ダーク・ファンタジー小説

Re: Happy End と Bad End <美波&渚編、完結 ( No.35 )
日時: 2015/03/28 17:40
名前: 音宮 ◆93nWkRSozk (ID: laaGvqHD)

第零番

あれから数年……。
私、美濃美波のもとには、二人の子供が出来ました。

「渚さん……っ」

病室のベットに寝かされて陣痛と戦う私。

「大丈夫、美波さんなら頑張れる」

私の枕元に座って手を握る。

あったかい。
とても安心する。痛みなんて忘れるくらいに大好きな手。

三年前、大学を卒業したと同時に、私達は結婚をしたのだった。
そして今、私たちの元に双子の赤ちゃんが生まれようとしている。
お医者様に聞くと、二人とも女の子だそうで男の子を望んでいた渚さんは、しょんぼりしていた。
でも私たちの子供には違いないので嬉しいものは嬉しかった。

「うん……っ」

学生の時よりも少しばかり白くなった渚さんの手に力がこもる。
渚さんの現在の仕事は本を出版する大手企業で編集者である彼は、帰ってこないことが多い。だけど今は、無理言って会社を休ませてもらっているらしい。

「美濃さんー、もうそろそろ、行きますかー」

とうとう、その時がきたみたい。
私達の子供とあえる時が。

「頑張って」

助産室に入る前、渚さんが言ってくる。

「うん、頑張るよ」

私は大きく頷いた。


数時間後。

私のもとには、小さな命が二つあった。

一人は『千波(ちなみ)』、もう一人は『千夏(ちなつ)』と名付けられた。

見分け方は千夏には右目横にほくろがぽちっとあること。

他の人には分からないかもしれないけど、私達二人には何故だか分かったんだ。

「千夏、千波」

ちなみに少し早く生まれたのが、千波。
だから千波の方がお姉さんということになる。

「はぁい、ママ」

と言って、いつか二人が一緒に飛び込んでくる日が来るだろう。

本当にそんな日が来ればいいのに。

私と渚さんの幸せな時間はもう終わろうとしていた。

この子達が産まれてちょうど一年たったある日の事だった。

「渚さん、今日も夜勤かぁ」

編集者である渚さんの夜勤というか、残業は珍しいことではない。
だが、この日は普段よりも遅かったのである。
子供たちを寝かせながら彼の帰りを待つ、それが私の日課。
寝つきが悪い千夏はもう十時を過ぎたというのにまだ起きている。

「うにゃぁあうう」

言葉にならない言葉で何かを訴えているが、まったくわからない。

「はいはい。早く寝よ—ね、千夏」

ポンポンと彼女の胸のあたりをなでる。

そんな時だった。

『宅配便です』

という声と共にあの悪魔がやってきたのは。
こんな時間に?と内心、すこし不思議に思ったのだが、こういうことは、何回かあったのでほとんど、気に留めなかった。

それが原因の一つだったんだろう。

「はぁい」

もっと、そのことをよく考えていれば、この幸せな時間は壊されることなんてなかったのに。

ドアを開けて待っていたのは、宅配物ではなく私の死であった。
ナイフを胸に突き刺されて、突き刺された場所が悪く、私は即死。
その後、双子の片割れを誘拐され、犯人は逃走。

俺は、そんなことも知らずに帰宅した。

「ただい……。み、美波さん?」

玄関に倒れている美波を抱き上げる、だらんと俺の腕に寄りかかる体は、まったく生きている感じがしなかった。
体温はほとんどなかったし、何より、床に広がっている血の量で彼女の死は見て取れた。
警察を呼んでいるうちに、子供部屋を覗くと、部屋の中は、ひどく荒らされており、子供が一人しかいなかった。

「千波……」

一人だけでも生きていたことに奇跡を感じ、抱き上げる。
しかし、隣で寝ているはずの千夏が見当たらなかった。

「千夏はどこだ?」

千波を抱き上げながら家じゅうを捜すが、どこにもいなかった。

約十分後、警察が到着する。

状況を一通り説明した後、警察から一言。

「これは、連続の犯行殺人ですね」

警察によると、一年ほど前から追っている犯人だという。
今回を含めてこういった事件は3回起きているらしい。

「……必ず捕まえて見せます」

そういった警察を信じ、待ち続けて何年たったのだろうか。

きっとこのまま待っても、捕まらないんじゃないかと思い、俺はそいつに復讐をしてやると今日、立ち上がったのだ。

絶対に捕まえてやる。
この幸せな時間を壊した奴を、美波と千夏を奪った奴を——