ダーク・ファンタジー小説
- 5 ( No.8 )
- 日時: 2012/08/15 14:24
- 名前: すずか (ID: AvHGVUY9)
ラトナは女性にしてはかなり長身だが、その体付きはしなやかで細く、とても最強の異名を手にできるとは思えない見た目である。加えてシリィも、背が高いとはいえ女性であるラトナより背が低く、おまけに童顔かつ華奢であるため、こちらも見た目から強さを読むことはできない。
しかし、二人の実力は間違いなく本物であり、数々の伝説を携えている。曰く、大量発生した魔獣が村を襲うのを、たった二人で村の被害無しで抑えただの、盗賊団のアジトに乗り込んだ30分後には、全員を気絶させて捕らえていただの、聞くだけでは眉唾ものばかりだが、実際記録が残っているのである。イルガ国史上最強のコンビという通称は、恐らく間違いではない。所謂生ける伝説達なのだ。
「シリィ!!闇夜ノ背後にハ気をつけるんダな!!!」
「涙目で言われてもねェ。つーかオメェ、一体どこでそんな言葉覚えてきやがるんだ?」
騒ぎ続けるユズハを面白そうにからかうシリィの姿は、どう見てもただの悪戯好きの青年である。いや、童顔のそれは少年といっても差支えない。それもそのはず、彼はまだ18歳なのだ。
普通、この世界では経験の差が実力の差を生む。その結果、30から40歳ぐらいが、傭兵にとって一番脂の乗った時期となる。その経験の差を、シリィは天性の勘と才能で補っているというのだから、驚くほかない。
「……すまんな、レーグ。うちのシリィが」
「いえ、もう慣れたんで。恒例行事と言いますか、ああまたか、みたいな」
意地の悪い笑みでユズハを眺めるシリィを、更にラトナが呆れた顔で眺める。レーグはその光景が少しおかしく、苦笑を浮かべた。
「あいつはずっと傭兵に囲まれて育ってきたから、同年代の職仲間がいなかったんだ。あれでも、ユズハが来て嬉しいんだろう。多分、遊び方が分からないんだろうな」
「確かに、傭兵には若い人はほとんどいませんからね。騎士には時々いますが」
呆れた顔をしながらも、優しい目をするラトナに、思わずレーグは見惚れた。彼女は実力もさながら、美貌も国で有名なのだ。事実、彼女を知っているのか知らないのかは分からないが、通りすがる男性の多くがチラチラとラトナに視線を送る。
その時何故か、レーグの頭の中にふとキルの姿が浮かんだ。そういえば、ルキが今でも生きていたら、丁度シリィと同じ年だ。ラトナはルキが顕在である最後の1年程は、副団長の座についていたはずである。ひょっとしたら、シリィとキルには面識があるかもしれない。
「シリィ君」
「何ですかィ?」
氷菓子の匙を口に咥え、シリィが首をかしげる。シリィの背後で呻っているユズハは、一旦忘れる事にした。
「キルって子を知っているか?」
「キル?誰ですかィそりゃあ。ルキなら知ってやすがねェ」
「ん?ルキ殿は知っているのにか?ラベルに住んでるルキ殿の双子の弟なんだが」
「待て、ルキの弟だと?」
眉に皺を寄せたラトナが言葉を遮った。
「……ルキに弟なんていたか?」