ダーク・ファンタジー小説
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.222 )
- 日時: 2016/06/05 19:12
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: 11yHdxrc)
裏にあったのは……『目玉』。
目玉と、おぞましいほどの幾何学的な文字。
否、それは長方形の紙。黒や赤のスミがこびりついた紙。
理解不能な文様と目玉が書かれた紙。
紙。紙。紙、紙、紙。紙。
紙紙紙紙紙紙紙 紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙。
紙紙紙 紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙。
紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙 紙紙紙紙紙紙。
紙紙紙紙紙紙紙紙紙 紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙。
紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙 紙紙紙紙紙紙紙。
紙紙紙紙紙 紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙。
紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙 紙紙紙紙紙。
紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙 紙紙紙紙紙紙紙紙紙。
紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙紙 紙紙。
それが、綺麗な風景が書かれたカレンダーの裏にびッしりと張り付き。カレンダーを剥ぎとった風でカサカサと蠢いている
「これも。……これも。これも、これも! これも!!」
綺麗な川。綺麗な森。綺麗な野鳥。
文字通り綺麗に着飾られた“化けの皮”を剥ぐたび、おぞましいほどの目と紙がむき出しになる。
「説明して。どういうことなの、これ」
もちろん、説明せずとも分かっていた。これが御札であることぐらい。しかしそれでも、私の勘違いであることを祈ってパパの言葉を待つ……が。
「…………」
答えない。……パパは何も答えなかった。
右手で前髪をギュッと握ったまま、うつむき、無言を通す。
その無言を打ち消すように、私の口から「は。……はは、ははは」と乾いた笑いが漏れた。
「おかしいとは思ったんだよね……。突然こんなモノ階段中に貼り付けるから」
気付いたのは2日ほど前。近付くなと言われていた美崎のことが気になって一階から階段を見上げた時、ふと今までなかった写真に気が付いた。そして、
「怪しいと思ってめくってみたら……このアリサマだよ」
あの時、声を上げなかったのはさすがだと思う。……いや。声を上げることすらできないほどの恐怖していたのかもしれない。とにかく私はカレンダーの裏に張り付けられたおびただしい数の御札を目撃し、こうして今日。パパの留守を狙ってその真相を探っていたのだ。
そしてたった今、父はは言った。カレンダーを張ったのは“自分”だと。
だったら知っているはずだ、この御札のことを。言えるはずだ、その理由を。
「…………」
だが父は何も語らない。言いたくないと口を閉ざす。
「ねぇ、さっきの漫才。もちろん半分は冗談だったけどさ……半分は本気だったんだよ?」
だから私はそんな父親を睨みつけると、さながら尋問のごとく抑揚の無い言葉をブッ刺した。
「パパ。……私の大事な親友に何をする気なの?」
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.223 )
- 日時: 2016/03/27 20:34
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: f3VBH/TD)
沈黙。ただ沈黙が続き、まるで時が止まってしまったかのような階段の踊場にふたたび声が響いたのは意外にもスグだった。
「何をするって?」
低い声。
おとぼけた父親が決して出さないであろうその声は、目の前にいる不気味な笑みを携えた男から響く。
ごくり……と。つばを飲む私。
一体これから何を語るつもりなのか。そう身構えた私に告げられたのは、奇想天外な言葉だった。
「助けるんだよ。呪われてる彼女を」
「は?」
「運悪く。この町をスッポリ消し飛ばすほどの“呪い”に取り憑かれた美咲ちゃんを……パパは助けているんだ。な? 笑えるだろう?」
ニヒルな笑みを浮かべながら「ははは」と笑う、男。
「の、ろ…い? 街を、消し去る……ほど、って、な、なに。を、は……は?」
冗談めかした口調で冗談じゃない事実を告げられ、動揺する私。
それでもすぐに胸に手を当て、相手のペースに飲み込まれないよう心を落ち着かせる。
落ち着け……今は落ち着こう。私を動揺させるだけ動揺させて誤魔化すつもりかもしれない。
そう自分に言い聞かせて動揺を隠しながら、間髪入れずに言葉を返す。
「そ、そんな。嘘かどうか分からないけど……親友がそんなトンデモナイことになってるのに、何で私に言ってくれなかったの!? ねぇ! 後ろめたくないなら言えたはずでしょ!?」
声を荒げて詰め寄る私。
しかし父は飄々とした態度を崩すこと無く、それどころか私を蔑むように睨んだかと思うと、「ふぅ…」と短い溜息を吐きながら顔に手を当てる。
「思春期だからなのかなぁ……大人の事情に首を突っ込みたがるのは」
