ダーク・ファンタジー小説

Re:  このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.106 )
日時: 2015/02/01 21:16
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: eWyMq8UN)

◇幕間  『    』 

 上から黒い雨が降ってくる。
ぽつ、ぽつ、ぽつと白い少女の石像を一瞬だけ黒く染める。
 しかしその雨は石像に触れた瞬間、真っ白に染まり、少女の頬を伝って、
真っ白にうねる地面とも水面とも分からぬ地表に吸い込まれてゆく。
 そう、その世界はすべてが白で埋め尽くされていた。

 上から無数の黒い雨粒が——人々の感情が降ってくるが、地表に触れた瞬間に白く染まる。
 たまに人に忘れられ、見向きもされなくなったモノや怪物達が落ちてくるがそれでも結末は同じ。
ここに落ちた瞬間、一瞬で真っ白に石化し、そのあと灰のように散りゆく定め。
 どんな色も、個性も、思いも……たとえそれが『人間の少女』であろうと、この世界は等しく《消化》する。
堕ちたモノから全てを奪い、溶かし、飲み込む。

 そうして、ついさっき石化したのは、今は名もなき1人の少女。
運命に裏切られ、自分自身の無力さに絶望し、そうして両親もろとも命を断った哀れな少女は今、
真っ白な石像となって、何も無いこの世界で立ち続けていた。
 当然、と言ってしまえば当然の話だ。
両親を存在ごと消した以上、彼女は——美咲は生まれることも、死ぬことすら無い。
 存在しなかったモノとしてここに堕ちるほか、道は無かったのだ。

「ぁぁ……ぁ゛……」
 少女の口から、ときおりうめき声が発せられる。
まだ、意識はあるようだった。
 しかしそれは決して喜ばしいことではない。
なぜなら意識がある限り、自分が自分であろうとする限り、彼女は救われないからだ。
 永遠に動けぬまま目の前にある圧倒的な『白』を眺め続ける。
そんな地獄のような日々と自分自身の意識が果たして釣り合うものなのか……?
いっそ《消化》に身を任せ、この世界と一体になってしまったほうが幸せなんじゃないだろうか。
 そんなことさえ思ってしまうその地獄で彼女はただ呼吸をしながら、
うねる白の地表にたった1人で立ち続け、そして、
「ここまで来ちゃったんだね、美咲ちゃん」
 その時は訪れた。

 誰も、何も居ないはずのこの世界に突然、足音が響く。
ひた、ひた、ひたと、誰かが裸足で歩いてくる音がする。
 その足音の主は少女の石像にゆっくりと近づくと、真っ白になったその頬を撫でた。
「せっかく忠告したのに……」
 世界に溶け混んでしまうほどに白いワンピース。青色の目。黒い髪。
ショートヘアーでどこか活発的な、それでいて触った途端に呪われるような不気味さを漂わせるその女性は、
少女の頬を撫でながら微笑む。
「怒り、憎しみ、悲しみ、虚無感、絶望……そんなどうしようもない感情を背負うのが人のさが
——運命だけど、キミはその重みに耐えられなくなったんだろうね」
少女の見開かれた目に哀れみの視線を送りながら、女性は何かに酔いしれ、続ける。
「でも大丈夫だよ……ここで朽ち果てる前に私の『トモダチ』にしてあげるから」

 そう言うと彼女は、黒目どころか白目まで青色に染まった右目を見開いた。
「空っぽのキミに私の一部を埋め込んで、ちゃんと動く『トモダチ』にしてあげる」
 確実に人間のものではない青い目。水底のように暗く、深い青色。
女性はそんな空虚で暗い瞳に白い少女の石像を映しながら、そっと囁いた。
「よかったね……。美咲ちゃん」
 そう言い終わると女性はクスクスと笑い出す。
不気味に、化けモノのように、ただ笑い、笑い続け……そして、

Re:  このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.107 )
日時: 2015/02/03 18:20
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: eWyMq8UN)

「はぁぁ……」
 突然笑うのを止め、ため息を吐いた。
「なんて、冗談言ってる場合じゃないよね……ホント」
 それと同時に「あ゛ぁぁぁ……」と鈍いうめき声を上げながら、手のひらで顔を覆い隠す。
「ホント、どうしてこうなった……」

 取り返しのつかない重大なミスをしてしまった……。そう女性のしかめた顔が語る。
「危なくなったら止めるべきだったのかなぁ……。いやそもそも渡すべきじゃ——」
 崇高な白で覆われたこの世界の雰囲気を台無しにするような口調でそう自問自答する女性。
しかしもう精神的に収まりがつかないレベルまできているのか、雰囲気ガン無視で『独りマシンガントーク』を開始する。
「あ〜もう、傍観者気取りで興味本位に放置するんじゃなかった……おかげで大惨事だよ〜。いやでもまさか、本当に文字書いて流すとは思わなくて、嬉しいやら緊張するやら……正直、私もうどうしたらいいのか分からなく——」

「——って、こんな場所で言っても仕方ないか……」
 と、やっとここで自分が何をやっているのかに気付いたらしい女性は元の落ち着いた口調に戻り、
もう一度、少女を——美咲を見据えた。

「でも、幾田美咲。自分から命を投げ捨てた以上、キミにも責任はある……」
 今度は何の威圧も込めずただ純粋に、白くなった少女をにらむ。
「その責任と自由を理解したうえで、キミはキミ自身の運命を選択しなければならない」
 石像になってなお、まだこの世界と同化しない。『自分でいたい』と思い続ける少女に敬意を払い、厳しい眼差しでそれを見定める。
「帰っておいで、美咲ちゃん。……現世へ」
 すると、元々白い少女の石像がさらに眩い光を放ち始めた。

「キミの願いは書き換えた。……とりあえずはここから脱出できる」
 この世界から、何も無いこの世界から出ようとする少女に女性は言う。
「でも……もし選択を間違えて、もう1度ここに堕ちるようなら——」
 また不気味で奇怪な眼をこじ開け、トドメとばかりに呪いを吐く。

「その時は……死ぬまで私と『トモダチ』だからね?」