ダーク・ファンタジー小説
- Re: このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.140 )
- 日時: 2015/04/03 16:40
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: kveurUYU)
「…………」
もはや悲鳴を上げる気力もない美咲はただその光景に絶句する。
それと同時に、美咲は路地裏に響く奇妙な音を聞いた。
初めは取り留めもないざわざわとした雑音だったが、次第に甲高い声が混じり始める。
『サイバンダ……サイバンダ』『サイバンダ……ツルシアゲロ』
『モウ逃げナイ。モウオシマイ』『ココでサバイテ、サバカレル』
今腕に付いているビニール袋と同じ機械のように甲高く、妙にハキハキしたその声は路地裏全体から何重にも重なって聞こえ、まるで何百人もの機械が合唱をしているようだった。
「な……」『見るナ。動きが鈍レバ、喰ワレるゾ』
唖然とする美咲にビニール袋が小さな声でそう囁く。
止まるな、喰われるぞ。と、
しかし声達は、目玉達はまた語り出す。
『コノ子、何シタ』『ナニヵ、無クシタ?』『誰ヵ、殺シタ?』
『テェヘンダ。テェヘンダ』
『人殺シに……親殺シ』『オマケに子殺シ、自分殺シ』
『自分ンも死んで、死人二クチナシ?』『幕が下りレバ、皆死体』
「……っ」
口々に語られるその言葉に恐怖を覚えた美咲は引かれていない左手で片耳を塞ぎ、目をぎゅっと固く閉じた。呪文のように唱えられるその言葉の意味までは分からなかったものの、ひどく恐ろしく感じたからだ。
身を縮め、手を引かれるままに走り、ついにその時が来た。
『もうスグ……モウスグ目的地、ダ』
美咲の眼前から淡い光が差し込む。
ついにこのビニール袋が目指していた場所、この迷路の出口が近付いてきたのだ。
それを告げる声を聞き、美咲は力無くぶら下げていた顔を上げる。
「あぁ、やっと……」
やっとこの苦痛が、地獄が終わる。そう美咲が気を抜いた瞬間のことだった。
路地裏の所々から先程までとは違う、人間に近い温かみを持つ声が聞こえてきた。
『されど誰も聞かないあなたの語り』『聞くが我ら白(Tukumo)の定め』
『さぁさ、今宵の語りは如何程か?』
『モノに語られ、囁かれ……』『迷いし童の行く末、いかに?』
『あぁ、てぇへんだぁ……てぇへんだ、っと』
そしてそれに呼応するかのようにドスの利いた中年男性の声が目の前の出口から聞こえてくる。
この先に誰かが居る。
そう確信した美咲は手を引くビニール袋よりも早く、最後の直線を駆け抜けた。