ダーク・ファンタジー小説

幕 間 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の二 ( No.53 )
日時: 2012/07/11 01:30
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/32/

 ——一三一一軸、久遠寺事務所。
 現在、私たちは事務所内にて土下座をさせられています……。

 どうしてこうなってしまったんでしょうか?

 ふむ、悩んでも仕方がありませんね。
 その原因ならはっきりしてしまっている訳ですから……。

 ——はぁ〜、鳴(なる)ちゃんの馬鹿……。

 「——で、二人とも。何か言いたい事はある?」

 美鈴(みすず)ちゃんが私たちの事を満面の笑みを浮かべながら見つめていた。
 だけど、それはただの仮面でしかない。
 その下では鬼の形相で睨みつける美鈴ちゃんがいる……。

 「あ、あの! 美鈴ちゃん! 私たちは別に危険な事なんて一切してないよ!」
 「あ、ああ! 姉貴の言う通りだ。アタシたちはただジャレ合って転んだだけなんだよ」

 私は鳴ちゃんとともに言い訳がましい事をいけしゃあしゃあと口走る。
 ホント、途中まで上手く事が運んでいただけに今までの頑張りが全て水の泡です……。

 ——そう、私たちは上手く誤魔化せていた。

 彗月(はづき)ちゃんの発言で少し肝を冷やしましたけれど。
 それ以降、順調に進んでいた。
 ただ、鳴ちゃんが不意に美鈴ちゃんに話しかけられて、挙動不審な態度を取るまでは、ね……。

 「だったら、何でナルちゃんの服が破れているの? ジャレ合って転ぶだけじゃここまでならないよね?」
 「さっきも言ったけどさ、これはへそ出しルックって言って——」
 「なら、わざわざ服を破る必要ないよね? 少し服を捲り上げる程度で十分にへそ出しルックが出来ると思わない?」
 「えっと、それはさ……」

 言い訳苦しくなった鳴ちゃんが徐に私の事を一瞥する。
 つまり、私に「援護を頼む」と言う合図である。

 はぁ〜。
 いつもながら世話の掛かる妹ですね……。

 私は鳴ちゃんのアイコンタクトに対して小さく頷き、援護をする事を了承した。

 「あ、あの。美鈴ちゃん。よく考えてください。相手はあのナルちゃんです。わざわざそんなまどろっこしいマネをすると思いますか?」

 この言葉に美鈴ちゃんが顎に手を添えて、鳴ちゃんの事をまじまじと凝視し始める。
 何かを見定めるように鳴ちゃんの身体をなめまわしながら見つめる。
 その視線に鳴ちゃんは堪らず身体を強張らせた。
 すると、考えが纏まったのか、美鈴ちゃんが小さく頷く。

 「……確かにメイちゃんならともかく、ナルちゃんがそんな事しないか……」
 「そうですよ。ナルちゃんなら自ら服を破って、自作へそ出しルックを作りかねないでしょ?」
 「そうよね。ただただ服を捲り上げれば済むだけの簡単なアイディアなんてナルちゃんには浮かぶ訳ないよね」
 「はい、その通りです」

 力強く頷きながら発したこの言葉に美鈴ちゃんが力強く頷く。
 ふむ、どうやら美鈴ちゃんが納得してくれたようです。
 ただ、気掛かりなのが……隣で正座する鳴ちゃんの身体が小刻みに震えている事でしょうか……。

 どうしたのでしょうか?

 しかし、これでようやく美鈴ちゃんから解放されそうです。

 「——まぁ〜、ナルちゃんの事はだいたい分かったわ。……だけど、メイちゃんのその頬の傷はなぁに?」

 不敵な笑みを浮かべながら発せられた言葉に私は思わず「ビクっ」と身体を強張らせる。
 まさか、自分に食いついて来るとは思わなかったからだ。
 だけど、こういう状況に慣れてしまっている私には通用しません。
 もう、良い言い訳が頭に入っていますからね。

 「これはですね——」

 「ああ、それなら。簡単だぜ。姉貴の趣味みたいなもんだ」

 私の言葉を遮るように鳴ちゃんがそんな事を言い出した。
 突然の事で私は少しフリーズしてしまいましたが、鳴ちゃんの真意を確かめるべく、ふと彼女に視線を向ける。
 すると、鳴ちゃんが不気味な笑みを浮かべていた。

 ——え?

 もしかして、ハメられた……?

 「……メイちゃんの趣味?」
 「そう、姉貴って結構ウジウジしてるだろ? そのイメージ通りで少〜しばかり自傷癖があるんだよ。全く、困ったもんだ……」

 私が呆けている間に二人は有らぬ話を進める。
 しかも、あたかも私がそういうキャラだと思わせぶりに話す鳴ちゃんの表情が悪意に満ちていた。
 そして、馬鹿正直に鳴ちゃんの妄言を信じたのか、美鈴ちゃんが私の事を心配そうに見つめ始める。

 「……メイちゃん、悩みがあるなら聞いてあげるよ?」

 少し涙交じりの声で発せられた言葉に私は表情を歪めた。
 悩みがあるとすれば、それは今し方の私への扱いである。

 「気を使わなくていいって、美鈴さん……。そんな事したら姉貴が、さ……」

 含みを持たせた鳴ちゃんの言い回しに静かに頷く、美鈴ちゃん。
 そして、徐に私の肩に「ポン」と手を置く。
 私を見つめたまま、何も語る事はなかった。

 だけど、美鈴ちゃんの熱い眼差しからは「心配しなくても、私が付いてるよ」的な熱意が十二分に伝わって来た……。
 「このままじゃダメだ」と、私は弁解するべく、立ち上がる。

 「いや、そうじゃ——」
 「もう、いいよ。十分に分かったから、メイちゃん……」
 「だから、そうじゃ——」
 「うん、うん……。ストレスが溜まってたんだよね……」

 有らぬ疑惑を払拭しようと弁解を試みるものの、全て美鈴ちゃんに言い包められ弁解する余地すらなかった。
 そのやり取りを一人……。

 ——声を殺し、身体を震わせながら笑っている人物がいた。

 私の隣で土下座をする鳴ちゃんである。

 そんな鳴ちゃんの姿を目の当たりにした私は彼女の事を軽く睨みつけてやると、私の視線に勘付いたのか、鳴ちゃんが突然、身体を強張らせた。

 全く、怯えるぐらいなら最初からやらないでほしいですね……。

 だけど、私たちのトリックプレイ(?)のおかげか、美鈴ちゃんの頭から私たちを「叱る」と言う選択肢が消えたようです。
 これで晴れて私たちは自由の身となる訳ですね。

 ——良かった、良かった……?