ダーク・ファンタジー小説

Re:  このティッシュ水に流せます ( No.12 )
日時: 2014/10/11 18:48
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: pnk09Ew0)

「……そう」
 父親の言葉を聞いてから美咲がそう言ったのは1分後のことだった。
優しい言葉をかけてくれたことに喜ぶわけでも、ありきたりなセリフを吐いた父親を貶(けな)すわけでもなく、ただ一言「そう……」と言ったきり、顔をふせてしまった。
「…………」
 それをどう感じ取ったのかは分からないが、父親もまた沈黙する。
 そうして、にぎやかな商店街とは裏腹に押し黙ってしまった二人。
 そんな2人の背中を押すように、夕方止んだはずの雨がまた、降り始めた。

「あぁ、また雨か……」
 徐々に強くなる雨を切り口に、ようやく口を開いた父親は美咲に手を伸ばしながら語りかけた。
「おいで美咲、この先のレストランに入ろう。まだ夕食も食べていないんだろう?」

「…………分かった」
 美咲はあくまでもイントネーションの無い淡々とした口調でそれに応じ、さりげなく父親の手を取って、にぎやかな商店街を歩き始めた。

      たった一人で歩くはずだった道を、二人で駆けた。

      涙すら忘れた美咲の頬を、雨粒が……静かに流れ落ちた。