間だからだ。
——要するにお家からの命令って奴。
それはさておき……我々の情報を大司教にリークした人物は一三一一軸の世界の元政府の人間らしく、そいつは大司教の夢想薬研究過程で被験者の暴走した魔法に巻き込まれ死亡したようだ……。
——ったく、物は使いようって言葉を知らんのか。
確かに夢想薬は過度に摂取すれば危険だが、それで助かっている人間もいる事は確かだ。
まぁ〜利益重視の一部人間などは論外だが、な……。
——それともう一つ。
奴らが夢想薬を飲む際に自らの血液を混ぜて飲んでいたのは魔法遣いになるための精度を上げるモノであると同時に無理やり精霊と契りを交わすために行っていた……謂わば、魔術儀式のようなモノである。
そう、精霊とさえ契りを交わす事さえ出来れば自ずと魔法の精度も上がる事は確かだからな。
成果のほどは……私個人の主観からしてあまり芳しくないと思われるが、彼らにとっては成功に等しいのだろう。
——しかし、まさかの収穫だったな……。
人に対してアレを行使したのは今回が初めてだったが、まさか命までもが容易に創造出来るとは……恐れ入ったよ。
さすがの私も久しぶりに興奮してしまい本来の目的を忘れ、あの男を使って実験をする所だった。
まぁ〜多少は実験込みで使用していたと言う感は否めない事実だがな……。
——反省、反省っと……。
だが、命を創造、再生させるのはその命が宿っていた器があってこそなんだろうが……。
——仮に、本当の神の力を行使する事が出来れば……無から命を創造、再生出来るのだろうか?
ふむ、そればかりは実際に使ってみないと分からんな……。
ふぅ〜、今回はこんな所だろう。
——私からの報告は以上だ。
報告書「夢見る愚者」済