ダーク・ファンタジー小説

Re: Happy End と Bad End ( No.10 )
日時: 2014/09/24 00:38
名前: 音宮 (ID: Jc47MYOM)

EpisodeⅤ

悲しみが一番、辛いといったね。
知りたいと思うでしょ。
教えてあげるよ、君にだけ。

だって泣くのが辛いから。
泣くというのは、感情を訴えるものだから。
感情を表に出すのはとても勇気のいることだし、心を誰かに打ち明ける人がいないと泣けないから。
泣くのを我慢するということは、感情を自分で押しつぶすのと同じだと思うな——

「一緒に……?」
幻聴を聞いたのではないかと疑ってしまう。

「そう、一緒に。女の子同士で話したいことがあるし、ね」
にこっと笑う。

女の子同士……。
良い響きだな。
生まれて初めてだ、こんなこと。

だからね、精一杯の私なりの笑顔でいいよって言ったんだ。
自然に笑顔が出てきた。
とってもいい笑顔だったと私も思う。

ところでお話ってなんだろ。
正門を出たところあたりから気になってくる。
チラチラと横目で見ながら歩く。

「ねぇ、美波ちゃん」

おおぉ……名前で呼んでくれたぁ……。
そういえばさっきも名前で呼んでくれたなぁ。

「はい。何でしょうか、悠ちゃん」

かしこまって悠の方をみる。

「あ、あのさ、美波ちゃんって好きな子いる?」
悠はちょっと赤くなりながら聞いてきた。

好きな子……。
んー、どうだろ。

唸りながらちょっと心当たりを捜してみる。

「えっと……尊敬している人はいるけど、好きな子はいないと思う」

そうだ、尊敬している人は何人もいる。
目の前にいる悠もそうだ。
まだ浅い尊敬だけど尊敬は尊敬だ。

「そっか」

短くそう答えた。

「悠ちゃんはいるのかな?」

私がよそよそしく聞いた。
その言葉、待ってましたという風に目を輝かせて言った。

「いるよ。実は私、渚君が好きなんだ」

美濃……君……。

「そ、そうなんだぁあ……」

「うん。だからね、渚君にはあまり近づかないで、私を積極的に渚君の話し相手になるようしてくれるかな?」

こつこつとコンクリートの道路を靴底で叩きながら言ってる。

「えと……」

「お願いだから、ね。話はそれだけ。じゃあ、また明日ねー!」

手をぶんぶん振りながら口出しはできないようにしてくる。

「あ、ちょっと待って……」

さっきの告白からうつむいていた私は、顔を上げていう。
だけどもうそこには、悠の後ろ姿が遠くの方に小さくあるだけで、私の声は届いていないようだった。

「あ……待ってよ……」

お願い……。
これって人のためになることだよね……。
いつものように手伝ってあげないと。
あの日の誓いを破ることになってしまう。
いつもだったらよし、やろうっていう気持ちになるんだけど、今回は違った。

「なんか……変だな……私」

やりたくないって思ってる。
手伝いたくない。
でもこれってただの駄々を言っているしかならない。
お願いを仮にも受けてしまった私は必ずやらないといけない。
たとえ、押し付けられたお願いだとしても。

「やるしかないな……」

せっかく友達みたいな人ができたのに。
その人となるべく話さないようにするってちょっと辛いかも。
生暖かいものが頬をつたわる。
理解するのにちょっと時間かかった。
これ、涙だ。
私、泣いてるんだ。
こんなにもこんなにも辛いことなんだ。
あふれてくる涙が静かに静かに地面にぽつりぽつりと落ちていく。

美濃君——