ダーク・ファンタジー小説

Re:  このティッシュ水に流せます(ハートフルボッコ注意) ( No.63 )
日時: 2014/12/30 21:27
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: eWyMq8UN)

◇憂いを背負うは人のさが  

 美咲の独白((どくはく)が終了しておおよそ5秒後。
所変わらず部屋の隅で母親と相対している美咲は、自分の導き出した結論とその『利用方法』に満足したのか、
こんな状況にも関わらずにやりと笑った。
 『あったこと』を『なかったこと』にできるなら、きっとこの状況だって……。
「この状況だって……どうにかなるかもしれない」

 あくまで自分の推論、勝手な予想でしか無いのは美咲自身よく分かっていたが、
絶望的だと思っていたこの状況を打開できる『可能性』を感じ、怯えていた美咲の目にふたたび光が灯る。
「ちょっと……え? いったい何を口走って……」
 当然と言えば当然なのだが、母親は美咲の考えていることを理解できていない。
 表面上は冷静を装ってはいるが、いつもならただ怯えるだけの娘が急に変なことを口走り、どこかをじっと見つめていることに心の底では恐怖している。
 行動するなら、今だ。
心の中でそう美咲は自分を鼓舞こぶすると、この状況を書き換える手順を頭の中で組み立て始めた。
 
 まずは、スキを突いて目の前のこいつを全力で突き飛ばす。
そうしてこいつが混乱しているうちに、クローゼットを開けて……いや待って。
 ふと、美咲はファミレスでの失敗を思い出す。
書くものがないとどうしようもない。あの時私は鉛筆で文字を書いて失敗したから……。
 思考を止めずに美咲はすぐに辺りを見回し、そして発見する。
「ぁ……筆ペン」
 さっきイスから転げ落ちた時、一緒に落ちてきたであろう筆ペンを。

 筆ペンならティッシュに文字を書ける……。
まずはこの筆ペンを取ってそれからクローゼットにある制服のポケットからあのティッシュを取り出して、そしてこの部屋からでたのちトイレに入って鍵を閉めれば……大丈夫なハズ。
 正直、体力がある方ではない美咲だったが、それでも美咲は新たな可能性に酔っているのか体がボロボロなのも気にせず、妄信的にその計画を実行にうつした。

「———ぃっ!!」
 部屋の角に腰かけていた美咲は、そのまま母親の足めがけて突っ込む。
「!?」
 怯えていたためか、それとも単純に予想外だったのか、母親はバランスを崩し後ろ向きに倒れた。
『よし……今のうちに床に転がった筆ペンを……』
 そのスキに美咲は這いずるようなかたちで筆ペンまで辿り着き、左手で摘み取ると、次の行動に移るために立ち上がろうとした。……が、
「待ちなさぃッ!!」
 母親も体制を崩しただけでひるむハズもなく、ひっくり返ったまま立ち上がろうとする美咲の足を掴んだ。
『マズい……』
 そう思った時にはもう遅く、美咲もまたバランスを崩し、母親と並ぶようにして倒れる。
幸い、倒れた瞬間に母親の手が離れたものの、これはマズいと美咲は母親を睨みながら体制を立て直そうとして、
「え……?」
——あおむけに倒れたことであらわになった母親の腹が、真っ黒に染まっていることに気付いた。

 美咲は初め、ただ母親のお腹がくぼんでいるだけかと思った。
机に付いている蛍光灯に照らされているから、単に影ができているだけだと思っていた。
 しかし、すぐにそれが何なのかに気付き、思わず動作を止めて声を漏らした。

「なん……なの? その……青いあざ」