ダーク・ファンタジー小説

Re:  このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.150 )
日時: 2015/04/24 17:54
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: .v5HPW.Z)

「……え?」
 いきなり何の話……? と言いたげな顔で傘をじーっと睨む美咲。
だが傘はそんな視線などものともせずに話を続けた。
『どこから転げ落ちる一瞬。人の目から外れる一瞬。そういうふとした瞬間に俺達はこっちに来て、移動したあと現世に戻ってゆく……。現実とほぼ同じこの世界、現世と鏡合わせに存在する『向かい』を通ってな』

 と、ここで一度傘は言葉を切り、『あ、気付いてるだろうが、こっちでは俺達でもこんな風に動けるぞ』と、少し風に乗って宙に浮いた。どうやらさっきのビニール袋を含め、この世界の風は道具達が自分を移動させるために引き起こしているらしい。
傘は風に煽られ2、3度くるくると回転した後、ストンと地面に着地し話を続けた。
『そんな場所にいきなり人間のお前が現れたもんだから、警戒してんだよ。みんな……さ』

「…………」
 さっき路地裏を通る時に見た化け物達を思い出したからだろうか。
『みんな』と言う言葉に、なぜか美咲は鳥肌が立った。
しかし恐る恐る辺りを見渡し、美咲はそれが勘違いでないことを知る。
「ひ……っ」
 今美咲と傘が居る商店街の大通りに面した路地裏の闇の中から、
あの赤い目が10……20、30と、こちらを覗き見るように光っていたのだ。

 監視……されている。
美咲は直感でそう確信すると同時に、もうどこにも逃げられないことを悟った。
だが、美咲はすぐにこうも考える。
『もともと自分にとって安全な場所など無いのだ』と。
 引き返したとしても、自分が居かった世界があるだけ……。
どうせ身元を調べられても不明としか出ず、孤児院かどこかに入れられるだけだろう。
そして、仮に元の世界に戻れても……そこには自分の利益しか頭に無い父親と、
怒り狂う母親と無残に壊れてゆく自分しか……ないのだと。

 進むしかない。
それがこの化けモノ達の思惑通りだとしても、自分は進むしかないんだ……。
 そう決意を固め美咲は路地裏の闇から目をそらすと傘に向き直り、大声で質問を投げかける。
「じゃぁ——」『一体どうして私はそんな場所につれてこられたか、だろ?』
——が、その前に傘に見透かされ、自分の言いたいことをそっくりそのまま言われてしまった。

 まるで全てお見通しだといいたげに「ふーん」と鼻で笑う傘に美咲は、
「…………」
 この傘、踏んだらどこか折れないかな、と思いながら、黙って頷く。
それを知ってか知らずか傘は「あはは」と笑うとまた話を切り出してきた。
『なぁお前、ここによく似た場所でティッシュを受け取った覚えはないか?』