ダーク・ファンタジー小説
- 2 ( No.3 )
- 日時: 2012/06/19 23:33
- 名前: すずか (ID: sD26PePp)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
レーグとユズハを目に入れると、青年は軽く目を見開いた。しかし、それは一瞬のものであり、直ぐに元の無表情に戻る。
「……えらく若いお客さんやな」
「お前ガ言うノか」
ユズハの言い分ももっともではある。青年は、20歳のレーグどころか、17歳のユズハと比べても大差が無さそうな見目をしていた。まず間違いなく成人はしていない。女性のように細身の身体は、作業着に着られているようだ。そのせいか、益々無骨なゴーグルが目立つ。
そんな青年は、ユズハの言葉に何の反応もしない。よっこらしょ、と外見に似合わないしゃがれ声を出しながら立ち上がり、2人のもとへとやってくる。
「しかも騎士さんにビースター。何ちゅーレアな組み合わせや」
その言葉に、今度はレーグが目を見開くこととなった。
「……何故分かった?」
「ん?いや、ビースターとか見れば一発ですやろ」
青年は、きょとんとした顔でユズハを指差す。ユズハは指を指されるのが嫌なのか、青年を少し敵意のある目で睨む。
「そっちじゃない。どこで俺が騎士だと判断した?」
「ああ、そっち」
得心したように、青年が頷く。そして、今度はレーグの背中の大剣を指で示す。
「鞘に彫ったる紋様。その紋様は騎士の証やないですか」
大剣を収める鞘には、竜と剣をモチーフにした紋様が彫られている。青年の言うように、それは騎士の資格を得た者が、入団の際に証として付けられるものだった。
「……よく知ってるな。その通りだ」
「鍛冶屋やるなら常識ですわ。ほら、その剣貸してください。整備でしょ?」
「お前がやルのか?店主ハ?」
さっきの指差されがよほど癪に障ったのか、仕返しとばかりに棘のある言葉をユズハが飛ばす。青年は表情をまったく変えずに、さらりと答えを返した。
「俺が店主や」
再び驚かされたレーグだったが、とりあえず大剣を青年へと渡すことにする。大剣を受け取った青年は、様々な角度から大剣を眺め回す。
「ええ剣すね。1時間ぐらいかかりますけど、構わないっすか」
「ああ、宜しく頼む」
一度大剣を机の上に置き、店の奥へと青年が消える。レーグとユズハ、近くの椅子に腰かけた。ユズハがつんとそっぽを向きながら腕を組む。尻尾がぱたぱたと動いているので、機嫌が悪いようだ。
「マナーのなっテない奴ダ」
「ユズハも大概だがな」
「……この国ノ敬語は難しスぎる」
そうぼやくユズハに、苦笑する。ぼやいている割に、ユズハの言葉は敬語をできないことを除けば中々のもの。レーグも初対面では舌を巻いた。
(……しかし)
暇になって尻尾の毛繕いを始めたユズハを横目に、レーグは物思いにふける。内容は、あの青年について。色々と不可解な点があるのだ。5分ほど考え込んではみたが、結論は出なかった。
「……まあ、本人に聞くか」
「何の話ダ?」
思わず漏れ出た独り言に反応し、ひょこりと顔を上げるユズハに説明をする。
「あの鍛冶屋の店主なんだがな」
「俺が何ですか」
噂をすれば何とやら、整備用具を抱えた青年が戻ってきた。間の悪さに思わずビクリとしてしまったが、気を取り直して質問する。
「貴方にいくつか聞きたいことがある」
「キルでええですよ。貴方とか言うんめんどくさいでしょ」
キルと名乗った少年は、整備用具を机の上に並べ、大剣を膝の上に乗せる。整備用具の中から布を手に取り、刃を磨き始めた。
「ならばキルと呼ばせてもらう」
「どうぞ。ほんで、何です?」
「キルは騎士だったのか?」
その問いかけに、キルは切れ長の目を伏せたまま答える。
「……どうしてそう思うんです?」
「そのゴーグル」
「はあ。これが何ですか」
指摘をされ、キルは一瞬だけ視線を頭上のゴーグルに向ける。くすんだ茶色のゴーグルは、煤によって所々が黒になっていた。
「それは、騎士の中でも唯一竜騎士のみが与えられる、飛竜用のゴーグルのはずだ。かなり貴重な代物であるそれを、何故辺境で鍛冶屋を営むキルが持っている?」
「……姉の形見ですわ」
表情を全く変えず、キルはそう答えた。