ダーク・ファンタジー小説

3 ( No.6 )
日時: 2012/06/30 22:09
名前: すずか (ID: NRm3D0Z6)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

 レーグはばつが悪そうに俯いた。

「……それはすまないことを聞いた」
「気にせんでください。もう踏ん切りはついてます」

 キルは布を机に置き、代わりに鉄粉を手に取り剣にまぶし始める。

「使わずにしまっておくのも忍びないんで、どうせなんで思いっ切り使い古したろうと思ったんですわ。俺流の供養です」

 鉄粉をまぶし終わったところで、一度椅子から立ち上がり、傍にある巨大な水瓶から、小さな桶に水を汲む。居心地が悪そうに頬を指でかいていたレーグが、突然動きを止めて目を見開いた。ユズハが不思議そうに小首を傾げる。

「どうシた?」
「……姉?」
「姉が何です」

 水が8分目まで入った桶を机にドンと置き、再びに椅子に戻ってきたキルが、これまた怪訝そうにレーグを見る。レーグは、軽く呆然とした顔でキルに視線を返す。

「……今までに、女性で竜騎士を資格を持った人物は2人しかいないはずだ」

 今度はキルが目を見開く番となった。

「1人は、現騎士団団長。そして、もう1人が」
「……俺の姉、元騎士団団長のルキですわ。ほんま物知りですね」

 レーグの言葉尻を受け取って、キルが答えを出した。砥石を水に浸ける。

「ルキ?アのルキか?」
「そうだ」

 傭兵になって年が浅いユズハでさえ知っているルキという人物。
 弱冠10歳にして騎士団試験を突破し、それだけでも十分語り継がれるほどの逸材であったであろう彼女は、驚くべき早さで地位を上げ、史上最年少である12歳で団長の座を手に入れた。それも満場一致で、である。
 これから3,40年はルキが団長であろう、と言われるほどだった。しかし、現実はそうではない。僅か3年後、突然団長を止め、もう1人の女性竜騎士であるラトナにその座を譲る。当然騎士団では大変な騒ぎとなったが、理由を誰にも告げずルキは姿を消し、消息は掴めないままだった。

「亡くなっておられたのか……」
「ふらっと戻ってきて、しばらくしたらポックリ逝ってまいましたわ。何があったかは知りませんけど」

 砥石を桶から出し、膝の上に乗せ、更にその上に鉄粉が舞う剣を乗せる。服が濡れるのも汚れるのも気にしない。

「お前も強イ?」
「残念ながらからっきしや。強かったら姉ちゃんと一緒に城下まで行ってるわ」

 シャッ、シャッと砥石で剣を研ぐ音が鳴り響く。

「というわけで、このゴーグルは姉ちゃんので、姉ちゃんは元騎士団団長のルキです。これが質問の答えでええですか」
「ああ、充分すぎるほどだ、ありがとう。もう1つ質問があるんだが、聞いて良いか?」
「お客さん結構言いたい事は言わはるタイプですね。構わんですよ」

 一度剣を揚げ、光沢を確認するキルに、レーグは次の問いを投げかける。

「その訛りはどこの訛りだ?初めて聞いたんだが」
「これですか?これは古代語ですよ、多分もう誰も使ってませんわ」
「へえ……古代語か。何故そんな言葉を?」
「その人が教えてくれたんです」

 少し形状が気に入らないのか、小型の金槌を手に取り、剣先を叩き始める。金属音を出しながら、キルは目線を右の棚へとやる。釣られてレーグもそちらへ視線を向けると、そこには小さな写真立て。
 
 金髪の青年と、10歳ほどの少女がそれは笑顔で写っていた。