ダーク・ファンタジー小説
- Re: このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.40 )
- 日時: 2014/11/29 21:00
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: pnk09Ew0)
「ぇほっ……げほ、けほ……」
ようやく解放された美咲は、床の上で丸まりながら咳き込む。
頭以外は床についていたとはいえ、うつ伏せ状態のまま半分首を吊り上げられていたのだ、無理はない。
しかし母親がそんなことなど気に留めるハズもなく、相変わらずの口調で言い放った。
「返事は?」
「…………はひ」
「は?」
「……はい」
「はぁ……まったく、何でこんな出来損ないを産んじゃったんだか」
口の中を抉られたせいで上手く舌が回らない美咲に母親は再びため息を吐く。
だがどうやらもうこれ以上殴る気は無いらしく、無表情のまま美咲を放置して立ち上がると、真っ直ぐドアへと向かった。
その行動に美咲もまた安堵のため息を吐く。
やっと終わる……。長かったけど、やっともう痛いのも苦しいのも無くなる。
疲弊した頭でそう判断しながら、美咲はゆっくりと体の力を抜いた。
「とにかく……もう二度とお母さんに黙って勝手に外を出歩かないでね?
あんたの居場所くらい携帯電話のGPSで簡単に分かるんだから……」
部屋のドアを開けたところで母親は釘を刺すようにそう怒鳴ると、バタンと大きな音を立てて美咲の部屋から去っていった。
誰もいなくなった部屋で、しかし美咲はまだどこかで母親が見ている気がしてその言葉にうなずく——と同時に圧倒的な違和感を覚えた。
お母さんに黙って?
美咲はすぐに聞き間違えだろうかと、まだ頭の中で反響している母親の声を辿る。しかしその声はたしかに「お母さんに黙って」と告げていた。
その事実に、美咲は回りの悪い頭を無理やり回しながら困惑する。
何で……? たしかに私は家出をしたけど、それは一週間前に返された塾のテストの成績が悪かったからで……黙って出て行ったわけじゃないのに。
それにあの時、母親はしっかりと私が出て行く姿を見ていたし、なにより制服のまま外に出る私を家の外まで追ってきたじゃない……。
それなのに……何で勝手に私が出て行ったことになってるの?
冷たい床で頭を冷やしながら、あいつが出て行ったドアにそう問いかける美咲だったが、
それから三分もしないうちに体から——具体的に言うなら腹部のあたりから「ぐぅぅう……」という間抜けな音が鳴ったので、美咲は「よい……っ、しょっと」という年寄り臭い掛け声と共に立ち上がった。