ダーク・ファンタジー小説

Re: Happy End と Bad End ( No.14 )
日時: 2014/09/27 00:31
名前: 音宮 (ID: Jc47MYOM)

EpisodeⅦ

男の子ってね。
成長が遅いの。
だからいつまでたってもやっぱり男は単純じゃなきゃダメと思ってしまう。
逆に女の子は成長が早いの。
心身ともに、ね。
女の子はとてもやわらかいものでできているの。
でもね、その柔らかいものには汚点があるんだよ。
必ずあるっていうわけじゃないけどね、ほとんどの人が持っているの。

汚い部分を……、ね。


私はあれから毎日、辛いことがあったら羽鳥先生の腕の中で泣いてしまっている。
少し甘え過ぎかなと思ってしまうこともあるのだが、ほかに受け止めてくれる人なんていないからしょうがない。
人間は頼ってしまったら頼りっぱなしというところがあるらしい。

「せんせぃ……ぐっん」

今日も委員会が終わった後、先生の腕の中。

「よしよし。美波さんは泣き虫だ…」
私の頭を優しくなでてくれる。

「う……っ」

「辛かったんだね……俺、また気付いてやれなくてごめんな」

そ、そんな優しい言葉、かけないでください……。
ますます止まらなくて止まらなくなってしまいますぅ……。

「い、いいんでう……せんせぃは……いそがしいでうから……」

泣き声のせいでちゃんと言えていない部分がある。

「美波さんがこんなにも苦しんであの日から毎日、俺に抱き付いてきて泣いているのにちゃんと俺が……」

そんな、自分を責めないでください。
今日も渚君に声を掛けられなくてそれだけで泣いてしまっている私が悪いんですから。
先生はそれを受け止めてくれているだけで私は幸せです。

「だ、ダメです……先生は悪くありませんっ」

顔を上げてちゃんと言わなきゃ。

「美波さん……?」
目を開いている。
今まで先生の腕の下で泣いていたから急に顔を上げて言ってきたのに驚いているのだろう。

「先生は悪くありませんっ。むしろ、私は先生の存在で救われました」
夕陽の染まる教室、廊下全体にその私の声は響く。

「……美波さん」
ぎゅっと私を抱きしめてくれる。
ちょっと苦しいと思うくらいの強さだった。

でもなんでかその苦しさが心地よかった。

苦しいように見えて優しい抱きしめ方。
ぎゅっと握りしめたら壊れてしまうガラスのように大切に扱うような感じ。

「先生……」
先生の制汗剤がちょっと鼻にくる。
石鹸の匂い……。
すっきりした匂いは先生のイメージにぴったりだ。

「美波さん、ありがとう」

そんな、ありがとうなんて私が言うべきなのに。
耳元でささやく先生はちょっと笑っていた。
先生は私のせいで苦しんでいたのかもしれない。
あんなに泣かれて私の感情の器になってくれてすべてを受け止めていたから。
辛かったのかもしれない。
先生の事だからきっと自分に何かできないのかって問い詰めていたのかもしれない。
それがもう先生は限界だったのだ。

先生は孤独に考えていた。

難しい問題に一人で私のために立ち向かっていた。


私はそんな先生の優しさに触れられた。


感じた。


これが本当の人に役立つことをしているんじゃないかって思った。


今まで私がしてきたことは人の役にたったけど、私がやりたかったのは違う。


こういう先生みたくなりたかったのだ。



そう先生のように……。




「羽鳥先生……」
ぎゅっと抱きしめられたままの状態で話す。

「二人のときは慎吾って呼んでください、美波さん」
くすっと笑っていった。

「あ……はい」

その大人っぽい雰囲気に”はい”としか言えなかった。
大人特有が持っている色気。
かっこいって誰もが思う雰囲気。

それに私は勝てなかった。

「し、しん、慎吾さん……っ」

名前を呼んだだけでもちょっと体が熱くなるのが分かった。

「何かな、美波さん」

ちょっと笑いながら聞く。

「えっと……、ありがとうございました。これで明日も頑張れます」

笑顔は見えないと思うけど一応、笑顔を付けて言う。

「とか言ってまた明日の放課後、俺に頼っちゃうくせに」
くすっと笑う。

「そんなこと、言われても……」

困ります。

だってこんなに優しい人がいたら誰だって頼りたくなるでしょ。

安心できるでしょ。

それが人間なのだから——