ダーク・ファンタジー小説
- 4 ( No.7 )
- 日時: 2012/08/10 21:15
- 名前: すずか (ID: 8TfzicNZ)
「そっちの、金髪の人。女の子は姉です」
小さい頃のルキを胸に抱きとめ、青年は、それはそれは綺麗な笑顔を浮かべていた。そして、その笑顔の青年の腕中にいるルキも、はにかむように、可愛らしい笑顔を見せていた。笑顔で溢れた、どこまでも幸せそうな写真。
「その人が古代語を使ってた最後の村民やったんですけど、魔獣に襲われてその村が全滅、生き残ったその人が何とか言葉を残そうと俺等に伝えたっちゅーわけです。あ、俺と姉は元々孤児で、その人に拾われたんですわ」
次々と衝撃的な言葉を発するキルは、あくまでも淡々としていた。レーグとユズハには想像もできないが、恐らく色々と諦めたか、乗り越えたかしたのだろう。
「……この方は今?」
「ま、薄々分かってるからそんな顔してはるんでしょうけど。姉の後を追うみたいに、直ぐに病で死にました」
「そうか……大変だったんだな」
軽く拳を握り、悲しげな表情で下を向くレーグに対して、キルはふっと笑う。整った顔立ちをしただけあり、女性だと見惚れてしまいそうなものだった。ユズハは特に何とも思っていないようだが。
「同情してくれておおきに。久しぶりに話したら、ちょっと気分が軽くなりましたわ。ところで、整備終わりましたよ、はい」
キルが手渡した大剣は、明らかに光沢が良くなっていた。心なしか持ちやすくもなっている。
「本当に良い腕だな」
「おおきに。料金は800ラーズです」
代金を払い、再度礼を言いいながら店を出る。キルも見送りに外まで着いてきた。
「また来る機会があるとは到底思えませんけど、一応言っておきますわ。今後とも御贔屓に」
ポケットに手を突っ込み、だるそうに言葉を発するキルに、レーグは苦笑を洩らす。
「確かにな。ラベルまで足を運ぶことなんて、下手したら一生ないかもしれん」
「これからも頑張ってください、ほなさいなら」
ひょこっと頭を下げて、キルは店の中へと戻っていった。それに合わせて、レーグとユズハは路地裏を抜け、大通りの人混みへと紛れていく。
三人の出会いが、イルガ国を揺るがす大事件になることなど、この時は誰一人として思っていなかったのである。
特に何事も無く時は過ぎ、レーグ達がラベルを訪れてから一カ月の月日が流れた。昼下がり時の人口密度の高い城下の大通りを、レーグはこれまたユズハを連れてぶらぶらと歩いている。城下の警備のお鉢が回ってきたのだ。
「わふ」
ユズハが欠伸をする。城下の警備とは名目ばかり、特に事件が起こらない場合は散歩と大差ない。とはいえ、割と頻繁にいざこざが起こるので、気を抜いていると突然騒ぎが勃発することもある。しかし、それも主に夜の場合なので、結局昼の警備は散歩と成り下がる。
ユズハの欠伸に釣られ、レーグが大きく伸びをした瞬間。
「隙だらけだぜェ」
「うひゃあァああッ!?何スる!?」
「っ!?」
うなじに氷菓子が当てられ、ユズハが飛びあがった。その絶叫にレーグも思わず飛び上がり、騎士の癖か、町中であるというのに、剣の柄に手を掛け臨戦態勢となってしまう。
そんな戦闘モード全開のレーグに対して、氷菓子を持った犯人はあくまでも自然体だった。
「警備中に欠伸なんかしてるからでィ」
「お前にハ関係なイことダ!!いつカ殺す!!オ前いつか絶対殺スからナ!!!」
「やれるもンならやってみやがれってんだ」
毛を逆立ててギャアギャアと騒ぐユズハを軽く受け流しながら氷菓子を食べる青年を、レーグは良く知っていた。
「シリィ君か」
「へい、シリィでさァ。レーグさんもこんなアホと契約結ぶとは、血迷ったんじゃねえですかィ?」
その瞬間、シリィと名乗る青年の頭に拳骨が落ちた。
「っつー……」
「人のパートナーを貶すとは、例え冗談でも見逃す事はできないな」
「すいやせんでした……」
「ら、ラトナ団長!!」
「レーグか。御苦労だな」
長い黒髪が無造作にはためき、切れ長の瞳が鋭く美しい女性、ラトナ。
そして、そのラトナに拳骨を落とされ、頭を押さえて呻いている青年、シリィ。
この二人が騎士最強と傭兵最強の名を欲しいままにする、騎士団団長ラトナと、国内最大の傭兵団、ベリクス傭兵団の筆頭傭兵シリィである。