ダーク・ファンタジー小説

Re: Happy End と Bad End 【5/1 更新】 ( No.42 )
日時: 2015/09/27 17:34
名前: 音宮 ◆93nWkRSozk (ID: KLpo2fZJ)

第七番

うわわ……、緊張したなぁ。
どうしたら緊張しないかな…と思いながら保護者席へ向かうと、

「お、お父さん」

お父さんがビデオの確認を真剣にしていた。
クスッとそんな父の姿にかわいく思えてしまい、笑ってしまう。

「千波、これ見て、お前、こんなに顔、強張って」

クスクスと笑いながらビデオの中の私を見て笑っている。
むっとバカにされたようで頬を膨らませた。

「何よ、しょうがないじゃない。お父さんのバカ、バカッ」

トントンと父の背中を軽くたたいて恥ずかしさを紛らわす。
すると、ははっと低い笑い声を短く上げながら終始、笑っていた。

「……これからどうする?今日は終わりなんだよね?」

ぎゅっと父の腕をつかみながら聞く。
そうなのだ、今日はこれで終わり。明日からは、学校生活が始まる。

「小腹もすいたし、どこかで食事しようか」

そういって、私の頭を撫でて笑った。

父の笑顔は、とても爽やかで、昔の写真を見ても今と変わらず、素敵だ。
そんな父の笑顔が母もとっても好きだったと思う。最近は、そう思えて仕方がないのだ。どんな時でも癒しのように温かく迎えてくれる父が。

「……千波も母さんに似たな」

ふと、私の顔を見つめながらコーヒーを飲んで言う。
喫茶店で食事をし始めた私たちは窓側の席に案内され、父の飲むコーヒーから湯気が立ち上っているのがよくわかる。

「そう……?全然、自覚ないんだけど」

ん?とホットケーキから目をはなし、聞く。
上にのっていたバターがもう溶けている……。

「うん。……千夏も生きていたら母さんに似ていたのかな」

悲しそうに微笑み、マグカップを軽く回しながら言った。
千夏か……。やっぱりまだ……私たちの中では生きているんだよね。

「どうだろ。双子だったんでしょ、きっと似ているよ。もしかしたらお父さんに似ているかもね」

クスッと笑ってホットケーキにナイフを刺した。

「……我妻真琴」

お父さんの口からぽつりとつぶやくように人名がこぼれた。
我妻真琴って生徒代表を務めていた子だよね……?

「ん……?」

お父さんの口から出るとは思ってもみなかったので少し驚いてしまった。

「……あの子、どこか母さんに似てた」

お父さんが真面目な顔でそんなことを言うので、思わず吹き出してしまった。

「やだぁ、お父さん。お母さんが恋しいからって幻覚のようなこと、言っちゃだめじゃない」

「俺は、真剣に言っているんだけど。本当に雰囲気が似てたんだって」

ふてくされる父をよそに、私はまた止まったフォークを進めた。
我妻……真琴ちゃんか……。

確かに私もなんか不思議なもの感じ取ったてゆうか、でも……きっとなんでもなかったんだよね。
お父さんのいう事も少しわかるような気がするんだけど……。

「……あの子が千夏かもしれないな」

と最後につぶやくように言った父の言葉がいつまでもなぜか忘れられなかった——