ダーク・ファンタジー小説
- Re: このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.145 )
- 日時: 2015/04/19 18:36
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: .v5HPW.Z)
「!?」
綺麗な傘とは不釣り合いなその声に美咲はビクッと体を震わす。
どうやらようやく思考が追い付いたようだった。
しかしそんな蚊帳の外に居る人間など眼中にないのか、
美咲の右腕に絡まっているビニール袋は再び目の前の傘と会話し始めた。
『本当デ、ス。抵抗スルので苦労しましタヨ……』
『いやぁ嫌な仕事任せてすまんかったな。人間の言葉に不慣れだってんのによくやってくれたよ』
鼻があるのかは分からないが、どこか美咲を鼻で笑ったような声を発するビニール袋。
「……何で喋れるんですか、あなた達」
その態度に少し苛立ちを覚えた美咲は2人の会話に水を差す。
すると会話に割り込まれた傘は『愚問だな、嬢ちゃん』と美咲に向き直った。
『例えばお前「人間は何で喋れるんだ?」って聞かれたら、最終的に「分からない」としか答えようがねぇだろ? ……喋れるもんは喋れる。そういうもんだ』
「そういうものですかね……」
腑に落ちないという顔で1つため息を吐く美咲。
しかしそれでもまだ納得できないのか、ため息と一緒に美咲の口からまた愚痴がこぼれる。
「それにしてもそんな綺麗な姿でその口調って——」
——が、言い終わらないうちに今度は傘が『愚問だな』と口をはさんできた。
『見た目が綺麗だったら中身も綺麗じゃなきゃいけねぇのか? 見た目が汚らしい奴はみんな悪者なのか?
お前だってそんな綺麗な顔して両親を過去ごと消し飛ばしたんだろ……?』
「な!? 違ッ——」
いきなり予想外の角度から自分の心を抉られ、狼狽する美咲。
『おぉっと……その話は後だ。まずはここまで運んでくれたやつに礼をしないとな』
しかし傘は何食わぬ顔(?)で美咲をなだめると、今度は腕に巻きついているビニール袋に対して2、3回ごろごろと体を揺らす。
『デハ』
するとビニール袋は美咲の腕から離れ、蛇の頭のような先っぽ部分を軽く下げた。
どうやら彼なりの挨拶らしいその行為を見て、傘もまたコロコロと揺れる。
『おつかれさん。ついでにパトカーにも礼を言っといてくれ。職務中にすまなかった、って』
ビニール袋はその言葉に対して静かに頷くと、ねじれていた体をほどき、そのままひらひらと風に乗って美咲の背後に広がる暗い闇の中へと消えていった。
傘はビニール袋が見えなくなるまで見送ると、今度はころころと美咲に向き直る。
『さて、無視して悪かったな……幾田美咲』
- Re: このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.146 )
- 日時: 2015/04/27 16:12
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: CEzLXaxW)
『何でもいい、質問してみろ。可能な限り答える』
端的にそう言い放つ傘。
その声はどこか美咲を馬鹿にしたようでもあり、それでいて何かしらの覚悟を感じさせるものだった。
その声に対し美咲は数秒の沈黙を経て、口を開く。
「一体、あなた達は何者なんですか……?」
大体の見当はついていた。
少なくとも目の前にいる『これ』の正体が人間ではない、ということぐらいは。
しかし美咲は、手探りの意味も込めてそんな根本的な質問を足元の傘に投げかけてみる。
すると傘は『あ〜』と何か長考した後、質問に答えた。
『何者、というか何モノと言ったほうがいいかもな』
発音に違いは無いものの、『モノ』という部分を強調する傘。
『付喪神。モノノ怪。言葉を発し、人並みの思考をするガラクタ……』
続いて自分達を表す単語を何の感情も込めずに読み上げた後、
『要するに化け物だ。……そういう認識でいい』
と、簡潔に言い放った。
「本当の意味での化け物……いえ、『化けモノ』ですか」
化けた道具。付喪神。
おそらく目の前にいる彼(?)は傘が化けた存在なのだろう、と美咲は神妙な面持ちで考える。
『ま、普段はおとなしく人様にこき使われてる、ただの道具だけどな』
対して真面目な空気が嫌いなのか、傘は自虐的な冗談を笑いながら吐いた。
「……それで、その付喪神が何で私なんかに関わってくるんですか?」
真面目な話を茶化す傘に嫌気が差してきたのか、覇気の無い声で話を戻す美咲。
すると気分が変わったのか、傘は真面目に対応する。
『まぁ、第一はお前がこの世界。『向かい』に足を踏み入れたからだ』
「ムカイ?」
初めて聞く単語に違和感を覚え聞き返す美咲に、傘は『この世界の名前だ』と返答する。
『ムカイ、夢界とも呼ばれているこの場所はな。普段動けない俺達にとっての楽園なんだよ』
なにかを噛み殺すように、傘は『楽園』という言葉を吐き捨てた。
もしかして、何かこの世界に思い入れがあるのかな……。
いきなり真剣な声で語る傘を心配してか、美咲はそんな考えを巡らす。
しかし、続いて傘の口から出たのは見当違いの言葉だった。
『お前、学校で消しゴムとかエンピツとか落としてそのまま見失ったことねぇか?』