ダーク・ファンタジー小説

Re:  このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.136 )
日時: 2015/03/31 17:03
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: kveurUYU)

「い、嫌……嫌だぁ! 離れて! 離れなさい!!」
 ブキミなその姿に我を忘れ、一心不乱に腕を振り回す美咲。しかし離れるどころかビニール袋はさらに美咲の右腕を締め上げ、美咲の腕を螺旋状らせんじょうに這い上がる。
「ひぃ……っ」
 身の毛もよだつその感触に顔を引きつらせ、言葉を失う美咲。
そんな美咲と入れ違いに、突如どこからか声が聞こえてきた。

『オマエ、ミサキ。ヵ?』
 機械のような、それでいて妙にハキハキとした声。
美咲は恐怖におののきながらも、その声を辿る。
『ココダ、ココ』
 するとその先にはたった今腕に巻き付いている蛇が——
否、蛇ではない、正しくはたった今美咲の腕に絡みついているビニール袋があった。
「へ? ひょわぁっ!」
 たまり過ぎた驚きが行き場を失っていたのか、生まれて初めて素っ頓狂な声を出す美咲。
その何ともいえぬ絶叫が誰もいない商店街に響き渡る前にヘビ二—ル袋がまた言葉を発す。
『ハナ、サマ待つ、テル。行く』
「行く、って……ちょ」
 自分の知らぬ間に進む会話に戸惑い、ビニール袋に対して質問を投げかける美咲。
『シッカ、ツカマレ』
しかしヘビニール袋は全く聞く耳(?)を持たず、巻きついている腕ごと美咲を引っ張り出した。

「な!? どうなって……」
 考えるまでもなく美咲はビニール袋より体重が重い。
だがビニール袋は器用に、なおかつ力強く美咲の右腕を振り回し、強制的に前進させる。
「ちょっと、まっ」
 腕に巻きついているビニール袋ごときが自分を動かしているという信じられない現象に、美咲も足を踏ん張り必死に抵抗を試みる。が、平均的な女子の運動能力でそんな怪奇現象に抗えるハズもなく、美咲はあっという間に商店街に似たこの場所のさらに奥、路地裏へと引き込まれた。
 
 人間が1人、入るか入らないかほどの幅しかない路地裏の道。そこは現実ではありえないほどに入り組んでおり、ビニールに手を引かれる美咲はまるであみだくじをなぞるように進んで行く。
 入ってすぐ右に曲がって数秒後左、右、左、左、右、左、右。
その先の角を右、右、右、右と3周回った後、左に出てまた左。
 そう、例えるなら全速力で走る船にくくり付けられたボートのように激しく引っ張られ続けた美咲は、さすがにもう思考できる状態では無くなったのか無抵抗のままビニール袋に身を委ねていた。

『痛イ、ヵ?』
 するとそんな美咲を哀れんでか、それとも単に世間話のつもりなのかビニール袋が美咲に話しかけてきた。
「……不思議と腕は痛くない。でも、足疲れた……」
 正直、もう考える気力も無くなってきた美咲は舌っ足らずながらも正直に答えを返す。
何でやっとこのごろ値段がついたような袋(2円)と会話してるのか、とか。
そんな気遣いができるなら腕を締め付けるなとか。
そんなことはもうこの際考えないで、目の前の出来事だけ考えるようにしたようだった。

『ダガ、駆け抜けねば襲われる、ゾ?』
 しかし無料or売値約2、3円の袋が極限まで疲弊ひへいした美咲の精神など気にかけるハズもなく、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「襲われるって、いったい誰に……?」
 もう、この状況自体が襲われているようなものなのに……。
そう思いながら辺りを見渡す美咲。
すると通り過ぎる一瞬、路地裏の物陰になにやら赤く光るものが見えた。

「え?」
 引っ張られているためによく見えなかったが、たしかに見えた赤い光。
その赤い光を追って一瞬、美咲は立ち止まりかけるが、その必要は無かった。
 ビニール袋に手を引かれて進めば進むほどに赤い光が増え、すぐに走りながらでもハッキリと確認できるほどに増殖した。それと同時に、美咲はその光の正体を知る。

 目。
目目目。
目目目目目。
目目目目目目目目目目目——。
 まるで猫のように物陰で光る、真っ赤な目。眼球。
路地裏を走る美咲をギョロギョロと動き回る目で追いかける赤い目玉。
それが赤い光の正体だった。