右手を額に当て目を覆い隠した父親は、表情の読めないその顔を私に向けた。
「勘の鋭いお前なら分かるだろう? トモエ。……これ以上、踏み込まない方がいい」
見えなくとも分かる。おそらくその顔は笑っていない。
「コレは“お仕事”。……関係者以外関わるな。分かったか?」
「……そんな言葉じゃ——」
しかしそれでも
「納得できないよっ!!」
私は逃げなかった。
ヤケっぱちに近い最後の正義感を振り絞り、父親の腹目掛けて体ごと突っ込む。
「な……ッ!!」
クリーンヒット。
まさか私が突っ込んでくるとは思わなかったのか、油断していた父親の腹に私の肩がめり込み、そのまま後方へとのけぞらせる。と同時に、私もまた反動でのけぞる。
「……ッツ!」
階段に巻き起こった風で御札がひらひらとはためく。
まるで数えきれない目がうごめいているような感覚に震えながらも体勢を整えた私は、もう一度父に向かって突撃する。
——そのハズ、だった。
「……ぇ」
足に……力が入らない。
カラダが宙に浮く。
ナゼか、はためいていた御札が鈍い光を放っている。
ただの文様だったハズの目玉がギョロリ、と一斉に私を睨みつけてくる。
それと同時に視界が霞んでゆく。意識が遠くなる。
全てがスロモーションのようにゆっくりと流れてゆく世界で——
——私は階段下へ叩きつけられようとしている自分を見た。
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.224 )
- 日時: 2016/03/30 21:14
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: f3VBH/TD)
数秒もせずに目の前が暗転し、あっけなく私は階段下に叩きつけられる。
『……?』
叩きつけられる……と思っていた。
意識が朦朧(もうろう)としているだけなのか。冷たい床に落ちたワリには不思議と温かい。
いや、それどころか顔に接している部分が柔らかい。
「——ェ」
それをわずかに動く右手でさすると、さすり返してくる。
「……ト。ェ」
そんな中、微かに響いて来る声があった。
「……トモエ」
『…パパ?』
壊れていく意識の中でパパの声を聞いた瞬間、自分の置かれている状況を理解する。
『そっか……』
助けて、くれたんだ……。
パパが、身を投げ出して私を助けてくれた。……理由は分からない。
それでも、なぜか私の意識がスーッと軽くなる。
『パパは……やっぱりパパだった』
怖かった、身内を疑うことが。
なにより大好きなパパを疑うことが怖かった。
優しいパパ。たのもしいパパ。
なにより私を好きでいてくれるパパの全てが信じられなくなりそうで……怖かった。
『でも、大丈夫なんだよね? 分かんないけど。分かんないけど……っ、でも私の好きなパパなんだよね……?』
言葉にできない思いを——懇願を、伝われと念じるココロの中で、私はそう確信できた。
怪しげな御札も、豹変した態度も……全部勘違いだったんだ、って確信できた。
『大丈夫。……きっと目が覚めた頃には、いつものパパが待ってる……』
そんな言葉をまどろむ自分に繰り返し訴え、安心しきった私の意識は静かに溶けてゆくかに思われた、その瞬間だった。
『……?』
にゅるり。と何かが、口の中に入ってくる。
私の口の中に何か棒状のものが突っ込まれる。しかし私はすぐにその正体を察した。
『パパ……の、ゆび?』
シワだらけで少し汗の味がするそれは、パパの指だった。
『え……? 何で? 何でパパ、ゆびなんか……』
そう思考した途端、私の口内に何か生臭い味が広がった。
同時に舌の上に何か玉のような物体が乗っていることに気付く。
パパの指はその球体を私の喉へと運ぶ。
舌を超えて。奥歯を超えて。
“奇妙な味がする球体”を私の喉へと強引にねじ込もうとし——
「……ヵッ!!!?」
その意味に気付いた瞬間。
……戦慄した。
パパは。私を抱きかかえているこの人は——。
『あの薬を、私に飲まそうと……しているッ!?』
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.225 )
- 日時: 2016/04/02 12:20
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: f3VBH/TD)
「ガッ……えほ、ゲホッ! ケホッ、ゲホッ! ォヘ、ケホッ!」
必死に吐き出す。目が見えず真っ暗な中。手をバタつかせながら必死の抵抗を試みる。……が、
——ゴクン。
数秒もしないうちに胎動(たいどう)した喉に……絶望した。
飲んでしまった。
父が美咲に飲ませていた薬を……飲んでしまった。
もう必要ないとばかりに引きぬかれた父親の指が、その事実を残酷に告げる。
一気に……頭が真っ白になる。
そんな中。またあの感触が口の中に“戻ってきた”。
「——!!?」
艶めかしい肌の感触が、私の口内を掻き回す。
2個目の薬が私の喉へと押し込まれてゆく。
『………ぁ゛』
飲ませるつもりなんだ。……もっと飲ませるつもりなんだ。
パパは私にあの薬をもっと飲ませるつもりなんだ。
……何のために? そんなの決まってる。
『ぁ、ぁ』
美咲と同じだ……。
真相を知ってしまった私に薬を飲ませて、処分する。ため、に……ぁ——あ……ぁ゛。
『うぁぁあ゛あああああああぁあああああ゛あああぁぁぁああぁあああぁあ゛!!!』
マトモな思考が、粉々に砕け散る。
頭の中が恐怖に埋め尽くされる。
『やだ……』
それでも、父親の指は止まらない。
『やだぁ……やだぁ、嫌だ嫌だ嫌だぁ嫌ァああア!!』
無情に何度も何度も私の喉を突き、薬を押し込む。
そして——
『だれかぁァッ!! 誰か助——』
——プツン。と、
その感触を最後に私の意識は終わってしまった。