ダーク・ファンタジー小説

幕 間 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 其の一 ( No.52 )
日時: 2012/07/11 00:54
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/31/

 ——一八一三軸、衛星都市某所。
 僕はただいま後輩の代わりとなってパシられ中……。

 ふむ、後輩想いの良い先輩だこと……。

 さてさて、パシられ中である僕はただ今、とあるタバコ屋に赴いている。
 しかし、この店はかなり風変わりな店だった。
 なんていうか……モノホンのタバコが一切置いていなかった。

 ……何でや?

 店先には平仮名で「たばこ」と描かれた看板があるにも関わらずに、だ。

 ただの飾りだったのかな……?

 しかし、店先のショーケースにはしっかりとタバコの銘柄入りのケースが小奇麗に陳列されている。
 けど「これはただの飾り」だと店主こと団子頭のお婆ちゃんが話す。
 じゃ〜僕が、

 「これのモノホン頂戴な」

 と、お婆ちゃんに投げかけると、お婆ちゃんは、

 「あいよ〜」

 と、心もとない声で返答し、僕が指定した銘柄のタバコを取ってくれた。
 僕は心置きなくそれを受け取って、代金を支払い。
 「これでパシリは終えたのだ」と、ばかり思っていた僕だったが、なぜか買い取ったタバコから甘ったるい匂いが漂って来たのだ。

 美玲ちゃんがいつも愛煙しているタバコは、そんな匂いを放出しない。
 もう少し、トゲトゲしい匂いを放出する奴である。

 だから、僕はお婆ちゃんに、

 「これ変な匂いするから取っ換えて〜」

 と、ねだると、お婆ちゃんは、

 「あいよ〜」

 と、また心もとない声で返答し、新しいタバコと取り換えてくれた。
 「今度こそ終わっただろう」と思ったが、また甘ったる匂いがタバコから匂って来るではないか……。
 不審に思った僕はパッケージを開けて、中身を確認してみると……。
 そこにはパッと見、タバコにしか見えないただの棒状のラムネが入っているだけだった。

 すぐさま、僕はその事をお婆ちゃんに言い寄ると、お婆ちゃんはこれを「タバコだ」と言い張って僕の言葉を聞き入ってくれず。
 少々口論となってしまって、現在に至るのだった……。

 「ねぇ〜、お婆ちゃん。僕はラ ム ネじゃなくてタ バ コを買いに来たんだけど?」
 「ああ? タバコならお兄ちゃんがさっき買ったじゃろ?」

 と、お婆ちゃんは僕が持つ「タバコ」と名ばかりの「ラムネケース」を指さす。

 「いやいやいや。これタバコじゃないって……。てか、何でタバコのケースにラムネが入ってんの?」

 中身を確認するまで分からない程に精巧な造りのケースには、ホント驚きである。
 コピー商品もここまで来たら「モノホンじゃん」と……。
 だが、中身はタバコじゃなく、ただのラムネではあるが……。

 「タバコじゃからに決まってるじゃろ? 若いのにボケてるのかぁ?」
 「……それ、お婆ちゃんに言われたくないよ……」
 「ああ? 何だってぇ?」
 「……何でもありません」

 はぁ〜、ダメだこりゃ……。
 僕はお婆ちゃんとこのまま口論していても仕方がないと思い、別の店でタバコを買おうかと考えを巡らせている間に少し疑問に思った事があった。

 このお婆ちゃんが「タバコ」の事を「ラムネ」と言い張るのなら「本物のラムネ」の事は何て呼ぶのだろうか、と少し興味本位で聞く事にした。
 もちろん、ラムネ本体を見せなければ話にならんと思い、僕は購入したばかりのタバコもといラムネを一本手に持って徐にお婆ちゃんに提示してみた。

 「ねぇ〜、お婆ちゃん。ちなみにだけど……これは何て言うの?」

 僕が提示したラムネを食い入るようにまじまじとお婆ちゃんは見つめ始め。

 ——しばらくしてからお婆ちゃんが口を開いた。

 「……ラムネ、じゃろ?」
 「そう、これはラムネ——って、え?」
 「何じゃ? ラムネはラムネじゃろ?」
 「そうですけど……」

 どういう事?
 訳が分からない……。

 「じゃ〜これは?」

 僕は次にタバコケースもといラムネケースを提示する。

 「……タバコじゃろ?」
 「そう、これはタバコ——って、ちが〜う! これはタバコじゃなくてただのラムネケース! ——って、もしかして……」

 お婆ちゃんの受け応えに僕はある疑念が過った。
 それを確かめるために僕はラムネケースと中身を同時に見せる事にしてみた。

 「じゃ〜お婆ちゃん、これは?」

 僕はラムネケースのフタを開け、中身とケースを見えるように計らう。
 それをお婆ちゃんは食い入るようにじっくり見つめ……。

 ——そして、口を開いた。

 「……タバコに入ったラムネじゃろ?」
 「……さいですか……」

 お婆ちゃんが口走った返答に思わず僕の身体に悪寒が走る。
 うん、まさかのオチだ……。
 しかも、最低最悪の……。
 お婆ちゃんはどうやら「タバコ」の事を多目的に使用出来る箱……。

 ——すなわち「多箱」と勘違いしているようだ。

 なら、そこは段ボールでしょうに……。
 はぁ〜、ホント……。
 風邪を引きそうだよ……。

 仕様も無い事実を知って肩を落とした僕はお婆ちゃんに別れの挨拶を言い残し。
 正真正銘のタバコを買いに別の店へと重〜い足取りで向かった、とさ……。