ダーク・ファンタジー小説

Re:  このティッシュ、水に流せます (第7章 完) ( No.218 )
日時: 2016/03/16 23:52
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: ngsPdkiD)

「うーん……戯れ?」
「……そうか」
 どうでも良くなったのか返す言葉がないらしく、ただ嘆息しながら苦笑いするパパ。
私がいじりたがりやでママが天然ボケなこともあってか、困り顔とツッコミはパパのトレンドマークになりつつあるな、と少し反省しながら私が吹けもしない口笛で場をつなぐ。
「とーにーかーく。病気が伝染るといけないからお前は下に降りていなさい」
「えー? 十分私が看病し尽くしてるし、このあとやることって“その薬”を飲ませるぐらいでしょ?」
 そう言ってパパの右手を差す。
そこにはいかにも古臭そうな革袋に何か得体の知れない錠剤が入っていた。
 朝、いい薬があると言ったっきり夕方まで帰ってこなかった所を見ると、どうやらこの薬を取りに行くために家を空けていたらしい。

「どーだ? 漢方に詳しい親友からもらってきたんだぞ?」
 そう言いながら革袋を解き、中から深緑色の玉を取り出すパパ。
「オェぇ……なにそれ、大丈夫なの?」
 その気色の悪さに吐き気を催す私。だが、パパは相変わらず顔から自信を溢れさせながらわざとらしく腰に手を当て説明する。
「大丈夫パパも何回かお世話になってるんだ。変なモノは入ってないよ」
「そうは言っても……ねぇ」
 怪しすぎる……。
いやなんか確実に薬局とかじゃ売ってない、完全に中国4000年の歴史やらなんやらで作り出されたっぽいその薬品がどうも胡散臭くて、パパをジトーと睨む私。
 すると案の定パパは数秒で溜息を吐き、部屋の扉を開きながら続ける。
「分かったよ。……その代わり、部屋には入らないように」
 そう言い残してパパは美咲が横たわる部屋の中へ入っていった。
私はパパがそういう人だったという万が一の事態に備えて、ドアからその様子を見守る。
 当然、そういうイカガワシイことなどあるはずもなく、美咲はパパといくらか言葉を交わした後、おっかなびっくりその錠剤を飲んだようだった。

「…………」
 その様子を私は黙って見つめる。
何かおかしな動きがないかどうか、細心の注意をもって凝視する。
 しかしそれも薬を飲んでスヤスヤと眠り始めた美咲の顔を眺めるうちに打ち解け、パパが部屋の中から戻ってくる頃にはいつもとかわらぬ態度で1階へと降りるパパを後ろから追いかけた。

Re:  このティッシュ、水に流せます (第7章 完) ( No.219 )
日時: 2016/06/05 19:08
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: 11yHdxrc)

 綺麗な写真が並ぶ階段を下る私に、パパが安堵の溜息を吐きながら語りかけてくる。
「いやぁ、薬が間に合ってよかったよ。これでだいぶ症状が落ち着くだろう」
 これで一件落着。よかったよかったと背中で語るパパに——私はらしくもない冷静な声で呟いた。
「へぇ……。“間に合った”んだ」
「…ん?」
 私の異変に気がついたパパが立ち止まる。
「どうしたんだ……? トモエ」
 いつも通りの優しい声で気の抜けた態度をとるパパの笑顔をしかし私は冷めた目で、冷めた声で真っ向から拒絶する。
「間に合った、ってどういうこと……? あれって、風邪薬だよね?」
 手が震える……。汗が滲み出る…。
「風邪薬とは限らんさ。まぁ、父さんはよく知らないがそういう症状に効くそうだ」
「知らなくて飲んだの? “何回もお世話になってる”んじゃなかったの……?」
 恐怖に縮み上がった心から、ひたすら強気な悲鳴を上げる……。
そんな私の心を見抜いているのかいないのか、父親はまた冗談ぽく苦笑いを浮かべながら私に向き直った。

「ぉ…おいおい。なんだよヤブから棒に。親をそんな目で睨むもんじゃないぞ?」
 まいったなぁ〜。と頭を掻く父親。
そうかと思うと、さっきの漫才と同じ様にポン! と大袈裟おおげさに手を打つ。
「あぁ〜! まさかお前。まだスネてるのか? 勘弁してくれよ〜父さんの気持ちも少しは——」
「それなら“コレ”について。説明してよ」
 もう……。限界だった。私は階段の壁に貼られている写真の中でも一番近くに張られている、美しい山脈の写真が付いた写真を指差して言う。
「この写真。つい最近までなかったよね……。どうしたの? これ」
「あ、あぁ。それか?」
 何食わぬ顔で答える父。
その表情に一切の動揺は無く、ただ親子の楽しい会話を楽しんでいた。
「クライアントの会社からもらった去年の『世界の絶景カレンダー』が綺麗だったから、パパが切り抜いて張ったんだ。ほら、階段が殺風景だってトモエも言ってただろ?」
 だけど今、私はそんな楽しい会話にノる気は無い。
“意を決して”カレンダーに手を伸ばすと——
「そう。……じゃあ——」
 ——そのまま、山写真が付いたカレンダーに手をかけ一気に壁から引き剥がした。
「この裏にあるのって……どこの会社からもらったの?」

 裏にいたのは……。